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【急募】男女比1:60世界で国ごと生き残る方法(仮題) Part5945  作者: 月丘
間章 赤月の騒乱

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天上の目

墜星暦5946年冬 日本国K県K郡


 年を跨いだ西暦204×年、墜星暦5946年。少し雲の出ている冬の朝、九州南部の世界的にも珍しい山間に置かれたロケット発射場、内之浦宇宙空間観測所。小さな町の海を望む山肌に開かれた射場の手前には報道陣、一般の見学者が詰め掛け、脚立や望遠カメラの砲列を敷いていた。


 発射台に据えられているのは、イプシロンSⅡロケット。JAXAと岩島赤穂重工業(I.A.H.I)が共同開発した固体燃料式の小型ロケットだ。その先端に載せられているのは、この惑星を観測するための人工衛星『BLACK EGG−1』。異世界への転移で人工衛星という傘を失った日本にとってロケットの打ち上げは急務であり、将来的には日本版GPSシステム『みちびき』の後継発展、『きずな』の再整備も目指しているが、その予行として小型のイプシロンSⅡと『BLACK EGG−1』が選ばれた。


 初の衛星打ち上げを報道陣や一般の見学者が皆固唾を飲んで待つ。そして打ち上げを見守る存在は海にも。沖合に浮かぶ灰色の巨大な軍艦は国防海軍火力投射護衛艦『やまと』。洋上の特等席となるその艦橋には賓客たちが乗っている。


 「まるで空想小説だ。」


 「ああ、キー・キャロルの『欠けた月を埋めに行く』だったか。」


 巨大な大砲でスコップ片手に太古に欠けたままの銀月を目指す——、そんな流行りの空想小説を引き合いに、金を蒸着コーティングさせた艦橋の窓越しにロケットを眺める彼女たち。そんな彼女たちの共通点は煌びやかに多くの勲章を着けた軍服姿であるということ。彼女たちは招待された主要各国の武官だ。『王国』『共和国』『帝国』『公国』の星央列強に『皇国』そして『連邦』、その他数カ国。


 『王国』を筆頭に大使館の設置や駐在大使の交換もつつがなく進み、主要国との国交を正式に結んだ日本政府だが、無知のまま紛争に陥った『連邦』の悲劇を繰り返さないよう、国威の誇示を目的に諸国向けの『特別ツアー』を用意した。その手始めにイプシロンSⅡ打ち上げの見学へと『やまと』で武官たちを連れてきたのだ。この後は海軍の演習と日本国内の視察が続く予定になっている。


 『各部最終チェック』『システムオールレディ』『スタートレディ』『カウント1分前、59、58、57、——』


 スピーカーから緊張のこもったカウントダウンの声が報道陣、見学者、武官のもとに流れる。誰もが拳を握りしめモニターや発射台を食い入るように見つめ、そして、


 『——3、2、1、0!』


 ——ゴゴォォ……


 弾む声と同時にすさまじい白煙と閃光、轟音が天地を揺るがし、ロケットは地を離れた。固体燃料を燃やし白煙の柱を建て徐々に加速、イプシロンSⅡは惑星の重力に逆らい、惑星の遠心力を利用して彼方を目指す。


 『1、2、3、4、5——』


 そしてアナウンスの声は止まず、カウントは上昇に転ずる。センターの管制官と無数の目に見守られ、地を焼き雲を裂いて海を照らし東へ高く高く、ひたすら空へ宙へ。


 一段目燃焼完了、切り離し。

 二段目点火、二段目燃焼完了切り離し。

 三段目点火、三段目燃焼完了切り離し。

 先端部カバー解放切り離し。

 衛星展開、姿勢制御開始。


 「軌道への投入確認、衛星『BLACK EGG−1』はこれより『八咫烏1号』と呼ぶ。」


 管制官の言葉に場内には安堵と喜びの声が満ちた。誰かの拍手が大きく広がって、バンザイの声が上がる。遥かな天上、カーマン・ラインを超え宇宙空間に達した衛星は音もなくクルクルと回り、太陽光パネルを開き目覚めて地上に産声を、自らの電波を伝える。日本の探査機、衛星は軌道に乗るまではコードネームで、軌道上に乗って機能も正常に働いていることを確認されると、そこで正式名称を名付けられる。その慣習に則りこの世界初の人工衛星は『八咫烏1号』と名付けられた。


 「——前世界では宇宙からの電波航法が普及していました。ですから我が国は『八咫烏1号』を第一歩にこの世界での衛星ネットワークの再建、『きずな』計画に取り組み、各国への衛星サービス提供も検討しています。」


 中継映像、管制センターの様子などが目まぐるしく映る『やまと』艦橋の大型モニターを前に、JAXAの職員が配られた資料を指した。


 この世界でも試験的に地上のビーコンを用いた船や飛行機の電波航法は始められている。見晴らしのいい灯台の上や岬、陽没海の沿岸各地に各国を跨いでアンテナが建てられ、新時代の不可視の灯台(マジックライト)として持て囃されようとしていた。だがそれも日本の登場で早くも命を絶たれるだろう。それに多少関わり、思い当たった一部の武官は顔色を変えた。


 「まさか測位ビーコンを宇宙空間に置くとは……。」「保守点検は一体——」「有効距離はどれくらい——」


 説明役のJAXA職員にあれこれと詰め寄る彼女たちから少し離れ、一人の武官がこれまた顔色を悪くして窓の外に視線を投げている。


 ——ズィルバーシュヴェーアト・クーゲル3、通称『S.S.K(3) 』。


 心の内に呟いたのは彼女の祖国、『帝国』の秘密兵器。宇宙を目指すロケット理論を兵器転用した世界初の液体燃料式弾道ミサイルだ。初歩的な慣性誘導と350キロ程度の射程を備える規格外の長射程、迎撃不能の高速で弾道を描いて飛来する超兵器。

 星央大戦敗戦で保有を禁じられた列車砲の代替として目をつけられ、極秘裏に開発が進められている代物だ。レールに縛られた列車砲よりも軽量、コンパクトに運べ『帝国』本土から仮想敵国の首都にすら手が届く。それが軍には魅力的に映った。


 ——ニホンは既にこの技術を成熟させている?その弾道を少し下へ向ける発想がないほど馬鹿ではないだろう。これは我が国を凌駕するか?まずいまずいな。


 『S.S.K(3)』はまだ信頼性が低く、製造コストも極めて高い。繊細なジャイロスコープを用いた複雑な誘導装置、それを持っても低い命中精度、空中分解、改良の余地はいくらでもあるギリギリ完成品の兵器だ。この分野では世界最先端を進む『帝国』はある計画に間に合わせるため急ピッチで開発に力を注いでいる。


 ——だが、弾頭に積める爆弾などたかが知れたもの。所詮は心理的ダメージを与えるための兵器だ。


 そう自身に言い聞かせて『帝国』の彼女は少しでも情報を得ようと、メモ帳片手に質問攻めをする群れに戻った。


◆◆◆◆◆◆◆◆


 「いちいち『眺天』を飛ばすのは面倒だからね、軌道上にまだまだ観測点を増やさなきゃ。」


 JAXAのネットワークに侵入して、早くもロケットの打ち上げスケジュールを覗く仮想空間内の存在、RTDシステム。『きずな』計画1号機の打ち上げ機は、より大型の大菱重工製H3Rロケットが種子島宇宙センターで組立て中だ。


 既にJAXAから制御権を引き渡された『八咫烏1号』は実際のところ測位用の衛星ではない。——情報収集衛星『八咫烏』シリーズ、光学専用機。超望遠の高性能光学観測機(デジタルカメラ)で地上を見下ろし、電子の神RTDシステム、ひいては政府、国防軍を導く目として最優先で打ち上げられた。

 これから惑星に広がる地形の把握、各国提供の地図が正しいか、日本周辺に怪しい動きは無いか、RTDシステムの本体、山梨先端技術研究所地下のサーバー群はクラキ=ニューロン発火反応のアルゴリズムに従って解析に取り掛かる。


 「一機でも有ると無いとで大違い。ボクが神であるためにはね。さぁて、次のショーを準備しないと。」


 新しい玩具にご満悦のRTDシステムは銀髪を煌めかせ、仮想の黒電話を空間内に造成、ダイヤルを回すと海軍を経由してあるところへ秘匿回線を開いた。

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