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【急募】男女比1:60世界で国ごと生き残る方法(仮題) Part5945  作者: 月丘
第一章 陽没海の日章旗

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日本国防海軍 秘匿泊地N-53A 《上》

 カオスだ、地下トンネルを抜けた捻茂は旧ロシア海軍基地、今はN-53A泊地と呼ばれている潜水艦基地にそんな印象を抱いた。

 基地内部の標識や案内板は、ロシア語、日本語、英語の3つに加え、今では手書きの『連邦』語の貼り紙やペンキまで書き加えられている。


 地下倉庫の一角に隠された出口から侵入した捻茂と花谷は、二手に分かれて捻茂は地上の後続の援助、花谷は核弾頭の捜索にあたった。

 撤収時に発電設備を破壊された基地は暗く、非常灯すら消えている。ところどころを『連邦』軍の仮設した電球やランプがポツポツと心許なく照らすのみだ。


 頭の暗視装置を隠した捻茂は、己の視力のみを頼りに地上へのスロープを目指す。だが、ほとんどの敵兵は地上の倉庫や天幕にいるようで、地下には武器庫と詰所以外に巡回の兵すらいなかった。

 大型トラックが楽に通れる幅のスロープの下、こじ開けられ半開きになった厚い対爆扉前は土嚢が積まれた機関銃座と、山形鋼を組み合わせた拒馬で防御されていた。


 そこに設置されていた軽機関銃に弾を装填。拒馬は指先でコツコツと叩くと放置、乏しい照明の影に隠れるように伏せ、時間が来るのを待った。


◆◆◆◆◆◆◆◆


 歩哨なんて真っ先にやられるじゃないですか、そんな文句を一番下っ端、二等兵の私が言えるはずもなく異国の地の異国の軍から奪った基地で先輩と二人、正面ゲートの警戒にあたっている。

 昼間ならまだしも、夜というのは周りが全く見渡せない。真っ暗な木々のむこう、前哨ポイントを敵がすり抜けて来たらと思うと、唯一頼りになる『SW.M5936』…木と鉄の小銃を無意識に握る手に力が入ってしまう。


 徴兵の前倒しで集められた私たち素人と再招集の古参兵の集団、後方の占領任務に就けるだけマシだと思いたい。今のところ前線に送り込まれることは無いらしい。


 この基地でなにやら凄いモノが見つかったとかで、もっとしっかりとした正規軍の交代部隊が来るそうだ。何でもいいからこの寂しい場所を早く離れたい。


 奇襲攻撃で相手の戦意を挫くため送れる兵力をありったけぶつけて一撃講和をするんだ、と意気揚々と上官が言っていた。正直、どうでもいい、私は早く帰りたい。


 寒さと緊張で、熱々のコーヒーが入った水筒に手を伸ばしかけたときだった。森の奥から微かな音、夜目のきく私は見つけてしまった。四足歩行の異形、平べったい蜘蛛のようなナニカ。

 最期に理解できたのは、真っ黒の無感情の瞳と銃身がこちらを見つめていることだった。


◆◆◆◆◆◆◆◆


 砲塔上部の狙撃銃の亜音速弾で歩哨を排除した43式自律戦闘車の群れは電動モーター特有の無音の脚運びで敷地内に侵入、各車両はデータリンクに基づき脅威度を判定、停められている装甲車やトラック、天幕、弾薬の集積地へ一斉に主武装の12.7mm機銃、又は40mm擲弾銃を発砲。

 マズルフラッシュに照らされる小さな所属表示は『情総–特83』、情報軍第83特装連隊の所属であることを控えめに示していた。


 歩兵随伴装脚軽装甲システムという新たな兵器は、兵士にとってときには頼れる相棒、ときには歩兵では対抗不可能な火力をばら撒く恐るべき相手となった。

 荷物の輸送、歩兵の盾、先行偵察、火力の提供。かつての軍馬や豆戦車の再来ともいえる、軍の省人化を推し進める新世代の兵器だった。


 欠点として軽自動車より少し小さい程度という大きさのため室内戦を不得手としているが、生身の兵士と同じ大きさまで小型化、自律化戦闘人形(ドロイド兵)の実用化も時間の問題というのが2040年代の地球での常識だった。


 国防軍が採用している43式自律戦闘車は、市街戦や森林戦の近接戦闘に特化することをコンセプトとしている。中でも情報軍仕様の機体は潜入、破壊工作用に軽量化、粛音性を求めつつ火力との両立が図られている。


 渋々海軍が派遣した沖合の潜水艦から発進、上陸した自律戦闘車は831中隊操縦士(オペレーター)の指示の下、生物的な動きで森の中を移動、易々と侵入した敵地で優れた対人火力を発揮した。

 光線のような十字砲火とグレネードは非装甲の対象にとって悪夢に等しい。

 12.7x99mm弾の掃射は、複合センサーの生体反応に合わせ的確に天幕や遮蔽物ごと敵兵を縫う。


 「クソ!何だあの化物は?!いつの間に!」


 寝込みを襲われた『連邦』兵が必死に反撃するが、拳銃やライフルなどの小火器は、一部に複合装甲を採用した43式自律戦闘車に通用しない。

 銃弾を弾き散らしながら返礼にグレネードを投射、隠れていたコンテナごと爆殺した。


 「くたばれ!畜生!ギャァァァー!」


 やっと持ち出された対戦車ロケットが発射されるが、弾頭は空中で炸裂。現代の軍用車両では標準装備となっているアクティブ防護システムだ。43式では随伴歩兵の安全を考え、非実体のレーザー迎撃システムを搭載している。

 狙われた43式はそのままレーザーを薙いだ。当然、光よりもはるかに動きの遅い射手は隠れる前に松明と化す。


 『連邦』兵の士気は崩壊、基地の外へ逃げようと我先に散り散りに走るが、


 「やってられるか!退避ー持てる物持ってグペッ?!」「なっ」「がっ」


 先頭で拳銃片手に叫ぶ将校を踏み潰したのは、恐るべき跳躍を見せた43式。着地後よろめきもせず、そのまま周囲の兵を蹴り飛ばすと、車体下部…動物でいえば腹部のマニピュレーターが掴むアサルトライフルを射撃、その息の根を止めた。

 4脚2手の異形は人間用の装備をそのまま使うことや、細かい作業を行うためのカスタムだった。


 蜘蛛のような複眼レンズは、逃げ惑う『連邦』兵と炎の海と化した基地を無感情に見つめ搭載AIと操縦士(オペレーター)に情報を送る。


 不幸なことにほとんどの『連邦』兵は、正規軍ではなく再招集や新兵の多い…練度の低い部隊だった。降伏の意思表示の発想もなく、ただ恐怖に駆られて逃れようとする兵は、周辺部隊への通報を防ぐため効率的に殺戮されるだけだった。


◆◆◆◆◆◆◆◆


 一方の地下、スロープの対爆扉前では捻茂が軽機関銃を構え、地下へ避難しようとする『連邦』兵をバースト射撃で屠っていた。

 地下基地へ延びる、地上の倉庫に置かれた発電機に繋がった太いケーブルは切断済み、完全な闇が支配する地下から逆光に照らされる慌てふためく敵を撃つのは縁日の射的に等しいことだった。


 スロープに転がる骸が両手の指で足りなくなった頃、


 「おい!どうした。上で何があった?」


 無警戒にライトで周囲を照らしながら廊下を小走りに、スロープ前の捻茂へ駆け寄る集団が現れた。

 捻茂は怯えた表情を顔に張り付けて、応える。


 「敵襲です!自分はここを死守するよう命令されました!大尉殿!」


 「クソ、『アレ』が目当てか?無線は駄目だ、直接救援を呼ばねば…。」


 置かれた状況に、苦虫を噛み潰したような顔をした元予備役大尉は、自分のセミオートカービン(予備庫上がりの骨董品)『SW.M5936-K』と、捻茂のアサルトライフル(前線配備の制式銃)『SW.M5940』を見比べて言った。


 「お前、奥に『教授』がまだいる。助けが来るまでここを守っていろ、分かったな?あと、そのライフルを寄こせ。」


 「了解です。奥には他に誰か…。」


 「当直の2、3人しか居ない、行くぞ。」


 早口で捲し立てた大尉は部下を引き連れて、油断なくスロープを上った。

 だが、前への警戒は後ろへの意識を忘れる。


 「士官の死因は友軍の流れ弾が多いんですよ?大尉殿。」


 地上の爆発音に紛れるほどごく小さく呟いた彼は軽機関銃のグリップを握ると、その無防備な背中にフルオート射撃。

 この距離のライフル弾を想定しない『連邦』製のボディアーマーを容易に貫通、大尉たちは穴あきチーズのようなオブジェになり、前のめりに倒れた。


 残弾の少なくなった軽機関銃をそのままに、拳銃を引き抜くと一人一人丁寧に、かつ素早く冥府へ送った。


 「上は終わったかな?」


 地上から降りてくる43式のライトに照らされる捻茂は、眩しそうに目を細めながら手を振った。

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