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【急募】男女比1:60世界で国ごと生き残る方法(仮題) Part5945  作者: 月丘
第一章 陽没海の日章旗

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政変

墜星暦5945年秋 『連邦』首都特別市連邦議事堂


 独立時170年以上前の星泉会議を源流とする『連邦』議会上院議場。解放と自由を象徴する星泉を中心に半円を描く雛壇の席を埋めるのは定数100名の各州代表たち。開場前の議場は配布された資料を読みふける者、隣と雑談を交わす者、彼女たちは様々だがその話題は一つ。


 「ニホンとの落とし所か……。」


 ニホン本土上陸軍の降伏、陽没海艦隊の壊滅、予告された首都空爆の阻止失敗。情報統制が行われていたが、議員たちはそれぞれ独自の情報網をもとに動き、この場に臨んでいた。


 そして議長入場と共に開場を告げる鐘が鳴り、臨時の査問会が始まった。


 「議員(セネター)ベス・トゥール、前へ。」


 進行役の議長に促され壇に上ったのは、今回開かれた査問会発起人のトゥール議員。軍服を脱いだ今もその覇気は衰えず、壇上から声を張る。


 「今回問い質すことははただ一つ『不明勢力からの男性資源保護のための特別軍事作戦』——大統領、貴女はこの結末をどう考えている?」


 威圧を込め睨めつけられた張本人、ローズ大統領は反応を示さず最前の自席で腕を組んだままだ。慣習では、議場での発言は挙手と議長の指名をもって許されている。

 返答の意思無し。のポーズに、反論を予想していたトゥール議員は内心戸惑いつつも、それを隠したまま続ける。


 「……これまでの時系列を確認しよう。まず海底ケーブルの断線を確認した逓信公社の敷設船『フィーロⅢ』が不明武装船に拿捕された。救難信号を受けた海軍駆逐艦が向かうと、不明船はニホンコクカイジョウホアンチョウ——ニホンの沿岸警備隊を名乗り、そして彼らは『転移国家』を自称し国交開設を求め、それに我々は外務省の交渉団を送った。」

 

 その後、交渉団が『フィーロⅢ』と共に持ち帰った資料は『連邦』に衝撃を与え、新たな隣人に沸き立った。


 「互いに現場の理性ある判断で衝突は避けられ、敷設船と乗組員も無事に返還された。だが、ニホンが『1:1』の集団と知った後の方針転換は何か!」


 転移国家の異常な男女比を知った『連邦』政府は態度を翻し、無主地先占(見つけた者勝ち)の原則を主張し軍を送った。建前の上では人道保護活動をする人口維持庁男性保護局の護衛、となっていたが戦車や重砲を持ち込んだそれを見れば初等学校の生徒でも欺瞞だとわかる。

 星央大陸での対『帝国』牽制——オペレーション・マークタイム(NSTO同盟演習)派兵に編制された第一軍は磁気嵐の隙を突き機甲師団と歩兵旅団が奇襲上陸、空挺部隊も首都へと降り立った。だが、日本国防軍の防戦で潰され電撃占領は失敗、逆にサーフォーク海軍基地や首都特別市——『連邦』本土が空爆に晒されている。


 「東海岸は危険に晒されている——陽没海はもはや我らのバスタブでは無くなった!」


 星泉大陸東海岸に蓋をするように現れた弧状列島、切り取られた陽没海は半ば内海と化していた。星央への航路の断絶、『連邦』の貿易相手は西海岸側の東陽よりも、東海岸に面する世界の中心、星央が大きい比率を占める。


 「早期の停戦と航路の確保を!小麦の袋は我が倉庫で腐り、工作機械は星央の船上で錆びている!」


 『連邦』の貿易を端的に表した言葉に、野党側から拍手が起こった。大陸一つ分の肥沃な大地、『連邦』は農産物の輸出国でもある。工業国の地位も高めつつあったが、機械を作るための機械はいまだに星央のシェアが大きい。賛同の拍手に小さく手を振りトゥール議員は壇を降りた。


 「大佐、前へ。」


 替わって出たのは統合参謀本部(ヘックス)の将校。現状の説明役、軍の代表として呼ばれたのだ。原稿一枚を持って彼女は星泉旗に一礼、壇上に着いた。


 「はっ、失礼します。これまでの作戦そして昨日の航空戦、彼我の損害につきましては——軍機により申し上げられません。」


 「ふざけるな!」「どういうことだ説明しろ!」


 制服に身を固め壇に上った彼女は無表情で告げ、議席からは野次が飛んだ。大規模な動員前に『負けてます』などと言えば厭戦気分が高まる。政府上層部は軍事機密を盾に戦況を隠し、動員を掛けようとしていた。


 「知っているんだろう!」「義務を果たせ!」


 「お答えできる権限が有りません、以上——「待った!」


 野次を浴びつつ壇を降りようとする将校を制する鋭い声。議場の後ろ、声の発生源の傍聴席へ注目が集まる。


 「『不明勢力からの男性資源保護のための特別軍事作戦』……ニホンについては私から話そう。」


 雨に濡れた軍用コートを羽織るその声の主、視線を集めた彼女ははらりとコートを脱ぐ。その下からは陸軍の制服と肩章には銀のマスケット銃が4つと金の星、『連邦』軍統合参謀本部(ヘックス)参謀長だ。

 予想外の乱入者に議場は一瞬静まり、またざわめいた。


 「参謀長何故ここに!」「衛視、つまみ出せ!」


 「諸君静粛に静粛に!——証人(ウィットネス)参謀長、前へ。」


 木槌がマカボニーの机に打ち付けられ、議長に嗜められた議員たちが席に着く。議長に呼ばれた参謀長は星泉旗に一礼。身一つで壇に立った。


 「私が呼んだ。ニホンについては彼女が詳しい。」


 トゥール議員に推された陸軍参謀長は議場を見渡し口を開いた。


 「正直に申し上げますと、ニホンに対抗できる戦力は東海岸に残されていません。噂の通り陽没海艦隊は壊滅、さらに極秘事項ですが——ニホンへの上陸軍もすでに降伏を余儀なくされています。」


 出撃したまま戻らない戦艦群と予定を過ぎても現れない空母機動部隊、サーフォーク軍港を中心に悪い風聞は広まっていた。そこに首都上空での航空戦、ニホン軍機に粉砕される『コメートⅠ』を目にしたことで国民の政府への信頼は揺らぎ始めていた。


 「これも嘘か。」


 議員の一人が吐き捨て『橋頭堡確保 首都トーキョーへ進撃中』の見出しが載った新聞を投げた。政府寄りの大手新聞社、紙面には『降下精兵電撃の進出』『解放に涙するニホン』など景気のいい文字が躍っていた。


 「その通りです。我々は皆さんを騙し、ニホンを制圧しようとしていました。だが、それは不可能です。——技術に格差がありすぎる。」


 そして議員たちにこれまでの戦闘報告書をまとめたものが配られた。200機の攻撃を凌ぎ撃ち落とす戦艦、銃弾を弾く鎧を纏った兵士、レーダーに映らない黒い戦闘機、それらに一方的に潰される『連邦』軍が記されていた。


 「何だこれは……。」「記述は正確なのか?」


 「無謀、無策な戦闘で将兵たちは命を散らしている!このまま進めば破滅だ!だが、ここでニホンの意思を確認しよう。」


 トゥール議員の合図で中央へ一台の蓄音機が運ばれる。そしてレコード盤の回転と共にざらついた音が流れ始めた。


 『——ザザッ……『連邦』市民の皆様、こちらは日本政府及び日本国防軍です。先日に引き続き我々の意思をお伝えします。さて、先日の予告に対して首都防空に出動した『連邦』機は何機が残りましたか?対して我が空軍の損失はゼロ。——ザザッ……我々は損害分の賠償を求めます。貴国政府からの返答がない場合は——遺憾ながら()()()()の使用も考えています。我々はこの世界の外から来ました。理性ある判断を貴国政府へ期待します。』


 「詳細は伏せるが特殊兵器、恐るべきニホン軍の切り札。神話の再来、月落海をこの地に生む可能性もあるという情報を我々は掴んだ。」


 墜星暦以前、遥かな太古の時代に隣大陸の星央大陸は東陽と地続きになっていた。だが月の欠片が剥がれ落ち、銀月は欠け、大陸は破片に抉られた。そのクレーターは月落海と輪月山脈として今でも鉱産資源豊富な一帯として残っている。


 「無為な犠牲となるのは市民や将兵だ!貴女は星央で何を見た?!エルザ・ローズ大統領!」


 叫びトゥール議員は机を叩き糾弾、ローズ大統領を睨んだ。それに大統領は拳を握り重々しく立つ。


 「……ぬくぬくと大佐まで昇進、椅子磨き(師団本部付)の元将校が知った口を言うな!」


 二人は20年程前の星央大戦、外征軍で初めて近代戦の洗礼を浴びた第一歩兵師団に属していた。だがその立場は一兵士と将校と隔たりのあるものだった。


 「この程度の損害などかつての『共和国』『王国』『帝国』に比べればささやかだろうが!ニホン解放は国家百……いや千年の計である!ニホンは敵ではない。真の敵は星央大陸にあり!星央と対峙、この『1:60』世界で国ごと生き残る術はこの手の内にニホンを入れることのみだ!あの銀月十字(シルバークロイツ)の剣を砕くことが我が使命で——」


 ——銃声。


 突然響いたそれに議員たちが伏せ、悲鳴と怒号が議場に広がる。そして議場の隅、肩で息をする衛視の手には硝煙の匂いを吐くリヴォルヴァー。議場内には持ち込み禁止のはずの物だった。


 「貴様ぁ!」「取り押さえろ!」


 彼女は震える手で銃を床に落とし、警棒を握った同僚たちに叩かれカーペットの上へ組み伏せられた。そして何事か喚きながら衛視に連れ去られる。


 「誰か医者を呼んでくれ!」


 放たれた銃弾は一発、胸を赤黒く染めたのは——ローズ大統領だった。


 「大統領!何てことだ……。馬鹿めが。」


 何が起きたか分からず呆然としたままの他の議員より速く、トゥール議員は駆け寄ると大統領を抱き起こす。血が肺に溢れ溺れる彼女は弱々しく、だが目だけは議員へ見開いて言葉を喉から絞った。


 「構うな……今の奴を連れて来い……。分かっている、同じなんだ、同じだ、だがこれしか無かった……。」


 「すぐ医者が来る、動かないで下さい。」


 手当てに傷口を抑える人間を払い除けると、大統領は血濡れの手でトゥール議員の襟を掴んだ。


 「巻き込んだな、無能で済まない……後は頼む——」


 「待て、無責任だぞエルザ・ローズ!逃げるつもりか!答えろ!星央で何があった!?」


 議員に肩を掴まれ揺すぶられながら、救護班が議場に駆けつける前に彼女の目からは光が失われた。


◆◆◆◆◆◆


 その後、継承順位に基づき副大統領とトゥール議員を中心に纏まった臨時政権は日本へ講和受諾の旨を電文で伝え、政府の命令の下日本国防軍は動きを止めた。そして日本からは代表を乗せた艦が送られる。

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― 新着の感想 ―
[一言] 『橋頭堡確保 首都トーキョーへ進撃中』『降下精兵電撃の進出』『解放に涙するニホン』などの大本営発表時見た情報操作ですな。 この分だと、戦争に負けて日本の大部隊が首都を占拠する一歩手前でも玉砕…
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