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【急募】男女比1:60世界で国ごと生き残る方法(仮題) Part5945  作者: 月丘
第一章 陽没海の日章旗

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水面下の綱渡り

墜星暦5945年秋 『連邦』首都特別市連邦議事堂


 首都防空戦から二夜明けた翌々日、ミサイルの直撃で正面大階段が崩落した『連邦』の立法を司る白亜の宮殿、連邦議事堂(ドームキャピトル)。庭には120mm重高射砲、前の路上には土嚢と対戦車障害物が積まれ、物々しく睨みをきかせる『スパニエルⅧ』装甲車と完全武装の兵士が立つ。昨夜から降り始めた秋の雨が陣地と彼女たちの軍用コートを冷たく濡らしていた。


 戒厳令下の霧雨漂う首都、アサルトライフルを携えた幽鬼のような兵士の傍をフォグランプを点けた黒塗りの高級車がぼやけた葬列めいてロータリーに入っていく。

 横では芝生に轍を刻み装甲車や対空戦車、可搬式レーダーを載せたトラックが並び、兵士たちもそれを踏み荒らす。緑が薄まり茶色く枯れているとはいえ、来春のため庭師が手入れを怠らないはずの芝生は無惨な荒れ地と化していた。


 「独立——いや、星泉内戦以来か。」


 衛視や議場職員よりも兵士が多い議事堂正面の車寄へ降り立ったのは野党上院議員ベス・トゥール。先の星央大戦の従軍経験を持つ擲弾議員は、独立戦争の激戦地に建てられ80年程前の内戦で破壊、再建された宮殿のドームを見上げた。

 旧宗主国『王国』からの独立戦争、国家を二つに割った内戦、この地に禍が訪れるのはいずれも『連邦』へ大きな試練のときだった。


 「危険です。こちらへ——」


 爆砕された大階段を避け、衛視の案内で彼女は自らの仕事場——上院議場へ秘書を伴い向かう。


◆◆◆◆◆◆◆◆


 少し時を遡り、首都特別市郊外の邸宅が並ぶ一角、トゥール上院議員私邸。


 「いやあ待たせた。確か、北陽没海同盟(N.S.T.O)の定例会以来だったか。」

 

 応接間で家主のトゥール議員を待っていたのは、制服姿の軍人。肩章には銀のマスケット銃が4つと金の星——『連邦』陸軍大将の階級と統合参謀本部(ヘックス)参謀長の任に就く証だ。


 「ええ、お久しぶりです先生。」


 「大佐……とはもう呼ばれない立場か。」


 法で軍籍との兼務は禁じられているため、トゥール議員は予備役大佐の地位も捨てていた。だが軍上層部とのパイプは今でも健在で、軍人の代弁者として知られている。ちなみに同じ擲弾議員のローズ大統領は最終階級が伍長ということもあり、どちらかといえば兵階級だった層からの支持が主だ。


 かつての上官と部下、旧知の仲でもある議員と参謀長はテーブルを挟み和やかに言葉を交わした。


 「——さて、茶を飲みに来ただけでは無いだろう?」


 議員は目を細め、参謀長の横を見る。参謀長の傍らには金属製の黒いアタッシュケース、そしてケースと彼女は細い鎖付きの手錠で結ばれている。——第一級の機密文書を運ぶための専用ケースだ。


 参謀長は神妙な顔でそれに頷き胸元から小さな鍵を取り出すと、鍵とダイヤル錠を回しケースを開けた。そして紙束とファイルをテーブルに出す。


 「本来持ち出せるモノではありませんが、説明に必要なモノです。」


 「『タキアン計画(プロジェクト)』?」


 促されるまま議員が手に取ったのは赤黒い極秘のスタンプが押された紙束。彼女はパラパラとページを捲りながら表紙の文字を口にした。


 「ええ、陸軍でも内々……ローズ大統領にも極秘で最近、特務委員会を設けたものです。」


 議員の目を真っ直ぐ見据え、低いトーンで参謀長は続ける。


 「プルトニウム核分裂反応を利用した新型の超高性能爆弾。」


 ——大統領にも内密の新兵器。その言葉に議員のページを捲る手が止まった。そして書類から目を上げ参謀長を睨む。


 「背信行為だな。」


 軍と国家の最高責任者にも無断の兵器開発とその機密資料持ち出し、表に出れば懲戒免職も避けられない二重の違反を参謀長は犯していた。


 「構いません。——赤の場合計画レインボーレッドプランの実現を防ぐためです。」


 赤の場合計画レインボーレッドプラン、『帝国』を主たる仮想敵に置いた『次の』星央大戦、第二次全星大戦と呼ばれるであろう戦争の計画だ。

 近代総力戦の洗礼——先の戦争で想定以上に自国外で多くの死傷者を出したことに『連邦』国民の間には、星央とは互いに不干渉を貫く孤立主義を支持する雰囲気が漂っていた。軍部でもその方向に合わせ防戦と消極的な北陽没海同盟(N.S.T.O)への協力、橙の場合計画レインボーオレンジプランを策定していた。

 しかし、ローズ大統領がこれを変える。彼女は『悲劇を繰り返さない』ことを公約に政界へ進出、かつて自ら銃を取った星央帰りの伍長は擲弾議員、やがて全ての星泉旗を背負う大統領の座に着いた。そして統合参謀本部(ヘックス)の計画を見て一言。


 ——ぬるい。


 その後テモルー川流域開発を代表に大規模な公共事業など、特需の落ち着いた戦後の経済政策に辣腕を振るう横で修正されたのが赤の場合計画レインボーレッドプラン。積極的な対『帝国』参戦、だがそれは同盟国の失陥後に発動される。国民の星央への不信感すら見越して同盟国の陥落を待ち、その後に疲弊した『帝国』を安全な超高空を往く戦略爆撃機から星央全土を一方的に焼く計画。地上はレジスタンスの支援程度に留め、『連邦』人の犠牲を最小限に抑えるつもりだった。

 北陽没海同盟(N.S.T.O)と協調した防衛ではなく、同盟国を踏み台にした対『帝国』焦土化計画、赤の場合計画レインボーレッドプラン

 そのために、長大な自国の海岸線をカバーするためと偽り異様な航続距離を誇る『パーラエナⅢ』戦略爆撃機や、『ガイペン』級空母を始めとする艦隊、全ては陽没海を封鎖し星央大陸を絞め上げるためにされたものだった。


 「星央からの干渉を未来永劫排除するには、星央を再起不能なまでに壊滅させればいいと大統領は考えています。『タキアン計画(プロジェクト)』を知れば、大統領は確実に星央を焼き尽くすでしょう。だが、我々軍部はそこまで求めていません。」


 軍上層部にとって核兵器はあくまでも他国を牽制するための道具であって、抑止力になればと考えていた。そのため大統領の任期が終わるまで国家指導部への報告は留めるつもりでいた。


 「核分裂反応爆弾、その威力は?」


 ——都市一つかそれ以上。参謀長は試算に基づいた危害想定のページを指す。その従来の爆弾とは文字通り桁違いの威力に議員は目を剥く。


 「前置きが長くなりましたが、——この超兵器を持つ可能性が高い国が最近現れました。」


 「現れただと……まさかニホンか?」


 参謀長は重々しく無言で頷いた。異世界からの転移国家を自称する詳細不明の存在。『連邦』が『不明勢力からの男性資源保護のための特別軍事作戦』を名目に強襲上陸した相手だった。


 「……やってくれたな、エルザ・ローズ。参謀長、情報源と裏付けは確かか?」


 「メイト州とニホンの一部が繋がったことはご存知ですね?極秘裏にメンバーを集めたもので、一人が予備役大尉としてそこへ引っ張られまして。」


 メイト州と繋がった樺太、日本海軍の秘匿泊地N-53Aに踏み入った兵のなかに委員会メンバーが紛れていたことで価値を知った『連邦』は専門家を送った。しかし基地はその後日本情報軍に奪還、爆破され専門家も拉致されてしまった。救援部隊が駆けつけた頃には、基地は自爆と徹底的なミサイル攻撃で無価値な残骸と化していた。


 「なんと……。ニホンはこれを保有し、我々は奪取仕損ねた、と。」


 「報告では、おそらく潜水艦の地下隠しドックだろうとのことでした。」


 「そして、ここからが問題です。これは情報局が集めた『皇国』海軍の写真ですが——」


 ファイルから出したのは2枚の不鮮明な写真。列強の一つ、『連邦』西海岸から大西海を挟んだ島国へ潜入した諜報員が撮った写真だった。


 「超大型潜水艦『須−400』と艦載機『衝嵐』です。」


 近年『皇国』が配備した潜水艦。元々広大な大西海を巡る『皇国』の潜水艦は偵察用の水上機を伝統的に搭載している。索敵能力が劣る潜水艦の目を補う手段だったが、『皇国』はそれを一歩進め、水上攻撃機を複数搭載する大型潜水艦を建造した。


 「従来の潜水艦をはるかに超える航続距離と攻撃機、つまり神出鬼没、陸上深くへ攻撃が可能な空母同然の潜水艦——」


 保管場所が潜水艦基地であったことから、参謀長と情報局は持てる情報から推察を重ね最悪を想定した。


 「ニホンも同じ投射手段を持つかも知れない……というわけか。」


 「このままでは我が国の何処かが灼かれます。何卒ニホンとの講和へ力を。」


 参謀長の背後には額入りの星泉旗と二海を統べる『連邦』全図。外敵からの障壁となるはずの陽没海と大西海が、顎門のように星泉大陸を挟む。


 「『熱さ知らぬ猿、焚き火に手を入れる』か。与党の何人かにも根回しはしよう。」


 深海に隠れ潜む暗殺者が陸上にまで手を伸ばす可能性に、トゥール議員は背中に冷たいものを感じた。未知の超兵器が実在するのかを彼女たちは後々知ることになる。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆


 日の光も上層で吸収され差さない深海——旧太平洋、現在は陽没海と呼ばれる海を漂う鋼鉄の黒鯨、日本海軍戦略原潜『むつ』。


 「ヘッ、ヘークシュン!」


 「やめて下さいよ、閉鎖空間で風邪なんて。」


 人気の無い食堂——調理場で給食員が包丁を握るが艦種故に動きは静かだ。で洟をすすった副長に声を掛けるホログラムの少女。銀髪碧眼白衣の『むつ』艦載RTDシステムは顔をしかめた。高度な自律判断能力を備え、例え乗員が全滅しても役目を果たせるとはいっても同乗者の状態に無頓着とはいかない。手足は多い方がRTDシステムも便利でいい。


 「——イチガヤの連中が噂でもしてるんだよ。だが半永久的に潜れるとはいえ、このメシはどこから湧いてくるんだ?」


 「知らないほうが幸せですよ。」


 日本海軍呉工廠、大菱重工の手で大規模な改修を受けた『むつ』は省人化と共に西側規格にするため、あちこちが弄られている。そのため家主(乗員)の知らないモノが大量に仕掛けられているともっぱらの噂だった。


 「副長、映画見ませんか?火星に取り残されたアメリカ人が自給自足でジャガイモを——」


 食堂の一人と一AIのもとに娯楽用DVDを持った乗員が暇つぶしを誘いに来る。


 「それなら知ってるぞ。ん?RTD?まさか——」


 「冗談ですよ。」


 ニヤニヤと笑い、深海を泳ぐ大海獣(リヴァイアサン)の主RTDシステムはおどけた。

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