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【急募】男女比1:60世界で国ごと生き残る方法(仮題) Part5945  作者: 月丘
第一章 陽没海の日章旗

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払暁作戦 《下》

墜星暦5945年秋 日本国N県N市


 一方、機関砲の掃射でヒト、モノ問わず破砕された4階建ての校舎。保護官と兵士は廊下に机やロッカーを積み重ね抵抗していた。

 軍ではなく保護局が運営する収容所は『SW.M5936-K』カービンすら少なく、リヴォルヴァーを手に立て籠もる。

 不幸なことに風紀上の問題を考えた保護局は兵士の宿営地と収容所を離し、最低限の兵しか置いていなかった。


 「救援は!?」


 「これだけ騒げばほっといても来るでしょう、それまで粘れるかってトコですが。」


 「チッ、保護局(足手纏い)の連中を抱えてか。」


 体育館から遠い棟の校舎、2階の渡り廊下口に拵えたバリケードに伏せ、兵士と保護官は闖入者を待ち構える。迂闊にも『ハチドリ』に反撃しようとした者は機関砲の返礼でバラバラになっていた。


 「空挺を仕掛けてくるとは、何だあの輸送機はデタラメじゃないか。」


 校庭に降りた重ティルトローター機とホバリングする『ハチドリ』、空挺降下といえばパラシュートとグライダーしか知らない『連邦』にとっては青天の霹靂、黒い機体から湧き出る敵兵と連れ去られる市民を窺うことしかできなかった。

 黒い鎧を纏う敵兵を狙う者も居たが、既に小銃弾に撃ち抜かれたとは思えない無惨な姿で廊下に転がっている。


 「撃て!」


 曲がり角から覗いた影にKⅡ改修型カービンの軽快なフルオート射撃と拳銃の斉射、だが銃弾は全て壁と床にめり込んだ。


 「しくじった!手榴弾!」

 

 身を起こし、手榴弾のピンを抜いた『連邦』兵が目にするのは、曲がり角から突き出された太い銃口。


 「やば——ドドドドドッ


 12.7mmの礫は手榴弾を握った『連邦』兵の声をかき消し、肉体を血煙に変えた。そして千切れた指から手榴弾がこぼれ落ち、レバーが外れ飛ぶ。


 「え。」「あ?」


 バリケードごと銃弾に貫かれた瀕死の兵士と保護官が、ころりと床に転がるそれに目を見開いた。


 炸裂。


 爆圧と破片は瀕死の彼女たちを切り裂き、窓ガラスを粉砕。味方の手で介錯される形で冥府に送った。


 「自爆しやがったな。」


 ガラス片と血の飛び散るリノリウムの床を鉄板入りの戦闘靴で踏みつけ、捻茂は出番の無くなった銃剣をつまらなそうに向けると壊れた机を蹴る。


 なるべく破壊は最小限に、と上から伝達はあったがそれをいちいち気にしては兵の命はいくらあっても足りない。兵士一人の育成費と建物の修繕費、人材不足と専門性が高まる昨今の国防軍ではどちらが安いかは明白、建前程度と割り切っていた。


 「行け行け!怪しいのは全部吹っ飛ばせ!ウチは貧乏だからな弔慰金なんて払えんぞ!」


 「ハハハそりゃ無いでしょう!ケチな!」「二階級特進で隊長抜かすチャンスだってのに!」


 8311は軽口を叩きつつ索敵、発砲、刺突、殴打、安全確保の繰り返し。だが、そこには一切の隙も乱れもなく生身より遥かに速く黒い風となって校舎を駆ける。


 重機関銃か対自動甲冑ライフルでの対応を推奨されている自動甲冑(アーマースーツ)相手に拳銃とカービン程度で食い止められるはずもなく、偶に銃弾が複合装甲を削るが順調に『連邦』兵と保護官は排除されていく。


 「ヌルいな。」


 「捻茂隊長、少し問題が……こちらへ。」


 『ハチドリ』の爆音、銃声と悲鳴の合奏もまばらになった頃、隊員の一人が捻茂を呼んだ。

 連れられたのは校舎最上階4階の端、『3-E』のプレートが掛かった教室。


 「く、来るな!」


 そこには警察用の小さなリヴォルヴァーを振り回し、精一杯の虚勢を張る保護官。彼女は大盾を構える8311隊員に囲まれていた。足元には弾切れの『SW.M5936-K』、そして彼女の背後には血染めのコートで腕を押さえる同じ制服の男。捻茂は一瞬市民かと思ったが、顔立ちから『連邦』人らしいと訂正した。


 「ご覧の通りで頑固にコレです。」


 「わかった、説得する。」


 アサルトライフルを部下に預け、弾痕が刻まれた大盾の前に出た捻茂は両手を広げ、努めて朗らかに話しかける。


 「突然押し掛けて済まない。降伏してくれないか?後ろの彼、怪我してるだろ?」


 「男を侍らせて偉そうに!その手には乗らん!」


 パァン


 「隊長!」「大丈夫、豆鉄砲だ。」


 銃弾は、捻茂が被るヘルメットの塗装を剥がした。そしてその彼の手には22口径自動拳銃。二発の銃声が重なる早撃ち、保護官は肩に極太の鈍い針を刺されたような痛みを感じ、銃を落とす。


 「——確保!」


 その言葉で8311隊員は弾かれたように動き、保護官二人を組み伏せた。

 自動甲冑(アーマースーツ)の増幅筋力は人体を簡単に壊しかねないが、自己学習機能が組み込まれた自動甲冑(アーマースーツ)は使い込むほど癖が刷り込まれる。そして装甲板を当てないよう相手の関節を捻り上げる制圧術、人体を壊すことに長けたプロはその限界も熟知していた。


 「説得するって嘘ですか。」


 「言葉通り(パースエイダー)を使ったまで、これも交渉術だ。さて、外に出るか。」


 「ククッ、『侍らせて』なんて言われて、隊長また勘違いされてませんか。」


 バイザーに隠れてはいるが、ムスッとした顔で銃をホルスターに戻し捻茂は教室を出た。


◆◆◆◆◆◆◆◆


 「お嬢——隊長、敵装甲車と歩兵二個分隊が接近!」


 「佐藤、鈴木!刻んでこい!高橋は援護!」


 「イエッサー!」「ヒャッハー!」「了解。」


 外の8312には、騒ぎを聞きつけたのか軽戦車並みの砲塔を載せた6輪装甲車が増援の歩兵を連れ迫っていた。


 『スパニエルⅧ』は主砲に37mm砲と、副武装としてオープントップの砲塔上と主砲同軸に機銃2丁を備える、偵察用の装輪装甲車だ。

 路外走破性が低い上、本格的な戦車には太刀打ちできないが、威力偵察や後方のパトロールには充分な火力と装甲をもつ。


 「だから近くに居させろって言ったんだ!全滅してても知らないぞ石頭め!」


 保護局をなじる『連邦』兵、そこには焦りは無い。浸透できる敵など、大した数も重火器も無いだろうと高をくくっていた。そして彼女たちには装甲車の『スパニエルⅧ』があり、敵には無い。


 装甲車を盾に早足の『連邦』兵二個分隊、その前に鋼鉄の鳥が立ち塞がる。


 「ジェット機、なのか?」


 のっぺりとした薄い機体の左右にエンジンを吊り下げた異様な航空機……空中に静止し、垂直に立てたエンジンから鋭い金属音を轟かせる自律攻撃機『ハチドリ』に『連邦』兵は困惑した。


 「敵だ!叩き墜とせ!」


 その言葉を合図に、交差する対戦車ミサイルと機銃弾の鞭。『ハチドリ』は重機関銃の火箭を軽々と躱し、『スパニエルⅧ』はオープントップの砲塔に直撃を喰らった。

 炎の奔流が内部を焼き、コントロールを失った『スパニエルⅧ』は民家の塀に激突し止まった。


 「退避ー!」「ヤバいぞバケモンだ!」


 盾を失った『連邦』兵は負傷者を引きずり、アサルトライフルを空へ乱射しながら路地へ散る。

 アスファルトと逃げ遅れた『連邦』兵を大雑把に20mm機関砲で削り取った『ハチドリ』は興味を失ったように旋回し、他の戦区へ飛び去った。


 「行ったか……。何人やられた?」


 同格が装甲車と爆死し、生き残った方の分隊長の問いかけに部下が答える。


 二個分隊24人と乗員4人中、装甲車1両が撃破され、乗員含めて戦死8、負傷4。


 「半分近くも……。急ぐぞ戻ってくる前に。」


 負傷者の護衛に数名を残して高校へ急ぐ、だが彼女たちは空を見上げるあまり地上への注意を怠っていた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆


 先行した『スパニエルⅧ』装甲車を追う、トラック数台。

 『連邦』兵を満載したその先頭、指揮用装甲ハーフトラックの荷台で中尉は無線機を弄っていた。


 「——ハウ5聞こえるか、ハウ5応答しろ。チッ、応えないな。」


 耳ざわりな雑音をたてるばかりの無線機に中尉は苛立つ。そして、彼女を苛立たせる存在がもう一つあった。

 

 「出しゃばりが、付いて来なくていいものを……。」


 車列の最後尾には、灰色の車体に緋色のラインを引いた男性保護局のパトカー。

 監視のため中尉の部隊に付いて来たのだが、敵の潜む場所に向かうのにサイレンを鳴らして駆けつけようとする有様で、中尉にとっては煩わしく面倒な存在だった。


 「中尉あれを。」


 「ん、応えない訳だ、やられているじゃないか、止まれ。」


 運転手の指す方向、塀に突っ込み炎上する『スパニエルⅧ』装甲車の脇で、トラックに大きく手を振る『連邦』兵。


 突如、何事かを叫ぼうとした彼女の頭部が柘榴のように弾ける。

 2、3歩たたらを踏んだ『連邦』兵は手を上げたまま倒れた。

 そして装甲車の陰から現れたのは、複数の黒い鎧。背には38式重小銃、肩には防弾大盾、構えるのはカールグスタフM4。


 「全員降りろ!」


 サブマシンガンを手に飛び降りた瞬間、噴煙と直後の爆発、ハーフトラックを破壊した爆風は彼女を地面へ押し倒し、脳震盪で意識を飛ばしかける。


 「ガハッ——。」


 「中尉しっかり!撃ち返せ!重装歩兵気取りかバカめ!」


 後続のトラックから駆け寄った部下の言葉通り、続々と降りた『連邦』兵は銃を構える。『連邦』兵には、自動甲冑(アーマースーツ)と大盾が未開の国の兵士に見えた。

 無慈悲なアサルトライフルと軽機関銃の一斉掃射、『連邦』兵の誰もが建国以前開拓時代の原住民のように穴開きチーズになるのを確信する。

 

 「嘘だろ……。」


 だが襲いかかる6.6mm弾は複合装甲の大盾が雨粒も同然に弾く。


 その弾幕が途切れた刹那、敵は大盾を振りかぶり投げた。

 巨大な鉄塊、フリスビーのように投擲された大盾はライフルを構える『連邦』兵を上下に両断しパトカーに突き刺さる。


 「ひっ。」


 異様な敵と想定外の惨劇に怯む兵士、銃撃が再び始まるよりも速く敵は複合セラミックスの振動軍刀(ヴィブロソード)を抜き放ち、地面を砕き蹴った。


 瞬時に距離を詰められた『連邦』兵が斬り伏せられ、四肢が宙に舞う。


 「何だ!?コイツは!」「助け——」


 敵、8312隊員は滑り込むように射線を避け回転、片手で重小銃を薙ぎ12.7mm弾を撒く。膝から下を失った『連邦』兵が無様に倒れ、助けを求めてもがく。トラックの陰に隠れた兵がフレームごと撃ち抜かれる。

 フロントガラスを突き破るヘルメット、歩道の柵に引っ掛かる銃把付きの腕、道路に撒かれる鮮血と人の内容物、切り裂かれるトラックの幌と穿たれた電柱や流れ弾でボロボロになる民家などの壁、電気信号の残滓で痙攣する死体。


 生身で受けるには過剰な銃撃と斬撃は『連邦』兵に即死か致命傷を振りまく。最新の自動火器で武装した兵士が、ほんの数人の敵を相手に一方的に殺される光景。

 一見不条理なことだが、奈良時代から伝わる武術にはこうある。


 ——小勢で大勢に応ずるとき、敵が飛び道具持ちたれば陣中へ飛び込むべし。縦横に駆け、寄らば斬る寄らねば寄る。弓槍の間合い取らせるべからず。


 当時は全滅必至の手段だったが、大菱バイオミメティクス・テクニカ製自動甲冑(アーマースーツ)の暴力はそれを超える。

 さらに訓練された兵士でも、否、だからこそ至近距離の乱戦では友軍誤射(フレンドリーファイア)を恐れ、動きが鈍ってしまう。ここで錯乱し銃を撃ちまくる者は軍隊から放り出されている。


 「固まれ!囲むな!」「味方に——」


 小銃弾では関節部への集中射撃でも受けない限り、自動甲冑(アーマースーツ)の破壊は不可能だが、『連邦』兵は必死に足掻いていた。


 大口径の銃弾と刃が暴れ狂う殺戮の渦中、朦朧とする頭で中尉は傍に転がったサブマシンガンに手を伸ばす。


 ——あくまだ、ぶかが、ころさなきゃ、やられる。


 だが、銃に触れる前に彼女は意識を手放した。

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