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【急募】男女比1:60世界で国ごと生き残る方法(仮題) Part5945  作者: 月丘
第一章 陽没海の日章旗

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29/55

払暁作戦 《上》

墜星暦5945年秋 日本国N県N市


 未明。東の空は薄く茜色に染まるが、地上はまだ暗い。光の差さない塹壕の中は冷たく夜の露に濡れている。


 主要陣地手前に掘られた前哨ポイントの小さな塹壕にうずくまる『連邦』兵は、早い朝食を摂っていた。


 最前部の壕にまでバケツで届けられ、アルマイトの椀によそわれた温かい湯気の立つ粥。食糧事情が悪化して『茹でた芋よりマシ程度』な非常用固形食をかじる頻度が増えた兵士にとっては、たとえ具が貧しくても身体を温めるには充分だった。


 「あったかい…。」


 「おい見ろよ、卵だ…。」


 ランチョンミートに混じってスプーンに掬われた薄い黄色、生鮮食品かつ嵩張り割れやすい卵は軍隊の野戦食としては上等なものだ。ランチョンミートと卵の麦粥、食事は兵士にカロリーと活力を与える。配給にはさらに豪勢なことに市内のスーパーなどから軍票(紙切れ)と引き換えに徴発した飴やチョコレートもつけられていた。


 かじかむ指先と心を温め腹を満たす『連邦』兵、その頭上をさらに熱いモノが飛び越えていく。

 

 ——ドガァァ…ン


 「な、何だ!?」


 重く腹に響く衝撃音と地揺れ、震源地は彼女たちの後方に置かれた砲兵陣地や高射砲陣地だった。

 急遽決まった侵攻作戦に間に合わせるため支援は爆撃機で補うとされ、進軍の『足手まとい』になる定数3個大隊の砲兵は機甲偵察大隊の増強と引き換えに1個大隊しか配備されていない。


 『連邦』砲兵の射程外から流星群のように飛来した155mm砲弾が空中で炸裂、炎が偽装網を焼き払い破片が野砲や高射砲、自走砲を残骸に変える。応射もままならず貴重な砲兵隊は吹き飛ばされた。


 「退避ー!」


 「わたしがまだ食ってる途中だろうがー!」


 『連邦』兵はアサルトライフルを引っ掴むと慌てて伏せる。小さな壕に屋根など無く、頭を引っ込めることだけが隠れる術だ。

 耕される陣地からパラパラと降り注ぐ土がヘルメットを叩き、急拵えで掘った塹壕の壁が崩れる。

 降り注ぐ砲撃の中、一人の若い『連邦』兵が目線まで穴の外へ頭を出し恐々と周囲をうかがった。


 「バカっ…伏せてろ!」


 古参兵に頭を叩かれると同時に隣の哨戒陣地が爆ぜる。高々と放り投げられる泥や土嚢、火器。そして残骸には人体も混ざっていた。兵士の命は、気まぐれな鍬の女神が緻密な計算と小さな運を基に地面ごと戯れに耕す。

 

 「ひっ…。」


 彼女の目の前へ助けを求めるように、ボトリと降ってきた誰かの腕が塹壕の縁に手をかけた。


 「死にてぇか!?お祈りでもしてろ!」


 引き倒され腰を抜かして穴底にへたり込んだ若い兵を怒鳴りつけると、古参兵は軽機関銃のコッキングレバーを引く。


 「来るぞ、弾込めろっ。」


 鉄の雷鳴に古参兵の言葉は半ば掻き消されるが、彼女の言うとおり砲撃はただの先触れに過ぎない。やがて山の稜線から太陽が昇る。


 ——ドロロロ…


 あまねく地上を照らす旭日を背に疾走する鉄の群れ。逆光は飢えた獣のような異形のシルエットを浮かび上がらせた。

 地を這うように滑り第12旅団の43式自律戦闘車が迫る。第12旅団は設立当初の空中機動部隊に回帰したため機甲車両が少なく、普通科随伴型、対戦車型、自走迫撃砲型、偵察戦闘型、あちこちからバラエティ豊かにかき集められた無人の装脚車両は土煙を立て機関砲の水平射撃や砲撃を始めた。


 「本部!本部!こちら前哨ポイントE11、『脚付き』の戦車30と車両多数が接近!後退の許可をくれ!」


 『了解。E11は放棄、第一次ラインに下がれ。』


 命令に古参兵は通信機を投げるように置き、軽機関銃を手に塹壕を飛び出た。

 一方、若い兵士はひっくり返った椀の横でアサルトライフルを握り震えている。


 「早く出ろ!バカ!」


 今度は出ろという言葉に顔面蒼白で這い出た兵士を連れ、走る。双方から飛び交う砲弾が土柱を交錯させる中、生き残りを賭けて主要陣地の第一次ラインを目指す。


 ——100m、50m。重機関銃を盛んに撃ちかける友軍の塹壕が目前に、駆ける二人の心に安堵と希望が芽生えた瞬間。


 揃って二人の身体と意識は空へと跳ね上げられた。すぐ傍に落ちた81mm迫撃砲弾の着発信管は弾体を破裂させ、敵兵を無価値な肉片に変える。


 「全車停ぇー止!」


 行進間射撃をやめ4脚の群れは脚を突っ張り急停止、農道の畦に沿って列を形作った。その列が2本、3本。自律戦闘車は僅かな起伏や遮蔽物に身を隠し発煙弾を発射、砲塔だけを突き出すハルダウンで再び射撃を始めた。


 「薙ぎ払え。頭を上げさせるな。」「トーチカより迫撃砲を優先的に潰せ狙われるぞ!こっちの上はガラ空きだ。」「了解。」「3号車!対戦車砲の射角に入るな!」


 白煙を隔てた火力の応酬。その分は日本陸軍側にあった。着弾観測ドローンからの情報と戦術ネットワークが振り分ける群れとしての効率的な射撃。『連邦』軍の銃火は次第に数をへらしつつあった。


 「クソッ、一体どんな目しているんだ!」


 何度目かの弾薬ベルトを重機関銃に挿した彼女は悪態をつく。顔の横と足下には金色の空薬莢が山となっている。煙幕を切り裂いて飛来する銃砲弾、そのどれもが吸い込まれるように的確に『連邦』兵に出血を強いていた。

 辺りはまだ薄暗く、敵の姿は煙幕も相まって『連邦』兵にはわからない。片やニホン軍は銃座やトーチカとして隠匿されているはずの戦車を一方的に破壊している。


 視界を遮られ、恐怖に駆られた兵は当てずっぽうに銃弾を撒いていた。

 光の尾を曳いて煙の中に消える曳光弾、敵の突撃は阻止できているようだがかわりに機関砲弾、30〜40mmクラスのそれが狙撃のように陣地を潰す。

 

 「本部、こちらは猛烈な攻撃を受けている!支援を!」


『砲撃はできない。増援を送る。』


 「歩兵ばっか寄越して何になる!?」


 援護するはずの野砲は真っ先に破壊され、攻撃の矛先はトーチカや対戦車陣地に移りつつあった。


 そして第12旅団と同じく第1師団も配置につき、派手な猛火を浴びせ『連邦』軍の目を引く。


 一方、N市南部。こちらにはさらに凶悪な集団が押し寄せ、『連邦』軍に襲い掛かろうとしていた。


 パン、パンと幾つも咲く青白く眩い銀月。朝焼けを閃光で照らしパラシュートでゆっくりと降る照明弾は、塹壕を蹂躙するため、地球では第一次世界大戦、そしてこの世界では星央大戦で生まれたそれを、くっきりと闇から浮かび上がらせた。


 「まだだ。まだまだ…引きつけろ。アレは『テストゥードⅡ』並みに硬いぞ。」


 土嚢を山積みにトーチカと化した『テストゥードⅡ』重戦車。荒い呼吸と共に砲手は発射トリガーに掛けた指を痙攣させていた。


 照準器に映り驀進する黒いシルエット…直線と面で構成された鉄塊、10式戦車が長大な牙めいた主砲の砲口を煌めかせる度、味方が四散し絶叫と怨嗟の声が上がる。

 はやる衝動を抑えトリガーを握る50口径90mm砲、『連邦』最高火力を誇る戦車砲の直撃を受ければ撃破されない戦車などこの世界に存在しないはずだった。


 「クタバレ!」


 一瞬照準器の視界がオレンジ色に染まり、砲炎に蹴り出されたタングステン弾芯の徹甲弾が『テストゥードⅡ』から放たれる。必中必殺の一撃、彼女は敵戦車の撃破を確信した。


 ——カァン


 「ばかな!?」


 しかし、そんな音が聞こえそうなほどあっさりと硬芯徹甲弾は弾かれる。


 「あっ。」


 そして煙をなびかせスローモーションで旋回する敵戦車の平べったい砲塔、薄闇の中で人工眼(カメラアイ)の赤い複眼が無能者を嘲笑うかのように瞬き砲口がまた煌めいた。


 弾薬に引火、爆散した『テストゥードⅡ』を踏み越え自律化10式戦車は鉄条網を引き倒し塹壕へなだれ込む。

 無人銃架の掃射が兵士を引き裂き、軍服混じりの醜い挽き肉が量産される。


 「ハァ、ハァ、悪魔め。外さんぞ。」


 裂けた肩口もそのままに這いずり、対戦車ロケットを掴んだ『連邦』兵は血で霞む目で対戦車ロケットを構えた。そこは奇跡的に10式戦車の複合センサーからは死角、巨獣に突き刺す致命の一撃。


 「道づ——パチュン


 突如、『連邦』兵の上半身は腕だけを残して弾け飛んだ。対戦車ロケットと、主を失った下半身が中身をぶち撒けて地面に転がる。


 「あっぶねえぞヒトマル、前出過ぎだ。」


 自動甲冑(アーマースーツ)を纏い、自律戦車を嗜める国防軍兵士の手には熱を持った38式重小銃。大柄な対自動甲冑用アサルトライフルから放たれる12.7mm口径の三点射は、柔らかい人体を容易く壊した。


 「さて、細かいところは人間さんのお仕事か。日本へようこそ。」


 狭い塹壕内。国防軍兵士は振動軍刀(ヴィブロソード)を抜刀、『連邦』兵はアサルトライフルに着剣。迷彩塗装の異形に『連邦』兵は襲いかかる。


 「死ぃねぇ!」「イャ——!」


 ——白兵戦、アサルトライフル、サブマシンガン、振動軍刀(ヴィブロソード)、士官用サーベル、銃剣、スコップ、果てには拳まで、銃弾が刃物が鈍器が、血と鉄と泥と混じり合う。

 自動甲冑アーマースーツの複合装甲を切り裂く威力の振動軍刀(ヴィブロソード)が『連邦』兵を斃し、鮮血が舞って地面を汚す。複合セラミックスの刀身と増幅された膂力の前に、生身の人体は脆すぎた。

 アサルトライフルの銃床で殴られただけでも、生身の兵士の頭蓋はヘルメットごと凹む。逆に複合装甲は銃弾も刃物も通さず、泥と血に染まるその姿は、かつて星央大陸に星を落とした神話の悪鬼を彷彿とさせた。


 「あ、悪魔だ、神よ…。」


 「んなモンいねぇ!死にたくなきゃ撃ちまくれ!」


 泣きながら銀剣のロザリオを握り塹壕の底に縮こまる兵を、機銃陣地の銃手が叱責する。


 「おい立て!昔、星央大戦で——クソッ、弾よこせた——パチュン


 出る液体で顔面をグシャグシャにした兵が上を向くと、流れ弾で首から上を失った銃手が倒れ込んできた。


 「え?う、オエッ…。」


 ビクビクと痙攣する新鮮な死体を目にした彼女は嘔吐、血と吐瀉物に塗れ頭を抱えて塹壕の隅で震える。


 「死にたくない死にたくない死にたくない…。」


 目をつぶる彼女の上を43式自律戦闘車が駆け抜ける。下部マニピュレータが一瞬アサルトライフルを向けるが、AIは戦意がないと判定し放置、抵抗を続ける奥の塹壕へと走り去っていった。

 鋭い錐のような戦車と装甲兵の突撃に防衛線はあっさりと喰い破られ、早くも『連邦』軍の前線は崩壊した。


 そして戦場から遠く数百km、防衛省本庁舎の国防軍地下サーバー内仮想空間。電子の神RTDシステムは電子の目を通し全てを見ていた。


 脳細胞のネットワークのように忙しなく動き回る隷下の下位RTDシステムを横目に、上機嫌でファイルを捲り茶を啜る。最上位の彼女にとってこの程度の指揮は片手を動かすことも惜しい些事だった。


 『順調順調、ホモサピも健気だね。でもボクの駒たちもいい働きをしているよ。おもちゃ用の実戦データも収集できるし彼らも喜ぶかな。さて——トリフネ、リンドヴルム、突入。』


 赤と青駒の散らばる戦況卓を見下ろし、読みかけのファイル、『(仮称)クラキ=ニューロン発火反応を利用した自律化戦闘人形(ドロイド兵)開発計画』…大菱バイオミメティクス・テクニカのそれを横へ投げると、隷下の自律兵器群と空中機動部隊に命じる。

某所に登場ガジェットが共通する過去作があります。よろしければどうぞ。

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