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【急募】男女比1:60世界で国ごと生き残る方法(仮題) Part5945  作者: 月丘
第一章 陽没海の日章旗

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統合参謀本部の誤算

墜星暦5945年秋 『連邦』国防省本庁舎


 パイのような正六角形の庁舎に置かれることからそう呼ばれる国防省の頭脳、『連邦』軍統合参謀本部(ヘックス)

 首都特別地域の郊外、湾都サーフォークへと注ぐ川のほとりに建てられた地上5階地下2階、鉄骨鉄筋コンクリート構造の要塞めいた建物。

 陸海の『連邦』軍を統べる主たちは、その中庭を見下ろす会議室に集まっていた。


 「——で、全滅したと。」


 最高指揮官たる大統領エルザ・ローズは星の湧く星泉旗を背に、葉の落ちきった植木が並ぶ窓の外を向いたまま呟く。前大戦から、孤立主義を主張し従軍経験者からの支持を背景に大統領にのし上がった彼女の心中は、穏やかではなかった。


 ——沈黙。10人ほど長机に並ぶ星付きの将官や佐官は誰も反応を示さず押し黙り、暖炉の炎だけがパチパチと揺らめいていた。


 「げ、現在までの経緯を改めて説明いたします。」


 前に置かれたカップの茶が冷めたころ、周囲から浴びる目線と無言の圧力にこらえきれず陸軍情報局の少将が資料を手に立った。


 「始まりは先月第二週の七日目に海底ケーブルの断線を確認し、修理に向かった逓信公社の敷設船『フィーロⅢ』がニホンの国境警備隊、失礼、武装組織に拿捕されたことがニホンとの初コンタクトになります。」


 「信じがたいことですが、この惑星でない星からやってきた『転移国家』を自称し、実際に『フィーロⅢ』の救難信号をうけ捜索に向かった駆逐艦が未知の陸地を発見、持ち帰った資料がこちらになります。」


 茶で唇を湿らせた彼女は、手元の紙束を読み上げる。


 「彼の国…失礼。『ニホン』を名乗る勢力が占有する無主地、ニホンレットウですが、人口1億1千万、我が国よりも若干少ない程度、これがわずか約37万8千㎢の島々に密集しています。」


 『連邦』の人口と国土は、各地の準州を合わせて1億3千万人と約1千万㎢、星泉大陸のほとんどを版図とする大陸国家だ。


 「その後、外務省の使節団が持ち帰った資料によりますと軍事力は陸海空総兵力25万、我が陸軍の半数程度にすぎません。その装備については——」


 情報局の少将は身体の向きを変え、手で海軍参謀長を示した。指された参謀長は——投げやがってお前の集めた情報だろ。と思いつつも顔には出さず立つ。


 「コホン。えー、こちらをご覧ください。」


 スクリーンに投影されたのは、使節団が撮影した日本海軍の『むさし』。


 「まずニホン海軍の戦力ですが、主力艦は戦艦2隻、空母2隻。それぞれ我々の『カイロール』級戦艦、『ガイペン』級空母に匹敵する規模です。しかし数が少ない、これは補助艦にもいえることでフリゲートなどを含めても60隻に満ちません。さらに——」


 画像が切り替わり、『てるづき』型護衛艦の『ゆづき』が映される。


 「ニホン海軍の主力駆逐艦『Teruzuki』級です。ご覧の通り巡洋艦並の大きさですが、武装は貧弱の一言に尽きます。戦艦以外の艦はどれも12.7cmクラスの単装砲を数門備えるのみで、一応駆逐艦、フリゲートの分類はあるようですがほとんど差はありません。」


 『てるづき』型、『あさひ』型、『ちくま』型、『まや』型——。全て平べったい似たような艦型に1門から3門の速射砲や電磁速射砲の軽武装、艦対艦ミサイルを持たない『連邦』の目には頼りなく映った。


 「巡洋艦クラスは無いのか?」


 両極端な編制に一人が声を上げた。


 「それについてですが、ニホンは10年ほど前に戦争を経験しており、その戦力は未だに再建中であると思われます。かろうじて残る主力艦と安く量産できる軽武装の補助艦を整備し、巡洋艦クラスは手に余るのではないかと思われます。」


 実際は『やまと』の就役はシナ海紛争後で、さらに砲の種類が限られるのは対地対艦用の480mm砲と対空用の155mm、127mm砲で棲み分けがされているためだ。

 200から300mmの電磁火薬複合砲(レールガン)はどちらにも火力と速射性が中途半端とされ、日本海軍では採用されていない。


 「もちろん船体が大きいため、強力な備砲に載せ替えることも可能でしょうが、結論としては弱体であると判断しました。」


 文書の翻訳が開戦に間に合わず、分析は限られた写真と会話だけで済まされたため、『連邦』はその戦力を過小評価していた。


 「その結果がこれか。」


 大統領は机に『第一艦隊事件 報告書』と書かれた紙束を投げる。極秘、とインクの濃く滲んだスタンプが押されたそれは、薄さに反して統合参謀本部(ヘックス)に衝撃を与えていた。


 「第一艦隊…主力の水上打撃群が、輸送船団ごと壊滅だと?潜水艦の攻撃を含めても戦艦4、重巡4、軽巡4、駆逐艦16が駆逐艦2隻を残して、敵戦艦1隻に沈められただと?第二軍の3万人が陽没海の藻屑になっただと?」


 ——出来の悪い冗談だ。とローズ大統領は吐き捨てた。


 「その後『Yamato』級と思われる艦は単艦で『クリメガ』『アワキロ』を追跡、これに対し陽没海管区の300、301、345飛行団からのべ200機ほどの『コメートⅠ』『アクィラⅣ』『グラディウスⅢ』『グラディウスⅡ』が出撃し——」


 「——1発の爆弾も当てられず全滅、か。」


 続きを遮った大統領は冷めた茶を啜る。


 「そしてサーフォーク軍港が攻撃を受け第二艦隊は半壊、さらに第三軍を護送予定の第十三航空艦隊と第十二航空艦隊も、また全滅。何だこれは?魔術でも使ったのか?」


 3個艦隊と半分を失って、敵に与えた打撃は海保の巡視船を除きゼロ。戦闘というのもおこがましく『連邦』海軍は一方的に叩きのめされていた。主力戦艦12隻、空母大小16隻のうち一挙に戦艦7隻、空母6隻を失い『連邦』海軍は窮地に立たされる。


 唯一の望みは星央大陸での対『帝国』を想定したオペレーション・マークタイム(NSTO同盟演習)を中止し、日本に奇襲上陸した第一軍だった。


 「現在、リージ中将の第一軍は孤立しています。増援を送り込むかそれとも——」


 「封鎖を突破し第三軍を上陸させろ。」


 陸軍参謀長が言いかけた撤退の二文字をまた遮った大統領は、その顔を睨みつけ強く念を押す。


 「赤の場合計画レインボーレッドプランを一旦破棄し動員をかける。どのみち第二次全星大戦は近い。」


 対『帝国』、星央大陸攻撃用の戦争計画を捨て、本格的な戦争へと進む決断を下した大統領に、陸軍参謀長は何かを言いかけたがやめた。


 「——メイト州と繋がった島へ展開中の第二機甲師団を再編、これを中核に第三軍を作ります。そして第一、第三軍による時間稼ぎの間に西海岸の兵力を集め本格的な第四軍を編制、全力をニホンへぶつけます。」


 陽動として樺太に攻め込んだ第二機甲師団は樺太自治区の郷土防衛軍、日本陸軍北端連隊と第2師団に撃退され、元の国境?にまで下がっていた。


 「しかし、これには議会の反発が大きくなるでしょうが…。」


 「黙れ!軍人が口出しすることではない!文民統制シビリアンコントロールを忘れたか!?いいか?私が『連邦』の代表だ、私が『連邦』の全てだ、私が『連邦』の意思だ、余計なことは考えるな統合参謀本部(ヘックス)統合参謀本部(ヘックス)に与えられた統合参謀本部(ヘックス)の仕事をしろ!」


 突然机を拳で叩いた大統領は声を荒げ、参謀長を叱責する。


 「失敗は許されない。彼の国を我が手に…絶対に星央の手には渡さない、また失うわけにはいかない——」


 熱に浮かされたように資料を片手に握ったまま、うわ言を洩らし窓を向くと濁った瞳は東へ、陽没海を超えて日本列島や星央大陸の方角を睨む。

 狂を発したかのような大統領に統合参謀本部のメンバーは気圧された。


 『不明勢力からの男性資源保護のための特別軍事作戦』、日本の主権を認めず『人道保護』の名目で始めた戦争は『連邦』の思惑を外れ、歯車は狂いだす。


 「苦しいだろうがリージ中将には耐えてもらわねば。」


 大統領の退出後、残された陸軍参謀長が書類にペンを走らせつつぼやく。戦場から遠く離れた彼女は、どこか他人事のようにリージ中将を憐れんだ。

 彼女は深海から不可視の弧線が伸び、そのときがくれば国防省本庁舎(ヘックス)焼き上げたパイ(グラウンド・ゼロ)になることを知る由もない。


 「伍長上がり風情が擲弾議員とは笑わせる。少し出る。」


 「参謀長、どちらへ?」


 星央大戦に従軍した大統領を小馬鹿にし、鞄を持った彼女に情報局少将が問いかけた。ニヤリと口角を上げた参謀長は答える。


 「なに、成り上がりだけが擲弾議員じゃない。」


 そして星泉旗の下で暖炉の燃える薪が一つ、崩れてパチリと爆ぜた。

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