最大多数の…
墜星暦5945年秋 日本国 都内
「戦争はんたーい!」「はんたーい!」「今すぐ講和をー!」
厳戒態勢が敷かれている永田町・霞が関のほど近く、規制線の外でシュプレヒコールを上げる集団がいた。
周囲を警備の機動隊に固められ行進する集団は『連邦』との即時停戦を主張する団体。
一見、政府の方針と一致しているように見えるが、掲げているプラカードには『改悪憲法撤廃』『内閣は総辞職しろ』『武器を置いて話そう』などと書かれている。
一方的に『ずさんな男性資源の管理状態からの保護』を唱え、攻め込んできた『連邦』との戦闘が続くN県で、国防軍が銃を置けばどうなるか、自らの平和的活動に酔う彼らに想像力は無かった。
「国防軍は人殺しをやめろー!」「戦争やめろー!」「国民の声をきけー!」
国防のため、銃後の安寧のために銃をとる将兵への最大級の侮辱を叫ぶ彼らだが、平和のためと本人たちは胸を張っている。
2023年以前ならよく見られた主張だが、第2.8次世界大戦以降この手の団体は絶滅危惧種と化している。
情報軍が設立されてから扇動者を失った団体は、数を減らしつつも純真なメンバーやアイデンティティが他にないメンバーが残り形を保っていた。彼らの脳内に、地図から核で消えた東欧の国はない。
ちらほらと20代くらいの若い戦後世代の顔もあるが、ほとんどが戦前の残滓のようなロートルだった。
非常事態宣言下、無許可のデモといっても、未だに『連邦』空挺兵が潜む都内、これでも税金を払う国民である以上デモ隊には、警視庁から貴重な治安維持リソースの第四機動隊が警護についていた。
そこに、ビルの合間の閑散とした落ち葉の舞う道路をゆっくり走ってきた、装甲車とトラックの車列が近づく。
「ん?軍か、統合ネットワークには無いぞ。」
都市迷彩を見た機動隊員は情報端末をスクロールするが、予定にない部隊の移動に困惑する。
「機動四-3より本部、予定外の国防軍がきた。何か聞いているか?」
『機動四-3こちら本部、少しまて確認する。』
そう言って、問い合わせた無線の先が小さくざわめいたあと、しばらくして回答がくる。
『本部より各局、本部より各局、危険を伴うため現時点で警戒は軍に委任する、撤収しろ。』
警備の機動隊員は命令に訝しむが、装甲車とトラックから続々と降りるヘルメットにボディーアーマー、アサルトライフルまで携えた兵士たちを見て気を取り直す。
車列には、脚先にタイヤを履いた市街戦仕様の43式自律戦闘車まで含まれている。
センサー連動の無人銃架がせわしなく獲物を求めて動く様子に、機動隊員はどこか戦場の匂いを感じた。
「陸軍さんか。」
「以後、我々が引き継ぎます。では——」
口調こそ丁寧だが若干、圧を込めたような兵士の言葉にうながされ、機動隊員たちは青と白のストライプの輸送車に乗り込み去っていった。
所属標示は消されていたが、装備に刻まれた『桜花に交差する本とペン』や43式の下部マニピュレーター用兵装ラックに掛けられた『連邦』製銃器、トラックの荷台の迫撃砲に気づく者はいなかった。
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『7時のニュースです。今日午後2時頃、都内で活動中の市民団体が銃撃される事件がありました。現在の死者は102名——国防軍によりますと都内潜伏中の『連邦』兵の犯行と見られており、引き続き対象地域の市民の方には外出禁止を厳守するよう呼びかけを——』




