Battle of Federation
墜星暦5945年秋 『連邦』湾都サーフォーク海軍基地
海軍陽没海管区の第一艦隊と第十一航空艦隊、沿岸警備の地方隊の母港、世界最大級の軍港として名高い基地は、『連邦』首都へと続く巨大な湾の入り口に位置している。
今、その航空艦隊は陽没海の反対側遥か東、星央大陸方面の同盟国『王国』に派遣され、第一艦隊は表向きには出撃中と公表されていた。
後詰めの第二艦隊分遣隊が停泊する埠頭の横、基地滑走路のそばに『連邦』国立気象局の観測所も置かれていた。
古くから軍事行動に天気というものは多大な影響を及ぼす。そのため、国立気象局の源流を辿ると海軍の内部組織にまで遡ることができる。
「ふぁ〜ぁ。眠た…。」
雲量観察ドーム…仰々しい名前だが有り体に言えば、ひっくり返した黒いボウルを持って観測所の屋上に出てきた彼女は、欠伸を漏らしながら雲の量や風向、風速、視程などを記録していく。
前日の予報は晴れ、だが気温はこの時期にしては低く風も吹いていた。全土に張り巡らされた観測ネットワークは、気象局の正確な予報の支えとなっているが、この日は予報を外すことになる。
「『空澄み渡り、倉満たされる秋』ね。いってこーい!」
古い星央の格言を呟き、滑走路を飛び立つ『コメートⅠ』に手を振ると大きく背伸び。海軍航空隊基地に併設されたここでは、戦闘機の発進などいつもの風景だ。
コンクリート舗装の滑走路から、フワリと浮き上がった『コメートⅠ』は大空に吸い込まれるようにして——爆散。
「え?」
続けて滑走路、高射砲陣地、レーダーの鉄塔が連続して紅蓮に包まれ吹き飛ぶ。
日本空軍によると今日のサーフォーク海軍基地の天気は、施設にはMk.82航空爆弾、航空機には空対空ミサイル、停泊する艦船には空対艦ミサイル、クラスター弾の雨は条約違反のため降らなかった。
「何が…?」
反射的に伏せて熱波と破片をやり過ごした彼女は、震えながら基地の様子を窺う。滑走路はクレーターのような孔がいくつも穿たれ、高射砲陣地は焼けた鉄の残骸と化し、レーダーサイトや格納庫は焔をちらつかせながら黒煙を上げていた。
埠頭を見遣れば、停泊する『カイロール級』戦艦は破口から浸水し傾き始め、準同型艦『ハイゼール級』も戦闘行為が不可能なほど上部構造物が破壊されている。
ヴゥゥゥ——
混乱に追い打ちをかけるように、遅まきながらサイレンが軍港全体に鳴り響き不協和音を奏でる。
◆◆◆◆◆◆◆◆
基地全体を見下ろす陽没海管区司令部の会議室、首脳部は先日の戦闘結果に頭を痛めていた。
「第一艦隊の穴は大西海から回航させる、航空機は…。」
「これも大西海艦隊と南星分艦隊から引っ張る。空母に南星の『アクィラⅣ』を運ばせる予定だ。」
「ニホン空軍の戦闘機は500機程度…敵の数は少ないとはいえ『コメートⅠ』でないとおそらく厳しいぞ、内陸の陸軍機も借りねば。」
本土防衛と第三次上陸船団の護衛計画を練る会議、陽没海管区の司令官は第一艦隊事件の説明に国防省の統合参謀本部へ出頭しているため、司令抜きで会議は進む。
「例の未確認戦艦だが——」
——連続する爆発音が会議室の窓を震わせた。
「事故か?」「大きいな。」
窓際へワラワラと集まった参謀たちが目にしたのは、地上で燃え盛る『コメートⅠ』の残骸。そして、サイレンを鳴らして駆け寄る消防車に突き刺さる——火箭。
さらにタングステンのシャワーが降りそそぎ、地上で撃破される機体を見て悟る。
「敵襲!」「レーダーは寝てたのか!」
非常事態を知らせるサイレンの喧騒は全員の耳朶を激しく叩き、『連邦』初の本土攻撃の衝撃をもたらす。
◆◆◆◆◆◆◆◆
日本空軍は、陸軍主導のN市奪還へ向けて横槍が入らないよう、あらかじめ『連邦』本土の航空戦力を叩いていた。
『滑走路を破壊した。…待て掩体壕から敵機を確認、上がってくるつもりだ。二次攻撃を求む。』
『涼風を突入させる、安全距離を取れ。』
『了解。』
日本空軍303、306飛行隊F−35戦闘機に率いられたAF−3自律戦闘機『涼風』は、亜音速で地上スレスレを駆け抜け、空へ上ろうと這い出てきた『アクィラⅣ』を誘導路に機銃掃射で縫いとめる。
『涼風』は機体に20mm機関砲1門、ハードポイントに短距離空対空ミサイル2発と、空対艦ミサイル2発またはMk.82航空爆弾6発とロケット弾ポッド程度の軽武装だが有人機に随伴して有人機の護衛、敵への攻撃は担える。
通り魔のように20mmバルカンの一閃を浴びせ飛び去るが、有人機には不可能な機動で急旋回、滑走路に舞い戻ってきた。
——キィィィ
押っ取り刀で銃身を空へ向ける自走高射機関砲を探知した『涼風』は、司令部庁舎の窓を衝撃波で叩き割りながら吶喊、12.7mm対空機銃の射程外からハイドラ70ロケットを発射する。
対小銃弾程度しか装甲がない対空ハーフトラックはまともな応射もできず四散、鉄と肉片の混じった無惨な骸を滑走路の上に散らした。
防空脅威を滅して、悠々と地上に駐機された機体…各地からかき集められた『コメートⅠ』、『アクィラⅣ』、『グラディウスⅢ』を刈り取る『涼風』の至近で黒煙が咲く。
機載AIが戦闘不能と判定したはずの『カイロール級』戦艦、高角砲が砲側照準で発砲したのだ。
電力も無く射撃レーダーも旋回モーターも動かない高角砲を人力で操作、放たれた12.7cm砲弾は近接信管が炸裂するものの『涼風』には僅かな破片をめり込ませるだけで、直下の友軍機に焼夷子弾が降り注いだ。
「やめろっバカ!殺す気か!」
機銃の光弾や炸裂する高角砲弾の飛ぶ下、消火ホースを持って駆け回っていた兵が味方に怨嗟の声を上げると、それに応えるように『涼風』がロケット弾を発射、生き残りの高角砲や機銃群を沈黙させた。
『友軍誤射してやがる、手間が省けるな。』
『涼風005被弾、飛行には問題ないが帰投させる。』
『了解、使い捨ては無しか。』
自爆機能を持つ自律兵器とはいえ貴重な戦力、被弾した『涼風』は単機で帰投。F-35と『涼風』は残りの機体を平らげ、近隣基地から要撃機が飛来したときには喰われた元航空機のスクラップが転がるのみだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「アレがニホンの戦闘機…『コメートⅠ』でも勝てるか…。」
割れた窓ガラスの散らばる会議室、ヘルメットを被り包帯を巻いた参謀たちは呆然と東を見つめる。
雌々しいジェットエンジンの咆哮を残した黒い鏃のような生気のない不気味な機体は、『連邦』海軍の最大基地を蹂躙して飛び去っていった。
「500機…アレが500機か。」
開戦前に入手した日本空軍の、輸送機や哨戒機を除いた戦闘機数を繰り返し呟く。
「我々は何と戦い、どこに進む…?」
肌寒い秋風の吹きこむ会議室で彼女たちは自問した。




