Guided Missile Cannon Carrier 《CCGー901 むさし》 《上》
墜星暦5945年秋 陽没海
上空援護の無い艦艇はどれだけハリネズミのように対空火器を備えても航空機に対抗するには心許なく、ましてや鈍重な戦艦一隻の行動など自殺行為。
これは、かつての地球でもこの落月世界でも変わらない共通の認識だ。
だが、神の盾を構えた海戦の王者…『やまと型火力投射護衛艦』はそのセオリーを覆す能力を与えられている。
核融合炉の生み出す大電力とクラキ=ニューロン発火反応を応用した次世代防空システムは、かつての戦艦を復活させた。
ミサイルよりも迎撃が困難な極超音速砲弾を放つ電磁火薬複合砲、それを搭載するための大柄な船体、核融合炉の有り余る電力を纏わせた電磁装甲、イージスシステムの後継、電子の神の分霊を中核に置いた防空システム、日本海軍が世界に先駆けて配備した戦艦は、落月世界で真価を発揮しようとしていた。
『連邦』第一艦隊と輸送船団を撃破した『むさし』は、2隻の駆逐艦を追う。
第一艦隊の生き残り、駆逐艦『クリメガ』『アワキロ』からの狂ったような救援無電を受けた『連邦』海軍陽没海管区司令部は、ただちに陸上基地から索敵機と迎撃機を発進させる。
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「何があった…?第一艦隊。空母は留守だ、誤報であってくれ…。」
格納庫から曳き出される双発攻撃機『グラディウスⅢ』と、周囲で慌ただしく動き回る整備員を横目に基地司令は祈る。他にも第151飛行団所属機との連絡も途絶えたという報告は、司令の背筋を冷やすには充分なものだった。
本来ならこの任を負う航空艦隊は日本列島と陽没海の彼方、星央大陸にある事情から派遣されていた。
今、陽没海に面した『連邦』東海岸を守護する艦隊は、砲装水上艦が主力の第一艦隊と第二艦隊…前者亡き後、整備中の第二艦隊が駆けつけるまで陸上航空隊と僅かなフリゲート、魚雷艇群でそれをカバーしなければならなくなった。
もし、『連邦』本土に攻撃を受ければ、海軍の面子は失墜、ひいては世論を押し切ったニホン侵攻計画に異を唱える声が大きくなることを上層部は恐れていた。
大量の男性資源を確保することを約束して、議会をねじ伏せたニホン侵攻計画に失敗は許されない。開戦以来初の敗北に『連邦』軍は、衝撃を受けていた。
司令の思いを乗せ、出撃準備を終えた機から、われ先に『グラディウスⅢ』第一次攻撃隊40機と護衛の爆装『コメートI』は次々と東に飛び立つ。
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洋上迷彩の灰翼を碧天に連ねる『グラディウスⅢ』攻撃機は、翼に250kg爆弾2発と胴体に特殊兵装…ようやく実用化に漕ぎつけた対艦ミサイル『ピルムMk.Ib』を下げている。
母機からの誘導を必要としていた、半自動指令照準線一致誘導方式のaタイプから、赤外線ホーミング方式に改良されたbタイプは、撃ちっぱなし能力を獲得している。
その分、調達価格が高価になってしまったが、陽没海管区には優先的に配備されていた。
『連邦』の誇る射程20㎞の投槍は、前時代の遺物に過ぎない戦艦を一方的に叩けるはずだった。
偶然、この空域に居合わせた高性能哨戒/観測用レーダーを備える哨戒仕様の『グラディウスⅢc』は、駆逐艦からの通報を頼りに獲物を発見する。
「見えたっ…!攻撃隊に連絡、『独航する敵戦艦を発見、座標ーー』」
レーダーの反応に導かれ、目視できる範囲まで接近した眼下の敵艦は白い航跡を真っ直ぐ曳きながら、一隻の艦も、一機の護衛機も伴わず、東海岸へ航行していた。
実際には、無人機が簡易的な空の傘を展開していたが、ステルス形状と迷彩効果で発見されることは無かった。
「正気か?何を目論む、ニホン海軍。」
常識では考えられない行動をとる異世界の巨艦に、狂人を見るような眼差しとどこか薄ら寒い予感を機長は向ける。
鉛色の刀身を想わせるステルス船体の巨艦、Guided Missile Cannon CarrierーーCCGを冠する『むさし』の艦中央奥深く、複合装甲で堅牢に防護されたFIC。薄暗い照明と全周スクリーンが中将と要員をほのかに照らす。
「ーー上空の敵機から電波の発信を確認。」
「見つかりましたな、司令。ハイタカで堕とすかRTDに任せますか?」
いや、観測者が必要だ、と中将は手元のコンソールを叩き無人機の映像を拡大、自らの足下に座す電子の神の依代を一瞥する。
無人機ハイタカは自衛用に、機載用に改修された携SAMと対艦ヘルファイアⅡを下げているが、上空の敵偵察機を放置することに決めた。
いよいよ始まる『むさし』独演会の特等席に招待された『グラディウスⅢc』は、仲間を死地へと呼び寄せる。




