2021.10.03.『騒がしいコンサートホール』と『紅茶』のご飯を食べる話
初出:2021.10.03.(日) Twitter
お題:騒がしいコンサートホール が舞台で『紅茶』が出てくるご飯を食べる話を7ツイート以内で書いてみましょう。
タグ:現代,日常,社会人,カップル,喧嘩,
【1/7】
「散々いろんな音楽を聴いてきただろうに、最後の最後にコイツが聴くのが俺らの機械音ってのも可哀想だな」
「柄にもなく感傷的っスね」
「俺の娘がこんなちっちゃかった頃、ここで初めてピアノ弾いたんだ。パパー!って手ぇ振って、可愛かったな。あの頃は」
感慨深げに、現場監督がコンサート
【2/7】
ホールを見上げる。けれど仕事は仕事。
「始めるか」
その合図で、俺たちは作業に取り掛かる。
コンサートホールの解体。
市民の交流の場でもあったここも老朽化が進み、先日、建て直しが決定された。古い建物を残すという案もあったが、結局、交通の便や何やらの都合で、同じ地に新しい建物を
【3/7】
用意することになった。
解体作業なんて五月蝿いことこの上ないのに、大勢の住民が様子を見に来た。
皆、かつて自分が、子どもが、孫が、恋人が、見知らぬ誰かが立ったステージを遠くから眺めた。
「コイツが最後に聴く音、俺たちの解体の騒音じゃなくて良かったっスね」
現場監督は、フンッと
【4/7】
鼻で笑う。
「それより、おまえは大丈夫なのか?最近、失恋したんだろ?」
「なんで知ってるんスか…」
「親方を舐めんな」
ヘヘッと笑って去っていく現場監督と入れ替わりに、若い女性が俺に近寄ってくる。
「危ないですよ!今は休憩中ですけど、もうそろそろ作業を…」
「紅茶、飲まない?」
【5/7】
よく見れば、それは数日前に喧嘩別れをした元恋人で。
「何で…」
戸惑う俺に、彼女は「はい」と冷たい紅茶の缶を押しつける。
「懐かしいな。告白の場所、ここだったよね」
そう言って、もうほとんど瓦礫と化したコンサートホールを見つめる。
「仕事してるとこ、時々見に来てた。知ってた?」
【6/7】
「いや…」
「だろうね。馬鹿みたいに真面目に働いてたし」
「馬鹿は余計だろ」
「…差し入れ、あるよ。サンドイッチ。お昼に食べて」
差し出されたのは、赤いバンダナに包まれた弁当箱。
「それと、…ごめん。喧嘩、私が悪かった」
「ばーか。初めっから素直にそう言え」
「働いてるとこ、格好
【7/7】
良かった。惚れ直したかも」
微笑する彼女は、出て行った時より髪が短く、どこか頼りなく見える。
「もう少し見てくか?コレ、一緒に食おう」
「…うん!」
具は、俺の好きな卵とハムだった。
照れ隠しで「美味い」とベタ褒めした。
最後にコンサートホールに響いたのは、明るい笑い声だった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!




