2021.09.30.『真夜中の堤防』と『紅茶』の片想いの話
初出:2021.09.30.(木) Twitter
お題:真夜中の堤防 が舞台で『紅茶』が出てくる片想いの話を7ツイート以内で書いてみましょう。
タグ:現代,社会人,片想い,先輩ヒーロー,東京,
【1/7】
「今日のプレゼン、悪くなかったのにな」
励ますようにそう呟く後ろ姿が、ちょっとだけ憎らしい。
「でも、結果が全てですから」
可愛くない返事しかできない自分は、もっと憎らしい。
ううん、嘘。
東京タワーが見える、人気のない堤防。残業を頑張ったご褒美に、と、後輩の私を何食わぬ顔で
【2/7】
こんな思わせぶりなところに連れてくる先輩の方が憎らしい。
タクシーの深夜料金なんて気にもしないで、「いいところ、連れてってやる」なんて。
闇に紛れそうな濃紺のスリーピースを追いかけながら、私は今日のダメダメだった自分を反省する。
アレもできなかった、コレもできなかった、と
【3/7】
後悔ばかりが胸で疼く。
「気分が晴れるかなと思ったんだけど、そうでもなかったか?」
東京タワーを見上げていた先輩が、肩越しに振り返る。三歩後ろの私は、涙を堪える。
「新人の頃、俺も先輩に連れてこられた。飲め、食え、忘れろ、でも覚えとけ、ってめちゃくちゃなこと言われた後で」
【4/7】
懐かしそうに目を細める顔を、斜め後ろから見つめる。
私に気づきもしない先輩は、もっともっと憎らしい。
「あ、自販機。待って、喉渇いた。お前も何か飲む?」
堤防にぽつんと佇む自動販売機は、なんだか痛ましくて、寂しそう。
それに、憎らしい。
先輩に見つめられて、先輩の役に立って。
【5/7】
完全に今の私より先輩の中で高ランクだ。
「…紅茶。あったかいやつがいいです」
「好きなの選べ」
お金だけ入れてくれる先輩に、私は膨れっ面を向ける。
「ヤです。先輩が押してください」
「何だ、駄々っ子か?ったく、しゃーねぇな。…俺、一応先輩なんだけど」
ガコン、と勇ましい音が
【6/7】
して、私の好きでも嫌いでもないストレートティーが落ちる。先輩は、それを取り出して、また小銭を入れた。別のボタンが押され、今度はレモンティーが落ちる。私の好きでも嫌いでもない、レモンティー。
「両方やる。今夜飲んで、あと一本は明日の朝飲め。で、明日からまた気を引き締めて次の
【7/7】
仕事にかかるぞ」
温かな二本の缶が、涙で滲む。
「…先輩、すみません。私、今日—…」
「覚悟しろよ。明日からまたお前の苦手なプレゼン、ガンガンしごくからな」
憎らしい。
「そんで、今回のミスを挽回するような契約取れたら、お前の好きなミルクティー、買ってやるよ」
本当に憎らしい。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!