2021.09.29.『誰もいないコンサートホール』と『積み木』の失恋する話
初出:2021.09.29.(水) Twitter
お題:誰もいないコンサートホール が舞台で『積み木』が出てくる失恋する話を5ツイート以内で書いてみましょう。
タグ:バッドエンド,失恋,ファンタジー,中世ヨーロッパ風,自死
【1/5】
作曲に専念する、と言って、青年が王からクラシックホールを借り受けたのは数日前のこと。
芸術に造詣の深い国王は、青年の父を宮廷音楽家として召し抱え、また、その息子にも厚い重用の意を示していた。幼い頃から父をも凌ぐ才能を開花させていた青年は、度々、晩餐の場で貴人たちを魅力した。
【2/5】
国王は、赤子の頃から親交のある青年に、快く、愛娘の名を冠した音楽堂を貸し与えた。
青年は、一心不乱に音を奏でた。断片を漏れ聞いた使用人たちは、神々しいその音色に酔い痴れたという。
◆
青年が音楽堂に姿を隠して、はや数日。国王の愛娘の門出の日がやってきた。
隣国への輿入れに、
【3/5】
王は可能な限りの支度を整えた。
煌びやかな馬車の中で、一等煌びやかなそれに、美しい姫が乗り込む。
そこへ、護衛に止められながら旧知の音楽家が跪く。
「姫、進言をお許しください。愚息からの言伝と献上の品を…」
差し出された楽譜を、稚い姫は笑って拒む。
「いらないわ。他の殿方からの
【4/5】
贈り物なんて、未来の旦那様に申し訳ないもの」
あどけない少女は、振り返ることもなく異国へと去ってゆく。
後に残された音楽家は、息子の作品を拾い集め、その音色を夢想した。
プレスト――急速に。フォルテッシシモ――極めて強く。アジタート――激しく。
若さあふれる楽曲は、唐突に真っ白な紙
【5/5】
へと変わる。最後に記された文字は、コン・アニマ――魂を込めて。
◆
同じ頃、青年も音楽堂から旅立った。隣国より遥か遠い、二度と戻れぬ地へ向かったという。誰一人彼を見送ることはなかった、と。
◆
譜面は、土に埋められた。
題は『積み木』。
副題は『身分の隔たりのなかった頃の思い出』。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!