2021.11.02.『夕焼けの見えるファーストフード店』と『携帯電話』の悲しい話
初出:2021.11.02.(火) Twitter
お題:夕焼けの見えるファーストフード店 が舞台で『携帯電話』が出てくる悲しい話を7ツイート以内で書いてみましょう。
タグ:現代,社会人,悲恋,別れ話,趣味の合う人,
【1/7】
別れよう。そう決めたのは自分じゃないか。
己への叱咤激励は、もうかれこれ一時間は続いていた。
遅い昼食に、と、入ったファーストフード店。
ほとんど手つかずのまま冷めたポテト。同じく、冷たくなってしまったコーヒー。かろうじて半分だけ食べたハンバーガー。
トレーの上のそれらに
【2/7】
夕陽があたるのをぼんやり眺めながら、懐かしいあの頃を思い出していた。
◇
「少食だね」と、あの人は笑って、私が食べきれなかったごはんを食べてくれた。同期会での出来事だ。くじ引きで偶然隣に座った彼は、大きな体に見合った旺盛な食欲で、瞬く間にテーブルの上をきれいにしてくれた。
【3/7】
食べるのは好きだけどたくさん食べられない。でも、残すのも嫌い。
そんなくだらない不満を受け止めてくれたのもあの人で、「じゃあ、今度一緒に食事に行こう」と誘われた。「好きなものを頼めばいいよ、俺がいるから大丈夫」と。
驚くべきことに、本当に大丈夫だった。
デートは楽しかった。
【4/7】
美しい所作でものを食す彼は、一緒に食事をしていて楽しかった。私たちは、いろいろな場所へ行き、たくさんのものを食べた。
SNSで話題のラーメン。サービスエリアのB級グルメ。会社の近くのメロンパン。懐石料理も、フランス料理も、一緒なら怖くなかった。手料理を振る舞えば、それも美味いと
【5/7】
褒めてくれて、気づけば、アパートは最新の調理器具で溢れた。
でも。
◇
突然の実家からの連絡。もともと体の弱かった母が倒れ、暗に帰郷を促された。
後遺症、リハビリ、いずれ向き合うべき介護という現実。一人娘の私には、帰る以外に選択肢はなかった。
目の前に彼がいる空想をしてみる。
【6/7】
大きな口でハンバーガーを食べるだろう。冷めたポテトは、きっと三本くらいずつまとめて口に放り込むはずだ。そして最後にコーヒーを飲み干して、「美味かった」と満足げに笑う。間違いなく。
美味しそうにものを食べるところが好きで。「いただきます」「ごちそうさま」を欠かさず言うところ
【7/7】
が好きで。幸せそうに笑うところが好きで…。
泣きそうになったところで、テーブルの上の携帯電話が震えた。休日出勤の彼からのメッセージは、いつもと同じ。
『今夜、飯食いに行こう』
返す言葉が思いつかず、私はただ呆然と、散らかったテーブルを見つめ続けた——。
お読みいただき、ありがとうございました。




