61話 アントワネットのお気に入りランキング1位
「ジャポンからいらした三人の美しい女神に――――」
アントワネットが軽やかな声を発する。
「私、いつ会えるのか、いつ会えるのかとお待ちしていましたのよ」
――美しい女神。 アントワネットにハリウッド女優の美貌が通じた!
マリー・アントワネットに女神と言われた!
さらに会いたかったとまで言われた!
計画通りに進んでいるだけよ、といえばそうなのだが。なんだか、ふわふわと麗しい気分に包まれる三人。美女たちの頬は思わずゆるみ、想像が膨らんでいく。
アントワネットに美しい女神って言われたのよ~
二十一世紀に戻ったら誰に自慢しようかしらぁ~と一瞬、脳内がお花畑に変わってしまう。
だめだってば。ここでへらへら喜んでいてはだめ!
最初に正気を取り戻したアイリスが、アンとフィービーのスカートを引っ張る。
周りを見回せば、あちらの奥のソファには悪役貴婦人、ポリニャック夫人もいる。
今のところ、悪意ある 『同業者』 候補ナンバーワンのペネロープもいる。
二人はアントワネットから離れた場所で、隣同士で談笑中だ。
彼女たちから受けた仕打ちを思えば、油断できる場所じゃない。
―――この部屋の貴族たちは、ヴェルサイユに来てから初めてみる顔ばかり。
ここに招かれているならば、たぶん全員貴族なのだろう。それも高位の貴族?
彼らが、アンたち三人に悪意を持っているのか、好意を持ってくれているのか、まだわからない。
さらに ペネロープ以外の『同業者』 がこの場に混じっている可能性だってある。
『同業者』 これはアンたちが名付けた隠語。
同じように未来からタイムスリップした人間のこと。
でも、『同業者』だからといって味方じゃない、仲間でもない。
アンたちを出し抜こうとする敵、かもしれないのだ。
『同業者』は 何人いるのかわからない。男なのか女なのかもわからない。
サンジェルマン伯爵はこう言っていたのだから、気を抜くところではない。
✔ アントワネットを魅了する
✔ 同業者が誰なのかあばく
✔ ポリニャック夫人の弱点を探す
たとえ、アントワネットに気に入られたとしても、ポリニャック夫人や『同業者』に邪魔される可能性がある。
だとしたら、アントワネットだけに集中していたら、いつか足元をすくわれる。
だからこの三つを同時に瞬間的にこなしていくこと。これが今日の仕事で、ものすごくハードな多重任務。
アン、アイリス、フィービー、ひとりひとりが全部をカバーするのは、正直荷が重い。
だから、分担制で戦うことを考えた。
三人のうち誰かが話している時、残りの二人は会話に集中しすぎないと決めた。
そして、周りの貴族たちの観察に集中する。
ひとというものは面白いもので、自分が話す時は自分の表情に意識を向けることができる。
自分がどんな表情をして相手にどんな風に見られたいかを考えながら、話せる。
でも、傍観者の時は?
――――素がでるのだ。
誰かの会話を聞いている時、不快感を覚えれば嫌な表情が、好感を持てば微笑みが。
そして、視線には感情が浮かび上がる。
その表情と視線がアンたち三人に対する思いを物語ってくれる。
誰が敵なのかは、最初の目星はこれでつければいい。最初は仮説からしか始まらない。
直前に三人は自分たちがアントワネットに気に入られるとしたら・・・・・・
――――どこが気に入られるのか、推測を立てていた。
アンであれば、華やかな美貌とアントワネットが好む率直さが気に入られるだろうと考えたし、
アイリスであれば、優雅な美貌とマリア・テレジアを彷彿とさせる女王タイプの威厳が憧れを誘うだろうし、
ひょっとしたらアントワネットが、母マリア・テレジアの面影をアイリスに見るかもしれない。
フィービーはポリニャック夫人同様の、険のないふわっとした美貌、そこから生まれる天使のような雰囲気が、アントワネットに気に入られるだろう。
(【お顔拝見!】 ハリウッド女優はどのくらい美人なの?ヴィジュアルイメージはこちら!を参照ください)
三人三様の美しさだが、必ずアントワネットの中で大好き1番、大好き2番、大好き3番とお気に入りランキングができるだろう。
アントワネットの表情、声色、言葉を見て、お気に入りランキング1位になったものはアントワネットをさらに魅了する。
残りの二人は観察に回る。
誰が『同業者』なのかと、この場の人間関係を見抜き、どう立ち回るのがいいかを人物観察から、仮説を構築していくのだ。
「アントワネットさま、初めてお目にかかります」
たくさんのアントワネットの取り巻きたちが見守る中、三人は華やかに優雅に天使のようにピュアにそれぞれ挨拶をする。
威厳を忘れない、でもにこやかな微笑み、きらびやかなジュエリーも自信をくれる。(58話参照)
そして、アントワネットの目の中に宿る「好意バロメーター」を注意深くチェックする。




