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58話 閑話 アントワネットに対抗意識を燃やす

今回は閑話です。

一切ストーリーは進みませんし、ヴェルサイユ宮殿のトリビアも出てきません。

ご容赦ください。


カルティエはご存知の方も多いと思いますが、ショーメというのも有名なジュエラーです。



 もうすぐにアントワネットに会える!

 三人の心ははやるばかりだ。


 ここは誰にも聞かれる心配のない三人のアパルトマン。


 丸テーブルを囲んで、二十一世紀から持ってきた、チョコレート入りの甘いクッキーと温かいハーブティーのお茶の時間を過ごしている。クッキーはしっとりしていて、食べ応えがある。


「アン、アイリス――」フィービーがテーブルに赤い箱を置いていう。


「なあに?」シフォンの声を心地よく感じながら、アンが尋ねる。


「アントワネットに対抗するハイジュエリー―― 二人も持ってきたんでしょ?」 


 言いつつ箱をそっと開け、二人の方に中身を見せるフィービー。天使の微笑みを浮かべている。



 開けられた箱から現れたのは、LEDの照明をすさまじく反射するまぶしい光――――これを見て驚くアイリス。



「ちょっとフィービー、それってあれでしょ? 十八世紀に持ってきたの?」 


「そう。アントワネットに会う時ならこのブレスレットをつけてもいいかなって」


「いいかなって……フィービー」(36話参照)


 この話題についていけないアンが割って入る。


「何、フィービー? アイリス? 何の話?」


「このダイヤのブレスレット、××××に貰ったのよ―――それも何もせずに」(36話参照)


 フィービーの代わりにアイリスがブレスレットを指さして答える。


「ええっ? それ全部ダイヤモンドでカルティエでしょう?」


「そうよ。食事したらくれたんですって」引き続き、アイリスが答える。フィービーは左腕にブレスレットをはめている。


「何もない人からもらえる値段じゃないでしょ……」


 目の前にあるのはダイヤがぎっしり敷き詰められた、ホワイトゴールドのブレスレット。


挿絵(By みてみん)


 一番右側のブレスレット。その名もリフレクション ドゥ カルティエ ブレスレット


※ 18Kホワイトゴールド、バゲットカット ダイヤモンド166個(計12.96cts)、プリンセスカット ダイヤモンド30個(計4.23cts)、トロイディアカット ダイヤモンド2個(計0.81ct) カルティエのホームページより。



 ハリウッドでゴージャスジュエリーを見なれているアンでも驚く。食事しただけでプレゼントされるとは! 


 それは以前アイリスがしたのと同じ反応だった。反応を見てもフィービーはにっこり笑うだけ。


 アンへの答えはアイリスが請け負う。


「無敵のフェロモン女優の名前は伊達じゃないってことね」


「ふふ、でもアンもアイリスもあるんでしょ? とっておきのやつ」


 ふられたアンとアイリスは顔を見合わせて、いたずらっぽく微笑む。


「ええ、まあ。だってアントワネットに会うのに、その辺のアクセサリーもなんだかなあと思って」 


 アンが答えればアイリスも優雅な同意の笑みを見せる。


 アンもアイリスも、フィービー同様、本物のジュエリーを持ってきていた。


――――ハリウッド女優の名に恥じない『ハイジュエリー』を。


 『ハイジュエリー』


 それは10万とか50万とか100万で買えるようなジュエリーではなく、もっと高額なジュエラーが腕を競うようなジュエリーのこと。


 もちろん、盗難やトラブルに合う怖さもあったからアクセサリーと呼ばれる、ジャンクなものも持参しているが、(16話参照)


――――――――――――――――――――――

アントワネットに会う時は、『ハイジュエリー』しかない。

――――――――――――――――――――――


 こう思うのがハリウッド女優だった。


 アンはアントワネット関連本の一頁を二人に見せる。


「このアントワネット、パールをつけているじゃない?」


 この肖像画のことだ。


挿絵(By みてみん)




  ブルーのドレスに二連のパールをつけてバラを持つアントワネット。


「この大きさなら私のパールの方が大粒だと思うのよ」


 出た! アン節! アイリスとフィービーは聞くなり笑う。


 アンがアントワネットにジュエリー対決を挑むかのように見える姿につい笑いがこぼれてしまう。


 でも……内心、ポリニャック夫人の肖像画のシンプルなフープピアス(43話参照)を見た残りの二人も、アントワネットや他の貴族たちに負けないつもりでいる。


「じゃあ、そのパール―――しっかりと照りと大きさを拝見させていただくわよ」 アイリスが少し茶化しながら言う。


 アンは気にしない。アイリスに嫌味な気持ちが一切ないのは承知しているから。


 フェルトの袋から、傷つけないようそっと真珠のネックレスを取り出して二人に見せる。


「これよ、どう?」


 現れたのは真円で、綺麗な光沢を放っている二連のパールのネックレスだった。パールとパールの間に、ダイヤモンドがところどころ入っている。


「綺麗な照りね。色も素敵なピンクパール!」 フィービーが言えば、


「これは10㎜より大きい粒よね? 南洋真珠?」とアイリスが尋ねる。


「アコヤ真珠の10.5mm。ペンダントトップはあり得ない11㎜。花珠よ」


 得意げに話すアン。当然だろう。


 南洋真珠で10㎜、11㎜は珍しくもないが、アコヤ真珠であれば、このサイズは極大サイズに相当する。きわめて希少、極めて高価なのだった。


 多分、真珠に近しい日本人でも見たことはないレベルの超ハイジュエリーだ。パールはダイヤモンドと比べたら安価だけれど、そこはそれ、モノによる。


 十八世紀には天然真珠しかない。だから粒は小さいものが多い。肖像画のアントワネットのパールも控えめサイズだ。


 でも、二十一世紀なら、御木本幸吉が養殖真珠の技術を確立してくれている。


 アントワネットより、ゴージャスなジュエリーを持てる二十一世紀、万歳!


「でも、アン。アントワネットよりゴージャスだったら、失礼に当たったりしないの?」


 自分のブレスレットのゴージャスさは棚上げにしてフィービーが言う。


「大丈夫よ、私たちはジャポンの旅行者なんだから。パールはジャポンではたくさん取れるんです、とでもいっておけば大丈夫よ」


「まあ、確かに日本はアコヤ真珠の最大の産地だものね、何とかなると思うわ」 


 アイリスが答えながら、今度は自分の番とばかりに小さな箱をとりだす。


 ショーメのケースだ。このサイズだとリングだろう。どんなデザインだろう?

 女王の風格を持つアイリスがつけるジュエリーって?


―――――小箱から現れたのは、大粒ダイヤモンドのリングだった。


 中心のダイヤモンドは最高級品の三カラット!ダイヤモンドもグレードがあるけれどショーメが使うのは最高級品で間違いない! 脇石も一カラットも二つ!


挿絵(By みてみん)


 ※ ペアシェイプカット ダイヤモンド1石(約3ct)、ペアシェイプカット ダイヤモンド2石(それぞれ約1ct)、ブリリアントカット ダイヤモンドをセットした、Joséphine Valse Impériale プラチナリング。ショーメのホームページより


「ちょっと!そのリング――――」アンが声を上げる。


「去年のレッドカーペットで着けてたやつでしょう!」 アンの指摘に


「そうよ。アン。よく覚えているわね」


「てっきり、ショーメから借りたと思っていたわ、自腹だったのね」


レッドカーペットにセレブが現れるときのジュエリーは自前ではない。有名ジュエラーから借りることができるのだ。

 

 ―――――というか、借りる方が絶対的に多い。


 セレブと呼ばれる女優でも、レッドカーペットに呼ばれるたびに、自前で数千万円~数億円クラスのジュエリーをとっかえひっかえ、出来るかというとそうでもない。


そもそも、ジュエリーに興味のない女優もいるし、普段使いできずドレスにしか合わせられないようなジュエリーは、二十一世紀ではタンスの肥やし。お金の使いどころとしてはそれほど有意義でもない。


「ううん、あの時は本当に借りていたの。でもね、気に入ってそのあと買ったのよ」


 ダイヤモンドとプラチナの輝くリングを指にはめて、手をひらひらさせながらアイリスは言う。


「ティアラみたいでアイリスにピッタリよね!」 フィービーがテンション高く言う。


 アイリスの優雅な動きをする手。このリングをつけると手だけでもただ者ではないのがビシビシ伝わってくる。 

 アンもネックレスをつける。首の後ろに手を回す彼女はそれだけで美しい。



 ――――これで、三人のとっておきハイジュエリーが揃った。


 フィービーはブレスレットをはめた左手首を見せ、アイリスは左手の中指を二人に向ける。

 アンは髪をかき上げ、デコルテのパールをことさら目立たせる。


 とびっきりのハリウッド女優三人が、とびきっりのジュエリーをまとってヴェルサイユ宮殿に居る。


 アントワネットに会うのだ。やっとこの日が来たのだ。

 

 美貌でアントワネットを魅了する日。なぜだか微笑みが溢れる。


「アン、何か言って」 フィービーが嬉しそうに誘い水をかけると、


「私たちに魅了されないアントワネットなんてこの世にいないわ!」


 華やかにアンが言えば、


「男性だろうとアントワネットだろうと必ず、振り向かせるわ」


 フィービーがキュートに微笑みながら言う。


「アントワネットが望むものは憧れの美人のお姉さま、私以上にふさわしい美女はいないわよ」


 アイリスが優雅にしめくくる。


 三人は美女ぞろいだったが、そこに嫉妬はない。お互いの美しさを愛し、称賛しあっている。


 

 ―――あとはローズ・ベルタンであつらえたドレスを着て、いざアントワネットと対面!




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