55話 『同業者』は 誰なの?
「私たちと同じようにタイムスリップしてきた 『同業者』 は誰か?」 アイリスがアンとフィービーをかわるがわる見ながらいう。
―――サンジェルマン伯爵以外の 『同業者』
―――自分たちに敵意を持つ 『同業者』
「『同業者』? いいわね、その言い方」 アンが 『同業者』 を気に入る。
これで決まった。 タイムスリップとこの十八世紀で口にすれば、間違いなく不審がられる。ならば 『同業者』 のほうがいい。
これなら最悪、人に聞かれても、適当にごまかせるし。
「私たちがマリア・テレジアに選ばれた理由は、アントワネットを魅了する美貌でしょう? でも、サンジェルマン伯爵は男性だし、『同業者』は女性とは限らないということね?」
アイリスに尋ねながらワインを一口飲む。
「男性も女性も『同業者』の可能性があるわ」
「もしかして、シャルロットが 『同業者』 だったらすごく怖い」
フィービーが先ほどもサンジェルマン伯爵に聞いたセリフを繰り返す。彼の答えが完全否定ではなかったことに不安を感じているからだ。
アンもまさかシャルロットは大丈夫だろうと思ってはいたが、可能性は0ではないのかも? とつられて思ってしまっている。
「フィービー。シャルロットは大丈夫よ」 ここで断言したのはアイリス。
「そう思いたいけれど、断言できるの?」
「宿屋からの帰り、必死で考えていたわ。今まで出会った誰かに『同業者』がいたとしたら、誰がそうなのかって」
「見分け方を思いついたの?」 アンがフォークを動かす手を止め、アイリスの目を見る。
「ええ。―――親兄弟がいれば 『同業者』 じゃないわ。ほら、シャルロットは親の話をしていたでしょう?」
「親兄弟?」 アンもフィービーも何のことやらという表情。
「そう。シャルロットはご両親がルイ十五世に仕えていたとか、言っていたでしょう?」
「ええ、ご両親はデュ・バリー夫人と親しかったせいで、今はアントワネットから嫌われ気味って言っていたわ」 (26話参照)
アンはシャルロットが美容クリームをもらいに来た時の話を繰り返す。
「それよ。その話は作り話じゃなくて事実でしょ?」
「事実よ。シャルロットは嘘を言っていないわ。デュ・バリー夫人もシャルロットについて、そんな風に言っていたから、裏も取れている」
今度はフィービーが言う。フィービーはルーブシエンヌでデュ・バリー夫人から、シャルロットの境遇について聞いていた。
「そう。シャルロットの家族は実在していて、周りの人もそれを認識している。だからタイムスリップしてきた人間じゃない。シャルロットは大丈夫よ」
「そうか。私たちみたいに十八世紀に根付いていない人間が怪しいってことね。――言われてみれば確かに」
アンがうなずく。フォークに刺されたチキンはやっと彼女の口に入る。
「もし、タイムスリップしてきた人間が一家丸ごとで来ていたら?」 フィービーが聞く。
「それでも、親の親が十八世紀の誰かの記憶に残っているかどうかでわかるわ」
「じゃあ、怪しいやつがいたら親兄弟がいるかどうか、周りの人間に確認していくのがいいわね」 アンは早速どう質問すればいいか、考えを巡らせている。
「ええ。『同業者』本人は親は海外にいるとか、死んだとか適当に取り繕うだろうから、周りの人間に確認を取るのが確実よ」
ここまでで、三人は『同業者』 の見分け方を共有した。
親や兄弟の有無、親兄弟の記憶を持つ人間が存在するかどうか? で判断すればいい。
そうすると……大体は旅行者を装っているだろう、アンは見当をつける。




