表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

57/69

51話 美女の特技も色々ある


「じゃあ、あなたはポリニャック夫人にも、他の誰にも私たちの秘密を言っていないとおっしゃるの?」 


「ええ」きっぱりと答える、サンジェルマン伯爵。アイリスの美しい瞳をまっすぐに見る。


「私は何も彼女にも誰にも言っていませんし――これからも言うつもりもありませんよ。アイリス殿」



 アイリスの穏やかな態度はサンジェルマン伯爵に伝染してくれたが、自分はチクっていないと言い張る。何度聞き返してもそうだった。


 彼が認めないとなったら話は平行線にしかならない。アンたちの推理を認めて謝るつもりは一切なさそうだ。


 これでは、わざわざ探し回ってここへ来た甲斐がない。テーブルを隔てて、こちら側には緊張が高まる。


―――そこへ。


 フィービーが、不安で辛くてたまらない、という表情を浮かべて尋ねる。緊張に耐えられないという風情だ。


「それでは伯爵。誰が私たちのことをポリニャック夫人に伝えたのでしょう? すごく怖いですわ」


 ブロンドで天使のような無垢な雰囲気を持つフィービーは、相手の緊張を解きほぐしてしまう。

 


 男性ならなおさら。アンやアイリス相手だと男性は緊張しても、フィービー相手だとふと気を緩ませてしまうのだ。


 フィービーは自分の武器を良く知っている。


――――そして自分に求められているものも。


 だから、アンとアイリスの会話を聞きながら、表情を見ながら、自分の出番を待っていた。


 サンジェルマン伯爵はフィービーを見る。初めて会うフィービーに対しては、少し表情が柔らかくなる。(28・29話参照)


「フィービー殿。ご不安でしょう。お気持ちわかりますよ」 


「本当にわかってくださっていらっしゃいますか?」 絞り出す思い詰めた声。


「私達、マリア・テレジアさまに頼まれて十八世紀に来てから不安ばかりです。同じタイムスリップしたあなたにまで、邪険にされて、もう誰を信じていいのかわからなくて」


 フィービーは涙をうっすら浮かべる。


 アンもアイリスも涙を見ても全く心配していない。


 むしろ「フィービー頑張って! そのまま進んで!」と心でエールを送っている。


 もちろんこの涙が嘘泣きだとわかっている。フィービーは涙を出そうと思えば、数分で出せるのだ。


 そしてサンジェルマン伯爵には自分たちが女優だとは一言も伝えていないから、本物の涙だと思っているだろう。


「美女の涙は美しいものですね」 


 なんというクサイセリフだろう。こんなの二十一世紀で真面目に言ったら恥ずかしすぎるわよ。


―――でも、十八世紀の貴族はこんなものなのだろう。


 サンジェルマン伯爵は、フィービーの涙の美しさにまんまと圧倒されてくれたようだ。


「以前二人が伯爵に会った時、マリア・テレジアさまの能力は誤差があるとおっしゃったのですよね。もしそれが本当なら―――――」


 フィービーの美貌はセクシーさと可愛さがまじりあっているが、自分の意志で可愛い方を出すか、セクシーを出すかコントロールは自由自在。


 今はイノセントな可愛さを打ち出している。


「もと居た時代に戻れなかったらと思うと怖くて怖くて。本当に私たちは戻れるのでしょうか?」


 そう、サンジェルマン伯爵が投げかけてくる不安は、ポリニャック夫人にチクったことだけじゃない。



✔ アンたち以外に、サンジェルマン伯爵もタイムスリップしていた

✔ マリア・テレジアのタイムスリップ能力には誤差があるらしい


 この問題もある。


 最終的にはフィービーの言う通り、二十一世紀に戻れるか、そっちの方が大問題だろう。


 フィービーは、論点を変えてしまうことで、サンジェルマン伯爵の態度を変えさせた。



「フィービー殿。もしかしたら戻れないと考えたら不安で夜も眠れなくなるでしょう。こちらに来て辛い夜をお過ごしになったと拝察いたします。お可哀想に」


 ……やっと、相手が少し歩み寄りを見せてきた。


 アンもアイリスもこの変化を逃さない。


 二人は 強気の表情や、感情を表に出さない冷静さを綺麗にしまい込み、フィービーの真似をする。


 ちょうど、決勝戦で勝ったチームの誰か一人が泣き始めると、他のメンバーも泣き出すように。フィービーの涙を見て、感極まって涙が伝染したように見せかけていく。


 サンジェルマン伯爵はそれを見ると、心を動かされたのか今度は優しい表情で言う。


「実は私はね、もう自分のいた時代に戻る気はないのですよ」


 ……何ですって?? 今なんて?


 絶句する三人。


 なぜ、こんな斜め上からの返事をもらわないといけないのよ?


 嘘泣きの努力の結果はこんな返事じゃなくていいのに!


 以前、この男は1980年代からタイムスリップしてきたと言っていたけれど、このまま十八世紀に腰を下ろしたいと思っているのだろうか? 


 死ぬほど住みにくい十八世紀に、なんでまた居座りたいと?


 そもそも、ご褒美も要らないってこと? もと居た時代に家族とかいないわけ? 

 会うたびに、謎と不安を増やすこの男。 


 煮ても焼いても食えない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ