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49話 閑話 あなたがヴェルサイユに住んではいけない理由

今日はストーリーと関係ありませんので、閑話としております。ヴェルサイユ宮殿に住みたいけれど、どんなところかしら?と思っている人にリアルなヴェルサイユをお伝えする内容です。


「あった、あったわ。この本に書いてある!」 アイリスが声を上げる。



 ここは三人のアパルトマン。


 二十一世紀から持参した マリー・アントワネット関連の本を手分けして読み漁っている。


 ポリニャック公爵夫人に見せられた「ジャポンの小箱」


 メルシー伯爵からもジャポンから輸出されて、マリア・テレジアの手に渡り、アントワネットに譲られたと聞いたけれど。


――鎖国中の日本が輸出貿易をしていたことなど、アメリカ人にはそもそも知識がない。今一つ信じられず、しっかりと二十一世紀の資料で確かめたかったのだ。


 アンもフィービーも本探しをやめ、アイリスのところにやってくる。


「あった? どう書いてあるの?」


「やっぱり、本当にジャポンのものなの?」アンもフィービーも聞いてくる。



 アイリスは画像の横の文章を読む。


籠目栗鼠蒔絵六角箱かごめりすまきえろっかくばこですって。本当にジャポンの漆器で間違いないわ。鎖国中の日本でも輸出だけはしていたんだわ」


「じゃあ、あのグダグダの絵は―――」


「リスよ、本当に」


「あれでリスだと言いはるのね」


 アンとフィービーは鎖国中の日本が輸出していたことより、絵柄のグダグダ加減が気になる。


挿絵(By みてみん)

(リスだと言い張る絵)


「堂々と言い張るみたいよ、ここに説明が書いてある……読むわよ」


――以下ご興味ある方のみお読みください。


1778年、最初の王女を出産した際、マリー・アントワネットは母であるオーストリア大公マリア・テレジアから日本の漆の箱を贈られた。これは1779 年にヴェルサイユ宮殿に到着した。しかしながら実際は王妃の日本の漆器類のコレクションは、大公の死に際して50点の漆器が遺贈された時に始まる。この遺贈品を王妃の居室の中に展示するための飾り棚が、ジャン=アンリ・リズネールに特注された。マリー・アントワネットは贈り物として受け取ったこのコレクションを展示するだけでは飽き足らず、それ以降も金鍍金きんめっきされたブロンズ台座付きの装飾品でコレクションを充実させた。これらの購入はパリの高級小間物商たち、とりわけドミニク・ダゲールを介して行われた。

マリー・アントワネットはこのように最高級の洗練された日本の漆器類を収集し、これらを私室で大切に保管した。コレクションの全容は様々な形の、独創性に溢れた70点を超えるもので、その多くが17世紀のものだった。



「――――ですって」 


 読み終えたあと、


「もう少し前にこの本を見ていればあんな窮地に陥らなかったのに、本当に情けないわ」 と悔しがるアイリス。残りの二人も同じ思いだ。(44話~48話参照)


「あそこですんなり、リスと答えられていたら、もっと悪役貴婦人から情報収集ができたはずだものね」


 知識不足を補うために、アントワネット関連の本を何十冊も持ち込んできたのに、なぜ読めていなかったのよ! と三人そろって悔しがるが、本を読めない事情はそれなりにあったのだった。



 十八世紀に来てもう二週間以上がたつのに――

 読書に不自由しないようLEDライトまで持ち込んでいるのに――


 なぜ読めなかったか? 


 それは、ストレスで疲れ切ってしまい、本を読む気になれなかったのだ。


 ヴェルサイユは二十一世紀の人間からすると、控えめに言ってもかなり過ごしにくい。


 災害時の避難所生活よりストレスフルと言ってもいい。


 もちろん三人は、文明の利器を持ち込み、ストレスをかわしながら、消しながら生きていたが、やはり大量のストレスにまみれていたのだ。



 そんなはずないでしょ? 怠けていただけじゃない? と思う人にも体感していただけるヴェルサイユの住みにくさと言えば―――



 まずは、アナログな暖房問題。

 ―――――――――――――


 エアコンで0.5℃刻みで温度を調節して、部屋全体を床暖房で温めるとか、全くムリ。どこかから隙間風が入ってくるし、いつも羽織ったり、脱いだりで、体温を調節しなくてはならなかった。


 これは男性にはよくても、女性には地味に身体にくる。


 そして、防虫問題。 

 ――――――――

 

 貴婦人の頭にはシラミがいたと聞いていた三人は、ノミやダニも含めありとあらゆる防虫、殺虫系の商品を持ってきた。アパルトマンに初めて足を踏み入れ、荷物をほどいた後にしたのは、バルサンを焚きまくったことだった。


 でも、隣の部屋や、ひと伝いに飛んでくるかもしれない! そう思うと感染症対策とは別の意味でソーシャルディスタンスが気にかかってしょうがない。いつも神経を使う。美人がノミにやられるなんて、許せないことだから。


 さらに、犬。

 ――――――


 驚くかな、ヴェルサイユ宮殿のアパルトマンはオール「ペット可」物件だった。進歩的!

 だから、犬やらネコやらは、宮殿内に普通にどこにでもいる。


……で、それのどこがだめかって?


 確かに可愛いけれど、ノミとり用の首輪はどのペットもしていない。だから下手に触ったら、虫までこっちにきそう。そう思うと出来る限り、触りたくはなかった。


――しかし、貴婦人の部屋に招かれると、大体「居る」のだ。そして大体がキャンキャン鳴いて駆け寄ってくるのだった。貴婦人の気持ちを傷つけないように、邪険にせずにかわすのは、それなりに難しい。



 そして、お風呂事情。 

 ――――――――――

 

 バスタブを早々に手に入れた三人だが、浴室はない。バスタブを普通の部屋に置いて、別の部屋で沸かしたお湯を持ってきて、やっと入浴ができる。(33話・34話参照)


 二十一世紀のように、汗をかいたからさっとシャワー、ができないのだ。これは清潔感第一の美女たちにとって大きなストレスだった。


 

 ここまででヴェルサイユが十分面倒とわかってもらえるだろう。宮殿暮らしに憧れる気持ちも、水をかけられたたき火みたいにシュン、となったのではないだろうか。



――でもまだある! 



 火事の不安だ。

 ――――――


 宮殿内で火事が起きるのだ。シャルロットに聞くと割とよく起きるらしい。


 建物の火事ってそんなに頻繁に起きます?


 ボイラーの不備だったり、火の不始末だったり、さもありなんという事情で火事が起きるのだが、火災報知器も消火器もどこにも備え付けられていない。


 そして毎日、台所で火を使い、灯りのために火をともし、タバコの火がつけられている。 


 いつ火事が起きても不思議ではない。さらに誰かが火に気づかなければ、延々と燃えていくのだ。


「あの火、ちゃんと始末してくれたかしら? 今夜、燃え広がったりしないわよね?」


 三人は、貴婦人の部屋の暖炉から火がぱちぱち飛ぶのを見ると毎回、肝を冷やしていた。


 二十一世紀のSNS炎上!も嫌なものだが、自分の身体が燃える方がもっと嫌だ。こんなに美しい身体を燃やすのはあと何十年か、先でいい。


 ヴェルサイユ宮殿に住んでいると次々浮かんでくる不安。全部、二十一世紀に感じたことなどなかったものばかりだから、ストレスがたまるばかり。


 ――しかし。このくらいは、慣れでなんとかなる。ハリウッド女優はタフなのだ。


 ヴェルサイユにはストレスの最終兵器が備え付けられていた。


 最終兵器はヴェルサイユ宮殿にはセキュリティがなかったこと。


 セキュリティー無。

 ――――――――

 

 そう、オートロックのマンション、ドアマンがガードしてくれるマンションに慣れた身には、これが慣れようにも慣れないのだった。


 当時のヨーロッパの中心だったヴェルサイユに、セキュリティーがないなんて誰が思うだろうか。警備が厳重の三乗。こんなイメージだと思ったら大間違い!

 

 ルイ十四世の時代から、綺麗な身なりをしていれば誰でも宮殿内に入ることができたし、公開食事の際に国王家族を見ることもできた。


 開かれた王室と言えば聞こえはいいが、二十一世紀の人間には怖くてしょうがない。


 ホワイトハウスに普通に入れるなんて考えられないでしょ? バッキンガム宮殿でも日本の皇居だって、入れる場所は限定されているはずなのに。ここはすべてがフリー!


 三人は部屋にしっかり鍵をかけてはいたが、いつも「大丈夫かしら?」と不安だった。事実、宮殿内で盗難事件は起きている。どこそこの貴族が大切な貴金属を盗まれたとか聞いてしまうと……


 ヴェルサイユの信じらない数々の習慣、事情には面食らうばかりだった。


 そんなこんなで、ヴェルサイユ宮殿の暮らしに慣れようと頑張っている身では、到底読書にまで気持ちが回らなかった。というか、回せなかった。


―――しかし。今回のリス事件。ポリニャック公爵夫人が、こちらの素性や敵意を知っているとしたら…… ぼ~っとなんてしていられない。



「これからは少しずつ本も読んでおかないと、悪役貴婦人には勝てないわね……」アイリスがアンとフィービーに向き直って言う。


 二人にも異存はない。

本当に住みにくいヴェルサイユ宮殿。これらはいずれもヴェルサイユ宮殿について書かれた本の事実とともに、私が想像(犬からノミが飛んできそう)して書いたものです。


実際はトイレ事情が最たるストレスだったと思うのですが、それを書いてしまうと美女たちに可哀想なので、そこは省きました。綺麗な女の子達には夢ある生活をしてほしいですものね。



なお、鎖国中の日本は長崎の出島からオランダと交易していました。この漆器もそのルートで出たものと思われます。輸出されたあと、ヨーロッパを巡っていたのでしょう。



三人はアメリカ人という設定のため、日本の知識は少な目という設定です。鎖国していたことだけは知っていた。このくらいです。そのため、当時の日本の商品が海外に出回っていることを想像できず、ポリニャック夫人に品物を見せられてビビったわけですね。


皆様がタイムスリップされる際は、どうぞお気を付けください。


なお、文中の籠目栗鼠蒔絵六角箱の説明については、ネットからコピペしております。ご容赦ください。

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