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41話 お金使いたい放題? 国王の後ろ盾

この41話で、ようやっと一部が終わると言った感じです。

『アントワネットを救いに行くわ』がタイトルなのにまだ影も出てこなくて申し訳ありません。


ヴェルサイユでの足場作りがまずしなくてはということで、少しずつ必要なものを手に入れている三人。今回は一番大切なものを確保できるのでしょうか?




なお、文中に当時、ヴェルサイユとウィーン間は、早馬でも往復に二週間かかっています。だから、二週間待っていた、と書いています。



 コンコン。ノックの音がする。この感じはシャルロットじゃない……わね?


 だれかしら?


 ドアを開けると廊下は薄暗い。十八世紀のヴェルサイユは、少し日が落ちるともう、どうしようもなく薄暗い世界に変わってしまう。


 居たのはメルシー伯爵。彼の顔を見ると、その表情は、


―――なにか勿体をつけている……? 


 いやだ、なにかしら? この人、あんまり親しみやすい人じゃないのよね。


「どうぞ、お入りになって」 アンは彼を招き入れる。LEDライトはいつものごとく。(24話参照)


 室内に入るメルシー伯爵。いつみても優雅で上品なたたずまいだ。


 何を話すのかしら? 三人は笑顔を浮かべながら、心の中で緊張する。


 今のところ、このメルシー伯爵がアンたち三人のヴェルサイユ生活を助けてくれている。でも……援助を断られたら、すべておしまいになる。


 ごくりとつばを飲む美女たち。




「―――お三方によいお知らせです」


 よい知らせ? よかった! いよいよあれかしら?


「ヨーゼフ二世様が、ヴェルサイユ滞在の費用をまかなってくださるとおっしゃっています」


―――嬉しい! このお知らせ、たまらなく嬉しい! この二週間、この言葉を待っていたのよ!(18話参照)


 ヨーゼフ二世はオーストリア王。マリー・アントワネットの兄。

 その彼がメルシー伯爵からの手紙を読んで、アンたちを信用したのだ。


「ヨーゼフ二世様が、私たちの滞在費を?」

「嬉しい、心から感謝いたします」

「メルシー伯爵さまのご尽力のおかげですわ」


 口々にお礼を言う美女三人。


――――ヴェルサイユにタイムスリップして二週間、この知らせを待ちかねていた。


 メルシー伯爵に早々に会え、幸運にもこのアパルトマンを借りることができた。


 でも彼はオーストリアの外交官。当然、今後は主君、ヨーゼフ二世に確認を取り、指示を仰ぐ。

 この指示がやっかいなのよ。指示次第で、三人の立場は変わってしまうのだから。


 もし、ヨーゼフ二世が、


「母親が依頼したジャポンの女性だと? 知らん! そんなやつら詐欺師だ!」と、三人を見離す手紙を出してきたら――


 このアパルトマンすら取り上げられて住めなくなって、部屋探しに戻ってしまう。


 もちろん、エメ男爵夫人が化粧水とクリームをばらまいてくれたおかげで、アンたち三人は、<極東のジャポンから来た、年を取らない美女三人>というステータスを得ている。


 ヴェルサイユの噂の広まり方のスピードと言ったら、ものすごかったのだ。


 お金持ちで、若返りたくて、暇なヴェルサイユの貴族の中には、三人の部屋位、簡単に用意してくれる人もいるかもだけれど。


 出来れば、メルシー伯爵と共同戦線を張りたい。オーストリア大使で、王妃のお守り役という、アントワネットに近い立ち場にいるんだから。


 だからなんとしても、ヨーゼフ二世のお墨付きは欲しかったのだ。


 予想していたヨーゼフ二世の回答は、この三つ。



最悪パターン : ヨーゼフ二世が認めてくれない。メルシー伯爵にヴェルサイユを追い出される

平凡パターン : ヨーゼフ二世がヴェルサイユの滞在費の一部を賄う

最高パターン : ヨーゼフ二世がヴェルサイユの滞在費の全額を賄う



 最悪パターンでは言うまでもないけれど、平凡パターンでも面倒が増える。三人には「資金調達」という、余計な仕事が降りかかってくるのだから。


 慣れないヴェルサイユで、お金を稼ぐところからスタートするだなんて!


 ハリウッドでは三人とも知られた女優で、それなりに稼いでいる。オーディションに落ちたアンだって、お金には困っていない。


 ――――でも、十八世紀のリーブルはコイン一枚すら持ってない。



 かといって二十一世紀のドルやユーロを持ってきて両替できるかというと、できないでしょ?


 ここまで物々交換的な対処療法で乗り切っていたが、やはり現金がないと諸々難しい。


 だから、ヨーゼフ二世が三人の生活費を出してくれるかどうかは、死活問題だった。


「じゃあ、これからは私たちが何かを買ったりした時は……?」


「この私、メルシー伯爵のツケにしておいてください。私からヨーゼフ二世様にご請求いたしますゆえ」


 三人は顔を見合わせる。微笑みがうっかりこぼれる。


―――嬉しい! ツケ払い! 貴族っぽい! 


 でも予算どのくらい貰えるんだろう?


「ちなみに、滞在費のご予算は、一週間でおいくらくらいでしょう?」


 アンが直球で切り込む。予算をオーバーするのは申し訳ないもの。バジェットの中で生活するためには確認しておかないと。


 しかし、当時のヴェルサイユはあいまいな表現を良しとしていた。お上品な人たちは、直球で話さないのだ。


 アンのいつもの直球質問は露骨で品がないと伯爵には映った。少し渋い顔になる。 


―――極東の国、ジャポンというのは、何でも露骨に話すのだな。 この三人、雰囲気は上品に見えるのだが、物事を品よくさりげなく表現するすべを持っていない。


 しかし、表面上は柔和な笑みをたたえている。


「ヨーゼフ二世様はこうおっしゃっておられます。母マリア・テレジアの依頼であれば、それは母の命令に相違ない、と」


―――この言葉、どういう意味? 答えになってないでしょ?


 ヨーゼフ二世が、アンたちが最初に伝えた「私たちはマリア・テレジア様の依頼で、ヴェルサイユに来ている」を信じてくれたということ、を言っている?


 それはありがたい。嬉しいのよ。


 でも、知りたいのはそこではなくて。ご予算がいくらなのかということ。


 少しイラっとするアン。


「私達、ドレスも必要ですし、ポリニャック伯爵夫人に対抗するために、それなりに資金が要ります。ですがヨーゼフ二世さまにご迷惑をおかけしたくなくて、ご予算を伺いたいと思うのですが」


 ここにきて、メルシー伯爵はアンのさらなる質問を聞いて、あきらめた。全くわかってない……

 極東のジャポンはこういう国なのだろう、そう理解する。


 アンがオーストリア王の懐を気にしたのは、純粋な気遣いと契約の確認なのだが、メルシー伯爵からすると「うちの国が貧乏だとでもいうのか?」の侮辱に映ってしまう。



「ええ、女性はドレスも色々ご入り用でしょう。承知しております。

ヨーゼフ二世様は、あなた方の滞在費用はすべて賄うとおっしゃっています。


仮にもオーストリア王ですよ。あなたがたが、王様のふところをご心配する必要などありませんな」


 最後の言葉はすこーし、棘があった。


「大変申し訳ございません。ジャポンでは数字をはっきりさせるのが常ですゆえ」


 アイリスが、代わりにさらさらと答える。しゃべってないから、メルシー伯爵の表情を見て相手の感情をしっかり読めているのだ。ジャポンを理由にして、とりなしてくれる。



「伯爵さま、ありがとうございます。実はエメ男爵夫人からポリニャック伯爵夫人のパーティーにお誘いを受けておりまして、ドレスを新調しております。まだ請求をもらっておりませんが、その際はどうぞよろしくお取り計らいください」


 アイリスが続ける。上手にまとめてくれた上に、すぐにドレス代払ってね!と近々の請求予定までにおわせる。


「美しいお三方にお似合いのドレスでしょうな」


 メルシー伯爵は、また答えになっていないセリフを吐いたが、承知したの意ととればいいだろう。



 よし、オーストリア王から、 無限ATMを貰ったのだわ!


 最近の映画みたいに、ちまちま予算なんて気にしなくていい生活ができる!


 予算無視! 無限ATM! 使いたい放題! 


 三人が顔をゆるませていると―――


「常識的な範囲でお願いいたしますよ。高額なものは事前に私にご確認していただければ判断いたしますから」


――ん? オーストリア王の懐を心配するのはとっても失礼なことだったんじゃないの?


 結局、気にしているんじゃないの! その建前と本音、なんとかしてよ!


 それでも、大体は無限ATMで大丈夫でしょう?


 オーストリアの後ろ盾と、ヴェルサイユのアパルトマン、水、そしてお金、少しずつ地盤ができつつあるわ!


 オーストリアの後ろ盾って、アントワネットの兄と母親が後ろ盾という意味だから、最強よ! 力がみなぎってくるじゃない!


「では、アントワネット様の演技指導のお役目。こちらもどうぞよろしくお取り計らいくださいませ」


 ヨーゼフ二世にお墨付きが得られた瞬間、言わなくてはいけないこのセリフ。


 忘れてない。アンはしっかり伝える。


「ええ、ヨーゼフ二世さまがお認めになったお三方ですから、早速アントワネット様にお伝えしてまいりましょう」


 ふう、やっとアントワネットに会えそうだわ。


 これからが、本番。 今まではリハーサルよ。




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