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26話 王妃の大嫌いな女ランキング ワースト3入りの美女


 絶対にイケると思っていたレースのブラウスがそれほどの効果がないと知り、がっかりするアン。

彼女の代わりにアイリスがお礼を言う。


「シャルロット、本当のことを教えてくれてありがとう。私たちは何も知らないので、本当のところどうなのか? を知りたいの。ところで……こんな時間に引き留めて申し訳ないのだけれど」


「いえ、私の方こそ、まだジャポンからおいでになられたばかりのお三方のアパルトマンに

こんな時間に来てしまって」


 シャルロットは自分の方こそ、非礼だと詫びてくる。可愛い女の子だ。


「ぶしつけなお伺いだけれど、ポリニャック伯爵夫人に【つて】とかないかしら?」


 ハリウッド女優三人の目的はアントワネットに会うこと。そして、現実の悪役令嬢、ポリニャック伯爵夫人に傾倒しすぎる今の姿勢を改めさせること。


 だから、この美しく賢く厄介な、強敵にも早めに会っておきたい。そう思って聞いてみたのだ。


「ポリニャック夫人……いいえ、お力にはなれそうもありません」


 シャルロットはすぐに申し訳なさそうに言う。これだけだと、失礼に当たると思ったのだろうか、


「私の家は前国王には近かったのですが、ルイ十六世様、アントワネットさまとはあまり交流がないのです」


 丁寧に理由まで話してくれた。


 親から社長職を譲られた息子は、親の部下よりも、自分だけの新しい部下を使いたがる。これは人の心理だ。仕方ない。寵臣もルイ十五世の時と、ルイ十六世では入れ替わっているのだろう。


 まさかアントワネットにつながるとは思っていなかったから、多少は可能性のありそうなポリニャック伯爵夫人の方を先に聞いてみたが、そこもダメだった。


「両親が亡くなってからのうちの家は、王室からは遠ざかりました。私のアパルトマンもヴェルサイユの端に移動いたしましたし。私がお役に立てるとしたら、デュ・バリー夫人に口利きをすることくらいしか」


 え! デュ・バリー夫人って言いました?


 デュ・バリー夫人!!!!!


 三人の目がとたんに覚める。


 深夜という時間もタイムスリップの疲れも関係ない。


 デュ・バリー夫人!!!


 女性なら誰だって一目見てみたいと願う 桁外れのモテ美女。

 ルイ十五世の最後の愛妾あいしょうとして世界史に名を残す美女。

 晩年のルイ十五世をとことんたぶらかして、骨抜きにした傾国けいこくの美女。


 それも貴族出身ではなく、ブルジョワ出身でもなく、娼婦同然の貧しい身から、美貌と強運でのし上がってきた特別な女性がデュ・バリー夫人なのだ。


 そんな美女、直に会えるなら絶対に会ってみたい。


 ちなみにこのデュ・バリー夫人とアントワネットは、ルイ十五世存命中に大バトルを繰り広げている。


 アントワネットが嫌う女ワースト3があれば、そこに間違いなく入っている。


 嫌う理由?


 マリア・テレジア譲りの潔癖さを備えていたアントワネットからすれば、娼婦上がりの女がヴェルサイユに居るだけで我慢がならなかったのだ。

 

 もちろんバトルといっても、「アントワネットがいつデュ・バリー夫人に声をかけるか?」 という剣も火薬も無関係のものだった。


 しかし、このバトル、ヴェルサイユ中に鳴り響くどころでは済まず、国家の外交にまで発展していていく。


 その際、ルイ十五世がどちらについたかって? それはもちろん、愛するデュ・バリー夫人。色ボケしたご老人では、まともな判断はできなかったのだ。


 でも、マリー・アントワネットをみずから叱責するのも忍びない。少女といっていい彼女の年齢からすれば、確かに娼婦上がりの王の愛妾など、薄汚く、気持ち悪いものだっただろうと王自身も想像ができたから。


 葛藤するルイ十五世はメルシー伯を呼ぶ。自分の力では解決しない。

 本国オーストリアのマリア・テレジアにアントワネットをたしなめるように依頼するのだ。


 マリア・テレジアは、これすなわち国家の大問題と察し、アントワネットを叱責した。母にたしなめられたアントワネットは、嫌々ながらデュ・バリー夫人に声をかけることとなる。


 こうして女二人のバトルはアントワネットの負けで収まった。


 こんなストーリーたっぷりの傾国けいこくの美女、ハリウッド女優としてじゃなく、女性として見てみたいではないか。


「デュ・バリー夫人につてがあるの?」 


 アイリスが、ハーブティーを勧めながらも興味津々で聞く。さすがに長丁場になってきたから冷えたお茶でも出さないよりはましだろう。


「ええ、前国王(ルイ十五世)の時に、私自身がデュ・バリー夫人の侍女などしておりましたから」


 シャルロットはデュ・バリー夫人の侍女だった!!! かなり近い感じの関係だろう。つまり、強いつて。すぐに会えてしまうのだろうか。だったら、すごく嬉しい。


「ぜひ、お会いしたいわ。子供の頃からの憧れだったの、デュ・バリー夫人!」

 フィービーが言う。


「まあ、そうでしたか。ジャポンでも有名なのですね。デュ・バリー夫人はアントワネットさまの評価とは違って、分け隔てない優しい方です。私は大好きなんです」


 デュ・バリー夫人は直接アントワネットにつながる人脈は持っていないだろう。そもそも、もうヴェルサイユにアパルトマンはない。ルイ十五世の崩御とともに追い出されている。


 でも、会いたい! 誰だって、貴族でもないのに王に愛される美女と聞いたら会ってみたいではないか。


「では、お三方のこと、デュ・バリー夫人に頼んでみます。一週間くらいはお時間いただくと思いますが、またお返事いたします」


 歴史に名を刻む、傾国けいこくの美女に会える……かも。


「シャルロット、ありがとう。私たちにできることがあれば何でも言ってね」


「あ、ありがとうございます」


 シャルロットは顔を赤らめている。どうして? 何か言いたそう。でも、何かあれば本当に言ってくるでしょう。待てばいいわ。


 あのデュ・バリー夫人に会える。フィービーが特に興奮していた。




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