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13話 石鹸って色々使えるいい子に違いないわ!

 

続く二週間、三人はそれなりに忙しい日々を送った。十八世紀へ持ち込むグッズををあれこれ考えながら、準備したからだ。


 チャットで、手の空いているメンバーと相談して、担当がかぶらないように進めていく。


「ねえ、綺麗な石鹸ならアントワネットの贈り物によさそうじゃない?」


 アンが入れたメッセージに、


「石鹸ってこの時代にあったの? 持っていって大丈夫?」フィービーが返す。


「ええ、かなり古い時代から石鹸自体はあったし、フランスマルセイユで作られていたわ。でも当時の石鹸はそれほどの高品質ではなかったの。1791年にルブランが開発するまではオールドタイプの石鹸なのよ。だから、この石鹸を持っていくの」


 この石鹸というのは、透明な赤い石鹸だった。


 ―――グリセリンソープ。


 よく見かけるものでそれほど珍しくもない。でも十八世紀なら、この透明さが人々の興味を引くだろうと想像できた。かといって、使えば消えてしまうのが石鹸だから、こんないいお土産はない。


「そしてもうひとつ、ソープカービングも可愛くて喜ばれそうって思っているのよ」


 今度はバラの彫刻をほどこしてある不透明のピンクの石鹸を取り出した。

 

 先の赤いグリセリンソープと二つの画像を送る。


「可愛い! 十八世紀はこんな石鹸に彫刻しないだろうから、きっと喜ぶと思うわ、アントワネットってムスクより花の香りが好きだって書いてあったからそっち系ね」


「ええ、オレンジの花の香りの石鹸よ。あとアロマキャンドルもいくつか持っていくわ。フィービー、そっちはどう?」


「考えているんだけれど、ねえ、小麦粉を何百キロと持ち込むのはどう? パンがなかったんでしょう?」


「どうなのかしら。喜ばれるかもしれないけれど、でもそもそも何百キロは無理よ、十八世紀に行くのに重量制限あるから」


「だめなのね。じゃあ私、日常品を考えて持っていくわ。向こうで毎日ドレスなんて着ていたら疲れるでしょう? リラックスで着る服を持っていった方がいいし、ハンドクリームとか日焼け止めとか、爪切りとか、ヘアゴムとか、スリッパとかそういうの、すごく大事な気がするから、三人の分をまとめて揃えておくわ」


「ありがとう、フィービー。じゃあ私たちが使うものはお願い。日持ちのするお菓子やハーブティーもお願いね!」


「焼き菓子なら数か月持つものもあるし、ハーブティーはアイリスもこだわっているから幾つかまとめて持っていくわ。ブルックリンカフェのコーヒーも持っていきたいし、あとスマートフォンってどうするの?」


「スマートフォンは、持っていくわ。もちろん向こうでは使えないけれど。でもカメラがわりになるし、録音もできるし、ライトにもなるし、色々役に立つはずだと思うの」


「そうね、アン、あなたアイフォンでしょ? だったらケーブルと充電器と乾電池、を用意して行くわね」


「ありがとう、じゃあお願いね」


 あとでグループのチャットを見れば、アイリスも何が準備されているかわかる。用意されてないものを、集めればいいのだ。


 十八世紀の暮らしをどれだけネットで調べても、三人の準備が完全になることはないだろう。


 貴族の生活だから さぞかしゴージャスかと思えばそうでもない。二十一世紀の暮らしから考えたら信じられないくらい不便で不合理で 不潔で不快なものだろうと想像がついた。


 たとえば、十八世紀の貴族たちはかつらをつけている。だから肖像画の絵のヘアスタイルは盛りに盛ってあるのだ。そこはまだ許せても、シラミが髪にたかっていたという。


 もっといえばヴェルサイユ宮殿にはトイレもない。全部おまるだった。理由は水洗技術の不備ではない。当時のフランス人はトイレを置くことで病原菌がはびこると信じていたからだ。


 さらに入浴の習慣もなかったという。マリー・アントワネットはオーストリア人なので入浴していたそうだが、ほとんどのフランス人が入浴をしていなかった。だから濃い香りを必要としたという。


 でもいくらこうやって調べて準備しても、たぶん足りないだろう。

 どこかで「抜けと漏れ」がでる。想像外の事態に出会い、思わぬカルチャーショックに遭遇するのは目に見えている。


 だからこそ、快適に過ごせるように持ち込めるものはできる限り持っていく。

 

 使えないものは、帰りに持ちかえって来ればいいのだから。三人はこのスタンスで準備を続けた。



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