空気の読めない英雄
再び俺が目を覚ましたのは、それから三日後のことだった。
その間はずっとティルが面倒を見てくれていたらしく、彼女以外は面会すら断っていたらしい。ちなみに、その前の一週間は昏睡状態だったとのことだった。
(……トイレとか、どうしてたんだろう?)
そんな疑問が頭をよぎったものの、
「聞きたいの?」
とニヤついたティルに言われたので気にしないことにした。
そして今日、ようやくティル以外のみんなと会えることになった。神樹との戦いから十日――無事だとは聞いているが、この目で確かめることができるのは嬉しい。
「じゃあ、他のみんなを呼んでくるわね」
そう言ってティルが部屋を出て行った。しばらく待っていると外から人の気配がして、扉が開いたと同時にサーニャとクロエがこちらに駆け寄ってきた。
「フリッツさん!」
「フリッツ様!」
「サーニャ、クロエ……よかった、元気そうで。それに、ありがとう。二人が浄化魔法を発動してくれたおかげで、全て上手くいったよ」
「何言ってるんですか……。フリッツさんとエレノアさんが時間を稼いでくれなかったら、どうなっていたか……」
「そうですよ……。エレノア様も酷い怪我でしたが、フリッツ様は生きているのが不思議なくらいでした。どうしていつも、そう無理をなさるんですか……」
眼に涙を浮かべながら心配してくれる二人に、ティルの時と同じく心が痛くなる。
あのとき古代呪文を使うしかなかったとはいえ、やはり俺の選択は正しかったとは言い切れない。もっと実力があれば、古代呪文を使うことなく対処出来たのだから。
「ごめんね、二人とも」
「全くだ。人に無理をするなと言っておきながら、お前ってやつは……」
そして二人に続くように入ってきたエレノアにも、呆れたように言われてしまう。
「エレノア……怪我は大丈夫?」
「お前が頑張ってくれたのと、サーニャ殿の治療でもう傷痕一つ残っておらんよ。ティル殿にもそう伝えてもらったはずだが?」
「そうなんだけど、エレノアも女の子なんだから気になって……」
「わ、私の方は心配はいらん! それより……」
ちらりとエレノアが後ろに視線をやる。その先には――
「フリッツ様……」
「ユーリさん?」
どこか遠慮するように、扉から顔を出すユーリさんが見えた。
「どうしたんですか? 入ってきてもらっても大丈夫ですよ?」
「あの、その……」
俺が促すも、やはり部屋に入らず扉からこちらを伺うだけのユーリさん。あの時は強引にセリカさんの治療を止めさせてしまったし、まだ怒っているのかもしれない。
「ユーリ殿、あの顔はまた自分が何かやらかしたと勘違いしている顔ですよ」
「え……!? あっ、違うのですフリッツ様!」
しかし、それはどうやら俺の思い違いだったようだ。エレノアに言われたユーリさんが慌てて部屋の中に入ってくると、そのままベッドの方まで近づいてきた。
「えっと……」
この場合、何と声をかけるのが正解なんだろうか? そう迷いはしたものの、やはり浄化魔法を手伝ってもらったお礼をまずは伝えるべきだろうと結論付ける。
「ユーリさん、サーニャのこと手伝ってくれて……」
「フリッツ様!」
だが俺が言葉を言い終わる前に、突然体を抱きしめられてしまう。
「ユ、ユーリさん?」
「良かった……目を覚まして、本当に……」
「あ……」
思ってもみなかった言葉に、思わず呆けた声を出してしまう。
浄化魔法を発動する為に、ユーリさんにはかなり無理を強いてしまった。だから恨まれこそすれ、こうして心配されているとは夢にも思わなかったからだ。
「あなた様のおかげでノークリッドも、シエラも、それに姉様も救われました。本当に、本当になんとお礼を言っていいか……」
「それは……」
たしかに結果的には皆を救えた。だけど、もし夢の中で古代呪文を得ていなければみんなを救うことは出来なかった。今回はただ運が良かったとしか言いようがない。
でも、今それを言うのは違う気がした。だからユーリさんの気持ちをしっかり受け取りつつも、自分だけの力では成し遂げられなかったことを強調しておこう。
「俺だけの力じゃないです。この大陸に住むたくさんの人たちが希望をつないでくれたおかげで、成し遂げられたんです。もちろん、ユーリさんもですよ」
「でも、私のせいで浄化魔法の発動が遅れて……」
そっか、やっぱりまだあの時のことを気にしていたんだ。でも誰だって家族を失うのは怖いし、それでユーリさんを責める人はこの場に一人もいないと思う。
だからできるだけ気に病まないよう、冗談交じりに話題を切り替えることにした。
「ユーリさんの感謝は有り難く受け取っておきます。俺も男ですからね。可愛い女の子から感謝されると、次も頑張ろうって気持ちになりますよ」
これで少しでも笑ってくれれば良い。そう思っていたのだが――。
「かわ……えっ!? あ、あの……」
予想外の返答だったのかユーリさんは狼狽した様子で立ち上がった。やがて、
「し、失礼します!」
そう言い残して、止める間もなく部屋から出て行ってしまったのだ。
「あれ?」
「フリッツ……お前なぁ」
エレノアが呆れたようにため息を吐いた。
「フリッツさん……」
「フリッツ様……今のはわたくしもどうかと思います」
そしてサーニャやクロエからも、どこか非難めいた視線を向けられてしまう。お、おかしいな……予定ではこれでみんな笑顔になるはずだったんだけど……。
「フリッツ……アンタ、もう少し目を覚まさない方が良かったんじゃない?」
そしてティルのとどめの一言に、今度こそみんなが苦笑を漏らした。
久しぶりの仲間たちとの対面はこうして散々なものになったけど、からかわれて、呆れられて、それでもこうして全員が無事で――笑ってくれている。
今はそれだけで十分だった。
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