灼熱の暴風
「がっ、かはっ! はぁ……はぁ……」
先ほどまで感じなかった痛みが全身に走り、口から血が一気に漏れ出した。
(フリッツ! 意識が戻ったの!?)
「ティル……」
手に持った剣から思念が届き、自分が一時的に意識を失っていたのだと理解する。
だが――あれは本当に現実だったのか?
死の淵に立った俺が見た、都合のいい幻じゃないのか?
それを確かめる方法は、一つだけだ。
「魔法……」
(魔法? 魔法がどうかしたの?)
「魔法を、使わなきゃ」
教わった魔法を使って、それが発動すれば現実だったってことだ。上手くいけば、この状況を打開できるはずだし、試さない手はない。
(何言ってんの、アンタはまだ魔法を使えないでしょ! それより意識が戻ったのなら、早く引きなさい。次の攻撃はさすがに防げないわよ!)
「ごめん……けほっ、それだけは……できない」
「フリッツ!」
そんなに悲しそうな声をしないでよ、ティル。このままだと魔法を教えてくれた《《あの人》》が言ったように、本当に泣いてしまうんじゃないかと心配になる。
――あの人?
あれ……魔法を教わったことは覚えてるけど、誰から教わったのか靄がかかったように思い出せない。どこかで見たことがある人だったと思うんだけど……。
まあ、今はいい。早くあの魔法を発動しないと手遅れになる。呼吸するにも激痛が走る状態ではあったが、かすれた声で何とか詠唱を始める。
≪来たれ荒ぶる炎の精よ、集え猛る風の精よ≫
(この詠唱は……フリッツ、アンタその魔法をどこで!?)
ティルは何やら驚いているが、今はそれに答えている時間はない。
≪灼熱の炎を纏い、暴風の力を解き放ちて敵を薙ぎ払え≫
詠唱と同時に、胸の奥底から何か熱いものが吹き上がる感覚がした。それが腕を伝って指先まで駆け抜け、空気ごと焼き尽くしていきそうな気さえしてくる。
――これが魔法を放つ感覚か。
この魔法であれば、俺の魔力量でも魔法式が破壊されないであろうことが自然と理解できた。いや、恐らくこれは大魔導士でなければ発動できないのだろう。
今から放とうとしている魔法は炎系統ではあるが、詳しく言えば炎を主とした風魔法との二属性魔法。つまり、一人で二つの魔法を同時に操り放つことになる。
通常魔法では余り過ぎる魔力が、二つの――それも上位の魔法を操ることで溢れないようにしているのだ。だからこそ魔法式が壊れない。
逆にこの魔法を普通の魔法使いが唱えようとしたら、間違いなく命を落とすだろう。無尽蔵に魔力を生成出来る俺ですら、相当の負荷が体にかかっているのだ。
でも、だからこそ威力は通常の魔法とは比較にならないはずだ。
(フリッツ、今のアンタじゃその魔法は負荷が大き過ぎる! やめなさい!)
悪いねティル。頭の悪い俺じゃあこれしか方法が思い浮かばなかったんだ。後で説教は聞くから、今だけは目をつむってくれ……!
≪灼熱の暴風!≫
詠唱が終わると共に左手を突き出す。
その瞬間、荒れ狂う炎の奔流が手から迸った。そして俺の周囲でまるで蛇のように渦を巻き、近づくものは一瞬にして灰にすると言わんばかりの勢いだ。
だが、これは――。
「くっ、ぐぐぐ……」
まさに暴風。
少しでも気を抜けば、使用者の意志とは関係なく全てを焼き払ってしまいそうだ。
(あぁもう、だからやめろって言ったでしょ! ったく、誰よフリッツにこんな制御の難しい魔法を教えたアホは)
ティルの機嫌も暴風域に達しそうだが、今はそれを気にしてる余裕も――。
「あれ?」
ないと思ったのだが、急に体にかかる負担が少なくなった気がした。気を抜けないのは変わらないけど、さっきまで感じていた体の苦しさが減った気がする。
(発動してしまったものは仕方ないわ。アタシも制御に力を貸すから、あと少しだけ頑張りなさい)
「ティル……ごめん、ありがとう」
(ふん、終わったら説教だから)
「はは、お手柔らかに……」
あぁ、さっきまでは本当に命が尽きるかと思ったのに何故だろう。もう何も怖くはない。この頼もしい相棒が一緒なら、きっと最後までやり遂げることが出来る。
「もう少しだけ付き合ってやるよ、神樹……」
再び襲い来る数多の根と風魔法。だが、そのどれもが無力だった。
俺に近づこうとするもの、サーニャ達の方を狙うもの、ことごとく荒れ狂う炎にかき消された。俺がすべきことは、ただ必死に制御することだけだった。
そしてどれだけの時が経っただろう。後方からあたたかな光の波動を感じた。
何事かと思ったが、もはや後ろを振り返る気力も残っていない。だがこの光には覚えがある。この大陸に来てから何度も見たそれは、間違いなくサーニャの――。
(もう大丈夫、アンタは少し眠りなさい)
考えている途中で、やけに優しいティルの言葉が聞こえた。同時に体をめぐっていた全ての魔力が途切れ、体から一気に力が抜けていくのが感じられたる。
世界が遠ざかっていく。目を閉じたわけでもないのに、視界が確実に狭く、そして暗くなっていく。それに抗う術などなく、俺の意識は静かに闇へと溶けていった。
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