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後継者

「では、フリッツ。準備は良いか?」


「う、うん」


「分かってはいると思うが、くれぐれも粗相のないようにな」


 玉座の間に入るにあたってエレノアから諸注意を受ける。


当たり前のことだが、王族に会ったことなんて生まれてこのかた一度もない。正直言ってかなり不安だ……おもに礼儀とかそっち方面で。


「なに、王にはあらかじめ話は通してある。所作は私の真似をしてくれれば間違いはないから、そう固くなるな。王は寛大なお方だ」


 そう言われても、緊張するものは緊張する。タイガという、バルディゴから追放された例を知っているからね。おいそれと下手な真似はできない。


「では行くぞ」


 そんな俺の心中を知ってか知らずか、エレノアは玉座の間へ続く大扉を開いた。中は想像よりも遥かに広く、深紅の絨毯が奥に向かって伸びていた。そして最奥にある玉座には、大柄な若い男性がどっしりと座っていた。


 おそらく、あの人がバルディゴ王なのだろう。


 玉座の前まで進み出ると、エレノアに習って跪く。今さらだけど、帯剣したままで大丈夫だろうか? せめてエレノアに預けておけば良かった。


「おう、かしこまる必要はないぜ。楽にしてくれ」


 内心びくびくしていると、頭上から随分と軽い感じの声が聞こえた。声に従って頭を上げると、当たり前だが王の姿が目の前にあった。


 先ほどは遠目でよく見えなかったが、さすが戦士の国の王様と言うべきか。その体は筋骨隆々という言葉が相応しく、身に付けている装束もはち切れんばかりだ。


「お前さんがフリッツか。オレはこの国の王、バルディゴ17世だ」


 言葉自体は砕けたものだが、体の芯まで響いてくるような重みを感じる。


「王。以前から申し上げているとは思いますが、お言葉遣いには……」


「まあそう言うなよ。冒険者にいきなり王族として接したら、相手も固くなっちまうだろう?」


 エレノアが王の言葉遣いに苦言を漏らすも、当の本人はどこ吹く風だ。ただ俺としては、その気遣いが有り難い。おかげでリラックスした状態で自己紹介できそうだ。


「お初にお目にかかります、バルディゴ王。この国の民間ギルドに所属しています、フリッツ・クーベルと申します」


「おう、よろしくな! それでフリッツ。先のダンジョン調査で魔剣ティルヴィングを手に入れたそうだが、その腰に下げた錆びた剣がそうなのか?」


「はい。魔剣という性質上、魔力を込めていないと本来の力を発揮できません。ただ魔力を込めさえすれば、意志を持つ人の形も取ることが可能です。常時使い手の魔力を吸い続ける為、その点は注意が必要ですが……」


「なるほど。故にそなたにしか扱えぬと、そういう訳だな?」


「……断言はできませんが、今のところはそうかと」


「はは、えらく慎重な物言いだな」


 それは慎重にもなる。王に嘘の証言をするなんて、国が国なら斬首刑だ。


「では試しに見せてくれんか。なに、この場で剣を握ったとて罪には問わん」


 こちらの心を見透かしたように、冗談めかしてそう言うバルディゴ王。エレノアの方をうかがうと、彼女も頷いてくれたのでティルを手に取り魔力を供給する。


『で、アタシはニンゲンの姿になればいいわけ?』


「悪いけど、頼むよ」


『はぁ……めんどいわね』


 そうは言ったものの、ティルの刀身は直ぐに光に包まれ少女の姿を取った。


「はじめまして、バルディゴ17世。自己紹介は……必要ないわね?」


「おぉ、まさしく伝説にある魔剣ティルヴィングの特徴と一致している! お目にかかれて光栄だ、ティルヴィング殿。ようこそ、バルディゴ王国へ。我が国は貴女の来訪を、心から歓迎いたしますぞ!」


 ティルを見たバルディゴ王の喜びようは、この上ないものだった。大臣とエレノアからも拍手が起こり、俺一人だけがしばらく茫然と佇むことになるのだった。


 しばらくして王の興奮もおさまり、ようやく本題について尋ねることにした。


「それで、ティルの所有権についてなんですが……」


「おぉ、そうであった。大臣、例の書物を!」


「はっ、こちらに」


「うむ」


 大臣さんから古びた書物を受け取った王は、それを開いて俺たちに見えるように開いてくれた。中には古代文字と思しきものが並んでいたが、残念ながら俺にはその辺りの知識はない。書かれている内容もについても、当然わかるはずがない。


「マリク……こんなものを残していたのね」


 しかしティルにはそれが理解できたようで、どこか切なげな呟きを漏らした。


「あの、この書物は一体……?」


「これは大魔導士マリク様が残した書とされている。内容は……簡単に言うと、『魔剣ティルヴィングを扱いし者を、我が後継者とする』だ」


 なるほど。つまりティルの扱える俺が、大魔導士マリクの後継者に――。


「って、えぇ!?」


「どうやら理解できたようだな。喜べフリッツ! お前さんは魔剣ティルヴィングに選ばれたんだ。大魔導士の後継者としてな!」


 そう言ってバルディゴ王は俺の肩をバシバシと叩いた。とてつもなく痛いけど、今はそんなことを気にしている場合じゃなかった。


「ティルっ、ティルはどう思ってるんだ!?」


「マリクめ、よけいなことを……。ま、でも今のところアタシを使えるのはアンタだけなんだし、所有権をもらえたのは良かったんじゃないの?」


 いやそうだけど! 魔法使えないのに大魔導士の後継者って!


「エ、エレノア……」


 王と大臣はテンションが上がり過ぎて話が通じないし、ティルも何故か素直に受け入れている。こうなってしまうと、エレノアに助けを求めるしかなかった。


 しかし――。


「王、実はフリッツから例の魔獣討伐に参加してくれるという申し出がありました。今回の件、彼に助力を願ってはいかがでしょうか? もし大魔導士の後継者が魔獣を討伐したとなれば、民衆も大いに安心出来るでしょう」


「何、それは本当か!? やってくれるか、フリッツ!」


 ダメだ、火に油を注いだだけだった。当初の目的はそうだったんだけど、このままだと本当に大魔導士の後継者として祭り上げられてしまう。


「せ、せめて名前はどうにかなりませんか? 俺、魔法は使えないんで……」


「気持ちは分かるが、大魔導士の名は世界の希望だ。何とか受け入れてくれんか?」


「は、はい……わかりました……」


 王様にそこまで言われたら、もう断ることは出来なかった。


「感謝するぞ、フリッツ。そして大魔導士マリク様の後継者に、バルディゴの王としてお願い申し上げる。どうか我が国を、猛る魔獣から救って欲しい」


 先ほどまでとは異なり、真剣な様子で王は最大の礼をもって頭を下げた。


 いきなり大魔導士の後継者に祭り上げられた訳だが、自身の認識としてはあくまで一冒険者。そんな俺でも誰かを助けられるのなら、助力を惜しみたくはなかった。


 そして何より、俺は強くなるためにこの国に来たのだ。だから――。


「お引き受けいたします。バルディゴ17世陛下」


 こちらも冒険者としての最大限の礼を尽くし、その要請に応えよう。

読んで頂き有難うございます!

何と大魔導士の後継者になってしまったフリッツ君。

ところで後継者って何するのって話なんですが、どうなる次回!?

(多分魔獣退治の話になります)

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