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王城にて

 一度ギルドの寄宿舎に寄った後、俺はサーニャを残してバルディゴの城まで来ていた。


 城門の衛兵に用件を告げ城の中に通されると、兵士詰め所の前まで来て扉をノックする。しばらく反応がなかったが、やがて足音が聞こえてきて扉が開いた。


「待たせたな……ん、お前はフリッツではないか!?」


「久しぶりエレノア」


 俺を出迎えてくれたのはエレノア・クレセント。


 強さがものをいうバルディゴ兵士団で、唯一の女性兵士だった。そして民間ギルドから借り入れられ、役に立ちそうにもない俺を気にかけてくれた唯一の人だった。


「クレストの連中から、調査先で命を落としたと聞いていたぞ」


「あはは、幸運の女神に命を助けられてさ」


「幸運の女神? ……まあいい、無事でなによりだ。ここに来たのは報酬についてだな。入ってくれ」


 エレノアにうながされ詰所の中に入る。平時はクレストの面々をはじめ大勢の兵士がいるのだが、今日は数えるほどしかおらず閑散としていた。


「今日は人が少ないね」


「もう聞いているかもしれんが、北西の洞窟に魔獣が現れてな。みな、その対応に追われている」


 説明しつつも、エレノアは報酬の手続きをよどみなく行っていた。その姿を見て、この状況で彼女がここに居るのはどこかもったいないように感じてしまった。


 エレノアの剣技は、バルディゴでも敵う人はほとんどいない。だけど彼女が前線で戦ったという話は、ほとんど聞いたことが無い。


 おそらく女性であることを気遣っての配慮だと思うが、事務作業をするエレノアの表情はいつも物足りなさそうだった。


 そんなことを考えている間に、筆を止めたエレノアがこちらを見ていた。


「フリッツ、いちおう規則なので少し調書を取らせてくれ。あのダンジョン調査で、一体何があった? どうしてお前が死んだことになっているんだ?」


 その質問に、俺はダンジョンで起こったことをありのまま報告していく。そうすると、エレノアの顔がみるみるうちに怒りに染まっていくのがわかった。


「ということは何か! クレストの連中はお主を見捨てたということか!」


 バルディゴ兵士団の中でも特に騎士道精神に篤いエレノアは、クレストの行いに烈火のごとく怒り出した。ミケルと同じで怒ってくれるのは嬉しいんだけど、状況も状況だったので一応フォローはしておくことにする。


「いやでも、状況的には仕方なかったんだよ。全滅する可能性もあったし、正しい判断だったと思う」


「しかし……」


 未だ興奮冷めやらぬエレノアを何とかなだめて、話を続けることにする。


「で、ダンジョンの最下層にその剣――魔剣があったということか」


「あぁ。こういう場合って、扱いはどんな感じになるんだろう?」


「ふむ……」


 俺の問いにエレノアはその形の良い瞳を真一文に結んで考え始めた。そして――。


「その魔剣、お前の所有物としても良いだろう」


「え、本当!? いや、俺としては有り難いんだけど……それでいいの?」


「クレストからは、最深部に『何もなかった』との報告を受けている。ならば、その剣はお前がどこで手に入れたのか誰にも分かるまい。そうだろう?」


 そう言ってエレノアはにやりと笑った。


 つまりクレストが虚偽の申告をして真実を言えないことを承知した上で、俺にティルの所有権を譲ってくれると彼女は言っているのだろう。


「ありがとう、エレノア」


「当然のことをしたまでだ。それに、その魔剣はお主が持っていた方が有効活用できるだろう」


「それで、ものは相談なんだけどさ」


 俺はここに来るまでに考えていたこと――魔獣の討伐に参加できないかを、思い切って聞いてみることにした。


「そなたが魔獣の討伐を? ……いや、そうか。今ならばその魔剣があるのか」


「うん、だから多少は力になれるかもしれないんだけど」


「しかし、魔獣の動きはかなり素早い動きと聞いているぞ。たとえ威力の高い斬撃をとばせたとしても、当てられるのか?」


「う……」


 それは正直わからない。なんせ俺の身体能力なんて、並みかそれ以下だ。


 ここでティルに相談できたらいいんだけど――そう考えていると、腰に下げた剣が急に光りはじめた。そして俺が何か言う間もなく、その光は人の形となった。


「斬撃はとばせるけれども、動きをある程度止めないとフリッツの腕では無理ね」


「って、ティル!」


「なっ……!?」


 やはりというか、光の中から現れたのは人間の姿になったティルだ。あまりに突然の出来事に、エレノアすら唖然とした表情を浮かべている。


「初めまして、エレノア。アタシは魔剣ティルヴィング。そこにいるフリッツのお守りよ」


 いやお守りって……立場を考えると間違ってはいないけどさ。


 心の中でそうツッコミを入れていると、固まっていたエレノアがようやく我に返った。そして片膝をついて首を垂れ、何故か恭しく自己紹介を始めた。


「こ、これは……私はバルディゴ第一師団所属、エレノア・クレセントと申します。お目にかかれて光栄です、ティルヴィング様」


 な、何か大仰過ぎじゃないかな。あれってバルディゴで最大限の礼だったような気がするんだけど。


「お、おいフリッツ……」


「ん、なに?」


 エレノアに呼ばれ何事かと思い近づくと、肩をがっしり掴まれ顔を寄せられた。


 瞬間、彼女の美しい黄金色の髪がふわりと舞い良い匂いが鼻孔をくすぐる。って、近い! あまりにも近すぎるよ!


「どういうことだフリッツ! 魔剣とは聞いていたが、ティルヴィング様とは聞いてないぞ!」


「え、ティルってそんな有名なの!?」


「お前……それでも魔法使いか? 魔剣ティルヴィングといえば、先の大戦で大魔導士マリク様が使われていた武器だぞ!」


「えっ、マジで!」


 大魔導士マリクはもちろん俺も知っている。


 何百年か前にこの世界が魔王軍に進行された際、魔界に乗り込み魔王を討伐した勇者パーティーのメンバー。つまり、この世界の英雄の一人だ。


 ちらりとティルをふり返る。するとどこか勝ち誇ったような表情をされて、なんか負けた気になった。


 というかあの時ダンジョンを吹き飛ばすほどの威力が出たのって、大魔導士マリクの魔力が残ってたからか。そう考えると確かに納得だけど――。


「えーっと、ティルさん?」


「言われるまで気付かないなんて、アンタ本当に魔法使い?」


「申し訳ない……」


「ま、いいけどね。どうせアタシを扱えるのなんて、今のとこアンタだけなんだし」


 そう言ってもらえると助ける。だけど――。


「さっきと状況が変わっちゃったけど、本当に俺が持ってていいのエレノア?」


「う、うーむ……」


 さすがにここまで有名な魔剣だと、即断というわけにはいかないのだろう。ティルの方を見ると、もう我関せずという感じで知らん顔をしている。


「そこまでの魔剣となると、さすがに王に報告せねばならん。私の一存ではなんとも……」


「だよねぇ……」


 こうして報酬の話をしにきただけなのに、何故か王に謁見することになったのだった。

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