船出
酒場を出て港へ向かうとバウンス船長やカイルさん、その他にも数人の船員と思われる人々が待ち構えていた。話を聞くと既に乗ってきた馬車を含め一通り荷物は積み終わり、後は俺たちの覚悟を確認するだけだったらしい。
「まったく、回りくどいことをしてくれたわね」
まだ腹の虫が治まっていないのか、チクリと刺すような言葉をバウンスさんに投げかけるティル。
「い、いやぁ俺たちにとっちゃぁ通過儀礼みたいなもんでして……」
船長は酒場でのやり取りで完全にティルに苦手意識を持ったのか、冷や汗をかきながら答えている。
「元海賊だからって、少しは礼儀を覚えなさい」
ん……いま『元海賊』って言った?
「それって……」
「ま、アタシの予想だけどね。漁師というには体に傷が多すぎるし、何よりその品のない格好と態度。昔からこういうやつらは海賊だって相場が決まっているのよ」
予想とはいいつつも、ほとんど確信しているかのように言い放つティル。
「そうなんですか?」
「あぁ、魔剣の姐さんの言う通りだよ。俺たちは元々ウォルター海賊団っていう名前で世界中の海を渡り歩いていた。前の船長の時代にマリアガーデンの女王さんに頼まれて、ここで海を荒らす魔物を退治をすることになったのさ」
俺が質問するとバウンスさんはそう経緯を話してくれた。なるほど、元海賊と考えれば大きな体や隆々とした筋肉にも納得がいく。
だが海賊というのは、世間一般的にはあまり良い印象は持たれていないはずだ。どうしてエリュシカ女王は魔物退治を頼むことにしたんだろうか?
バウンス船長やカイルさんの人柄に不満はないが、そこだけ少し引っかかった。
「待て、お前たちウォルター海賊団だったのか!」
と、エレノアが突然驚きの声を上げる。
「エレノア、知ってるの?」
「あぁ。南大陸出身のウォルターという人物が立ち上げた海賊団だ。ただ船長の方針で略奪は一切せず、世界中の海を渡り歩いて魔物たちの討伐を行っていたらしい」
言うなれば正義の海賊ということか。
俺たちのような冒険者は、ほとんどの場合は陸の魔物しか討伐しない。
国という規模で考えても、自国に港町がなければ率先して海の魔物を討伐しようとは考えないだろう。つまり基本的には優先度が低く放置されているのが現状だ。
だが、海の魔物に苦しめられている人たちは間違いなく存在する。
港町に住む人々もそうだが、漁船や商船で働く人々にとっては無視できない脅威だろう。それを進んで討伐するなんて、義賊と言っても差し支えないだろう。
「でも今はバウンスさんが船長ですよね? ウォルターさんは今……」
「頭は数年前から消息不明だ」
「え……」
「魔物討伐の帰りにひでぇ嵐にあってな。船から落ちた船員を助けるために、荒れ狂う海に飛び込んだんだ。幸い船員の方は助かったが、船長は結局帰ってこなかった」
「そうだったんですか……」
バウンスさんが俺たちに覚悟を確認したのは、きっとウォルターさんのことがあったからかもしれない。他のみんなもそう感じたのか、どこかしんみりとした様子だ。
「そう。つまりアンタたちは、その船長の意志を継いで今も活動しているのね」
「そんな大したもんじゃねぇさ。でもな、俺たちはあの人が生きてるって信じている。だからせめてこの海賊団だけは、あの人が戻ってくるまで守り抜こうって、そう思っているだけさ」
「そう。さっきはアタシも言い過ぎたわ、ごめんなさいね」
バウンス船長たちの想いを知ったティルは、素直に頭を下げた。
さっきは俺のことを庇ってくれたのだと思うけど、こういう時に直ぐに謝ることができるのも彼女が優しいからだと思う。
「よしてくれよ! 覚悟は確認したかったが、それ以外のからかうような言葉は俺のミスだ。酒に酔っていたとはいえ、礼を欠いていた」
「なら、これでおあいこにしましょうか」
「そうしてくれると、こっちも助かるぜ」
話はついたとばかりに微笑み合うティルとバウンスさん。先ほどは少し揉めたが、結果的に和解出来たようでホッとする。
旅を共にする上で、変なわだかまりを解消できたのは幸先がいい。ウォルター海賊団という、バウンスさん達の行動理念のようなものを知れたのも良かった。
「じゃあ、そろそろ出航と行こうか。しばらくは陸とおさらばだが、安心しな。責任を持って俺たち『ウォルター海賊団』がお前さん方を東大陸に送ってやるさ」
こうして俺たちは船に乗り込み、大海原に乗り出したのだった。




