世界地図
それからしばらくは、体を休めることに専念する日々が続いた。
ブレーメンからの強行軍で思った以上に疲弊していたらしく、数日間はまともに動かす事が出来なかった。その間も城では今後に向けた協議が重ねられていたようで、体力が回復しきる頃には城下町で既に復興作業が始まっていた。
「あれだけの戦いがあったのに、すごいな」
用意してもらった部屋の窓からその様子を見つつ、ここ数日で鈍った体をほぐすように動かしていく。国の人が頑張ってるのだから、そろそろ動き出さないとな。
「行くの?」
ベッドに腰かけてこちらの様子をうかがっていたティルが、そう声をかけてくる。
「あぁ、状況が状況だしね。それに、そろそろセントシュタットの人たちも方針が固まってきたころじゃないかと思うし」
「ま、頃合いかしらね」
ティルはぷらぷらと揺らしていた足を下ろし立ち上がると、俺の横に立った。
「行きましょう」
「あぁ」
二人で部屋の外に出ると、そこにはエレノアが壁に体を預け立っていた。
「あれ、エレノア。どうしてここに?」
「ふふ、そろそろお前がしびれを切らす頃かと思ってな」
そう言って、してやったりといった表情で笑うエレノア。そこそこ付き合いが長くなると、考えが読まれてしまうのか。なんかちょっと悔しいぞ。
「ふふっ、アンタは分かり易いのよ。おはようエレノア、よく休めたかしら?」
「おはようございます、ティルヴィング様。私は此度の戦でほとんど戦闘を行っておりませんので、休みを頂いたのが申し訳ないくらいです」
「それでもブレーメンから強行軍でここまで来たことに変わりはないわ。貴女は強いけど女性なんだから、体を大事にしなさい」
「お心遣い感謝致します。それよりも、フリッツはちゃんと休んでおりましたか?」
「えぇ、そのあたりは約束通りばっちり監視してたから大丈夫よ」
そう言いつつエレノアにピースを返すティル。ここ数日やたらと監視されているような気がしていたけど、そんな約束をしていたのか……。
「そ、そんなことより今から王に謁見するけどエレノアも来る?」
「もちろん、そのつもりで来た」
「よし、じゃあ行くか」
「ごまかしたわね」
何やらティルが言った気がしたが、聞こえなかったことにしよう。今は王に今後の方針について聞くことの方が重要だ。
※
「お待たせしました皆様、王がお待ちです」
謁見を申し込みに行ったところ、ちょうど王は会議の最中だった。外で十分程度待っていると、そう兵士の人に言われ玉座の間へと通される。中には会議を終えたばかりだからなのか、王をはじめ国のお偉方たちが顔を揃えていた。
「よくぞ参った、救国の英雄たちよ。そなたたちの活躍がなければ、おそらくこの国は滅びていたであろう。本来であれば最大限の礼を持ってその功績を讃えたいところなのだが、あいにく復興中のため十分な礼やもてなしが出来ぬのだ」
「お気遣い感謝致します、王様。しかし自分は大魔導士の後継者として、やるべきことをやったまでです。それよりもセントシュタットの国が今後魔物たちに対しどのような対応を取っていくのか、可能な範囲でお聞きしたいのですが……」
「うむ、では現状で決まったところまで説明しよう。ヘインズ」
「はっ!」
王の言葉に反応したヘインズさんが、俺たちの前までやってきた。
「フリッツ殿、こちらを」
「これは……まさか世界地図ですか!?」
「はい。これは各国の王のみが持つ世界地図です。本来であれば閲覧には世界会議の承認が必要となりますが、この危機的状況ではそうも言っておられません」
「ですが、これでは世界会議でセントシュタットの立場が悪くなるのでは?」
「よい。責任は全て王である余が取ろう。それに、この状況下であれば各国の王から半数以上の理解は得られるであろう」
俺の不安に、セントシュタット王は毅然とした態度で答えた。
確かにバルディゴ王やブレーメン王なんかも、性格は違えど理解のある良い王様だった。この二人は恐らくセントシュタット王に賛同を示してくれるだろう。
「知っての通り世界には四つの大陸と十の国が存在している。そして我がセントシュタット国は、この世界的危機において今こそ世界会議を開く時だと考えておる。もちろん、そなた達にも参加してもらいたい」
「世界会議……」
世界会議は本来、三年に一回しか開催されない。
だが世界的な問題が発生した際には臨時で開催される場合があるため、セントシュタット王は臨時で会議を開催しようと考えているのだろう。
「すでに各国の王へは使いを出しておるが、開催まではまだ時間がかかるであろう。その間、お主には世界地図を使い引き続き勇者の捜索を行って欲しいのじゃ」
今まで旅に使用していた一般的な地図は、測量も大まかで範囲も限定的なものだった。しかしこの世界地図があれば、今までより効率的に行えることは間違いない。
「分かりました。仲間たちと相談し、勇者を探して世界を巡ろうかと思います」
「うむ。苦労をかけるが頼んだぞ、大魔導士よ」
こうして俺たちの旅は北大陸だけに留まらず、世界へと広がっていくことになったのだった。




