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約束

 オレたちが盗賊たちを捕まえた翌日、ペスタの村ではささやかな酒宴が催された。


「おーう、フリッツ先生飲んでるか~?」


「いや、もうかなり飲んでるだけど」


「グラスが空じゃねぇか! おい、誰かフリッツ先生におかわりをお注ぎしろ!」


「まじか……」


 こうやってさっきから代わる代わる酒を注がれ、あまり強い方ではないオレはかなり参っていた。いやまあ、ねぎらってくれる気持ちは嬉しいんだけど。


「ちょっ、ちょっと外で空気を吸ってくる!」


 このままでは完全につぶされてしまうと危険を感じたオレは、適当な言い訳をして外に出る。昼頃から始まった酒宴だったが、すでに夜もそれなりに更けてきていた。風は冷たく、火照った体にはちょうど良かった。


「はぁ……」


 ため息が一つ出る。考えるのは昨日の盗賊たちとの戦い。


 結果だけみれば、確かにオレは勝った。だけど、勝ち方としてはとてつもなく情けなかった。それに、命の恩人であるサーニャまでも危険にさらしてしまった。ティルと出会ったことでどこか強くなった気になっていたが、中身はただの足手まといフリッツのままだったのだ。


「強く、なりたいな……」


 そう強く感じた。今のオレは完全にティルに頼り切っている。しかし、いつまでもティルがオレの剣でいてくれる保証はないのだ。あくまで面白い魔力をオレが持っているから彼女は力を貸してくれるだけだ。だから、


「強く、なろう」


 適正がなんだ。魔法が使えないこととは違い、例え剣士の適性がなくたって剣を振ることはできる。百回振っても強くならないなら千回振ればいいんだ。本格的に強くなるには、極限状態に自分の身を置かないといけない。その為には――。


「フリッツさん?」


 そこまで考えたところで、声をかけられた。


「サーニャ?」


「やっぱりフリッツさんだ。どうしました、みんな探してましたよ?」


「いや……ちょっと涼みたくなってね」


「そうですか」


 サーニャは隣までくるとやわらかく微笑んだ。その笑顔は初めて見た時と変わらず、オレの心を穏やかにしてくれた。


「ここは、いいところだな」


「わたしも、このペスタの村が大好きです。……実はですね、フリッツさん。わたし、本当はこの村で生まれたんじゃないんです」


「えっ!?」


 それは驚きだ。でも、言われてみればサーニャの母親や父親をこの村では見なかった。


「ずっと昔……わたしがまだ赤ん坊のころ、この村に一人の女性が訪れたそうです。女性は大きな怪我をしていて、わたしを村の人に育てて欲しいといった後に息を引き取ったそうです。だから、もしかしたらその人がわたしの本当の母親なのかもしれません……」


「そう、だったのか」


 いつも笑顔を絶やさないサーニャが、こんな悲しい過去を背負っていただなんて思いもしなかった。


「でも、そんな身寄りのいなくなったわたしを村の人たちはまるで実の娘のように育ててくれました。本当に感謝でいっぱいです」


「そっか」


「それで……その、もし良ければなんですが、フリッツさんもこのままこの村に住みませんか?」


「えっ!?」


 サーニャの予想外の提案に、思わず驚きの声をあげてしまう。しばらく行く当てがないことは話していたが、まさかこの村に住むことを勧められるとは思わなかった。


「住む家はわたしの家の今いる部屋を使ってもらって結構ですし、仕事なら今の警備を手伝ってもらえばお給金ももらえると思います! それに、村の人たちもきっと歓迎してくれると思います!」


 一気にまくし立ててくるサーニャ。きっと彼女としても村は大好きだけど一人で住むのは心細いのだろう。そして、本当なら命の恩人ともいえるサーニャのそんな些細な願いをかなえてあげたい。


 しかし――。


「ありがとう、サーニャ。気持ちはとてもうれしい。……だけど、オレは旅立とうって考えてる」


「っ……やっぱり、わたしなんかがお願いしてもだめですよね」


「違うんだ、そうじゃないんだ……」


 どう説明したらいいだろうか分からない。それでもサーニャには何一つ隠したくはなかったので、今考えていることをそのまま伝えることにしてみる。


「実はオレ、元々は魔法使いなんだ。それも、魔法の使えない」


「えっ、それってどういう……」


「冒険者になる時に適正は魔法使いだと言われたんだ。でも、からっきし魔法を使うことができなかった。でも、その代り魔力は好きなだけ生成できたんだ」


「それって、とってもすごいことじゃないですか!」


「まあ、ずいぶん宝の持ち腐れとは言われたけどオンリーワンであることは確かだった。だからオレは調査隊について行って味方に魔力を供給するサポート役としての生きてきたんだ」


「調査隊……今までも色々なところに行ってきたんですか?」


「ノサリア大陸……多分この村もそうだけど、世界地図の右上にある大陸があるだろ? そこは大体の国は行ったよ。今回はバルディゴ王国からこの近くのダンジョンの調査を依頼されてきたんだ」


「お一人でですか?」


「いや、チームだった。ただ最深部でオレがケガをして魔力が生成できなくなったから、仲間たちは先に脱出していったよ」


「そんな……それって、見捨てられたってことですか?」


「状況的に仕方なかったんだ。確かに一人でも多く生きて帰ろうと思ったら、オレを切り捨てるのが正解だった。でも悪いことばかりでもなかったぜ。おかげでティルを見つけることができた」


「じゃあティルさんとは最近出会われたんですね。なんだかそんな風には見えませんでした」


「で、そこから命からがら脱出して気づいたら倒れてたんだ。思えばあそこで見捨てられなかったらサーニャにも会えなかった。そういう意味ではパーティーのみんなに感謝だな」


 オレがそう言うと、サーニャは頬を少し染めて照れたように笑った。


「それでティルについてなんだけど、彼女は魔剣と呼ばれる存在でどうやら魔力があればあるだけ力を発揮できるといった剣みたいなんだ」


「あればあるだけ、ですか?」


「あぁ、それに魔力があれば人の姿にもなれる。これはサーニャも見たと思うけど」


「はい、びっくりするくらい綺麗な方でしたね」


 人の姿をもったティルの姿を思い浮かべたのか、どこか羨ましそうにそういうサーニャ。オレからしたら方向性は違うが、サーニャも十分可愛らしくみえるのだが。


「だからオレはティルを持つことによって強くなったと勘違いしていた。でも違った。それがこの前の盗賊たちとの戦いで嫌というほど分かった」


「でも、あれはわたしが……」


「オレが一流の剣士だったなら、サーニャが盗賊に捕まる前に安全を確保するか、盗賊を倒せていた。それが出来なかったということは、オレはやっぱりただの出来損ないの魔法使いなんだ」


「そんなことはないです! わたしは……わたしは、立派な人だと思います!」


 そういうサーニャは本当に一生懸命で、オレはこんな風に誰かのために必死になれる人を守りたいと思った。


「ありがとうサーニャ。でも、オレは自分で自分を許せなかったんだ。もっと、もっと強くなってサーニャやこの村の人たちを山賊たちだけでなく、魔物からでも守れるようになりたいって、そう思った」


「フリッツさん……」


「だから約束するよ、サーニャ。オレはきっともっと強くなってこの村に帰ってくる。だからそれまで、待っててくれないか?」


「フリッツさん……約束、ですよ?」


 そうしてオレは涙ぐむサーニャと指切りを交わした。サーニャの指はとても小さくて細く、オレは自分の守りたいものをしっかりと小指に覚え込ませた。

果たしてサーニャとこのまま別れることになってしまうのか!?

どうなる次回!? ……と適当に自分で煽りを入れてみました。


ファンタジーを書くなら書きためておくべきだったと今さらながら思いました。

またいつものことながらブックマークして頂いた方、読んで頂いた方、有難うございます!

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