聖女
【お知らせ】
前回聖地の名称を『ゴルダナ』としていましたが、それより前の話で『セフィラ』としたことをすっかり忘れておりました(;・∀・)
なので前話の『ゴルダナ』を『セフィラ』に修正し、今後は『セフィラ』で統一させて頂きます。
混乱を招いてしまい、申し訳ありませんでした。
「あ、あの……。わたし、何かしちゃったでしょうか……?」
いきなり軍議に呼び出されたサーニャは、俺以上に緊張した様子で室内に入ってきた。そんな彼女にどう事情を説明するか考えていた、まさにその時だった。
「セ、セレスティナ様!?」
サーニャを見るや否や、メディナさんが立ち上がりそう叫んだ。
「えっ……?」
サーニャも突然の事態に、戸惑いの声をあげる。俺も言葉の意味が直ぐには理解できなかったし、それは軍議に参加していた他の人たちも同じようだった。
「急にどうされました、メディナ殿?」
「落ち着いて下され、セレスティナ様は聖地におわします」
口々にメディナさんをなだめようとする将兵たち。しかし彼女は席から立ち上がると、よろけながらもサーニャに近づいていく。そして――。
「ご無礼をお許し下され」
「は、はい……」
一言断りを入れてから、サーニャの顔をじっくりとのぞき込むメディナさん。
「むぅ……確かにセレスティナ様に似ておられるが、あの方は聖地におられるはず。それにお子を産まれてから、もう十年以上経つ。このようにお若いはずが……」
そこで何かに気付いたように言葉を止めるメディナさん。
「ま、まさか……一つお尋ね申す、貴女の母君の名前は?」
「お母さんですか? えっと、それが分からないんです」
「分からない……?」
「昔わたしの故郷の村に、赤ん坊連れの一人の女性が来たようなんです。わたしはその女性が村の人に預けた赤ん坊で……だから、本当の両親を知らないんです」
「で、では村を訪れた女性が現在どうしているかは……?」
「その女性は体にひどい傷を負っていたそうで、わたしを預けた直後に亡くなられたって聞きました。もしかしたら、その人がお母さんだったのかもしれませんが……」
「な、なんと……」
サーニャの答えを聞くと、メディナさんはよろよろと後ずさった。
そして倒れそうになったところを、机に手をつき何とか体を支える。得られた情報をどう処理したらいいか分からず、戸惑いを隠せないといったような感じに見えた。
そして、それは俺も同じだ。
今のやり取りを聞いた限り、おそらくサーニャの容姿は聖女であるセレスティナ様と瓜二つなのだろう。聖女様の顔を知る人は少ないだろうが、セントシュタットの宮廷付き魔法使いであるメディナさんなら知っていたとしてもおかしくない。
そして聖女様には子供がいて、生まれてから十年以上が経っているという。つまりメディナさんは、サーニャがセレスティナ様の子供だと考えたのではないだろうか?
もしこの仮説が真実であった場合、サーニャを村に預けた母親と思われる女性がセレスティナ様だったという可能性がある。
だが、どうしてセレスティナ様が怪我を負ってペスタの村に?
バルディゴ王から聞いた話では、聖地とは定期的にやり取りをしているとのことだったし……。ダメだ、俺も情報の整理が追いつかない。
「サーニャ」
誰もが突然の事態に戸惑う中、ティルが静かにサーニャの名前を呼んだ。
「は、はい……」
「これから話すことは、貴女にとっては辛いものになるかもしれない。でも大事な話なの……聞いてくれるかしら?」
「わ、分かりました」
きっと俺たち以上に混乱しているはずなのに、サーニャはその問いかけにしっかり頷いた。ティルはそれを確認すると、彼女の瞳をしっかりと見つめ語り始めた。
「メディナの反応で確信したわ。サーニャ、貴女は間違いなく先の大戦で勇者と共に戦った聖女セレスと――そして当代の聖女であるセレスティナの血を引いている」
「わ、わたしが聖女様の?」
「えぇ。そして貴女がマリクの後継者たるフリッツと出会ったのも、また運命なのでしょうね。不思議かもしれないけど、いつの世も勇者とその仲間たちは導かれるようにして出会い、魔王との戦いに打ち勝って伝説となる」
それは連綿と続いてきた人と、そして魔族との歴史だ。それは人から人へと語り継がれ、おとぎ話や伝説として今も世界中に残っている。
「本当なら貴女を戦いに巻き込みたくはなかった。いえ、貴女だけじゃない。かつて勇者と共に戦った聖女たちは、みんな貴女と同じでとても優しい子だったわ。だからこそ、大きな戦いが起こると分かっていて巻き込みたくなかった」
そうか、ティルは歴代の大魔導士と共に戦ってきた魔剣。
つまり各世代の聖女とも顔見知りになるわけだ。だから彼女たちの優しさも知っているし、厳しい戦いに巻き込まれ、どれだけ辛い思いを経験したかも知っている。
「貴女が最初に回復魔法を使ってフリッツを癒した時、まさかと思ったわ。心のどこかでは違うと信じたかったけど、結局はこうなってしまうのね……」
ティルの表情がどんどん悲痛なものへと変化していく。否が応でも魔物たちとの戦いに引きずり込まれる、その運命を深く恨んでいるかのように。
「だからこそ聞くわ。今後も続く魔物たちとの戦いに、立ち向かっていける?」
それはサーニャの覚悟を問う質問。たとえ答えがどんなものであろうとも、今後の彼女の人生を大きく左右することは間違いないだろう。
「もし戦いたくないと言うのであれば、アタシが責任をもって貴女を戦いから遠ざけてあげる。だってアナタには自由に生きる権利があるもの」
そう。例えサーニャに聖女様のような力があったとしても、戦いを強制する権利なんて誰にもないのだ。彼女には戦いから離れ、穏やかに暮らすことを選ぶ自由があるのだ。だからティルは最後の判断を彼女自身に委ねたのだろう。
――叶うことなら、サーニャが戦いから離れてくれることを願って。
「ティルさん、ありがとうございます。旅に出てから、わたしのことずっと心配してくれてましたよね? 申し訳ないなって気持ちもあったんですけど、実はわたし嬉しかったんです。何だかお姉ちゃんが出来たような気がして……」
そしてティルのその気持ちは、しっかり伝わったのだろう。ただ一つだけ誤算があったとすれば、サーニャは俺たちが考えている以上にずっと強かった。
「ティルさん、わたし戦います。ずっと癒しの魔法が使える意味を考えていたんですけど、ようやく分かりました。世界の為に戦うフリッツさんを助ける為に、きっとこの力が与えられたんですね」
「サーニャ、貴女……」
「そんな悲しそうな顔しないでください。わたし、これでも嬉しいんです。これからもフリッツさんの側で役に立てると分かったんですから!」
「そう……そうね。貴女はそういう子だったわね」
「きっと考えているよりも、ずっと大変なんことなんだと思います。でもみなさんが怪我をした時すぐに治療出来なかったら……わたし、ずっと後悔すると思います」
優しいサーニャはきっと提案を断ってしまう。俺でさえ予想できたのだから、きっとティルもこの結果は分かっていたはずだ。それでも、言わずにはいられなかった。
「……ごめんなさい、覚悟が出来ていなかったのはアタシの方だったわね」
「そんな! わたしの方こそすみません、せっかく色々考えてもらったのに……」
「いいのよ。どうせ断られるって分かってたから。でもわたしが聞かないと、どこかのポンコツ魔法使いは情報をまとめるので精一杯みたいだったしね」
そう言ってティルはこちらに視線を寄こした。まいったな……見抜かれてたか。それに、彼女に辛い役目を押し付けてしまった。
「ごめんティル。あと、ありがとう」
「わたしからも……ティルさん、色々考えてくれてありがとうござました」
俺の言葉に合わせて、サーニャはティルをそっと抱きしめた。容姿こそ全く異なるが、照れくさそうに笑い合う二人はまるで本当の姉妹のように感じられた。




