束の間の休息
その後も作戦会議ではさまざまなことが話し合われた。
中でも特に議題にあがったのは、やはり転移魔法についてだ。魔物どこから送られてくるかも分からないため、敵の戦力も見えてこない。また考えたくはないが、城に直接送り込まれてくることがあれば大混乱となってしまう。
備えられるだけの対策を打つべきだ――その想いは全員が一致しており、会議は長時間に及んだ。そして夜も更け日付が代わり、ようやく終了を迎えたのだった。
第一師団長が解散を告げると、隣に座っていたヘインズさんが話しかけてきた。
「フリッツ殿。私は町に戻りますが、貴殿はどうされますか?」
「仲間を残して来ているので、俺たちもいったん戻ろうと思います」
「分かりました。では参りましょう」
少し会議が長引いてしまったから、残してきた二人が心配だ。そんな想いもあり町へ向かう足は自然と速くなる。二人とも少しは休めていたらいいんだけど……。
※
「あっ、フリッツさんおかえりなさい!」
「おかえりなさいませ、フリッツ様」
町にある作戦本部へ戻ると。クロエとサーニャが出迎えてくれた。
それは良いんだけど……。
「二人とも、まだ治療を?」
出掛ける時と変わらず、二人はまだ負傷兵の治療を行っていた。それは自体は本当に良いことなんだけど、さすがに疲れが心配になってくる。
「ヘインズさん、二人を少し休ませてもらえますか」
「えぇ、もちろんです。お二方、部屋を用意させますのでそこでご休憩くだされ。食事も後ほど兵士たちに運ばせますので」
「いえ、まだ負傷している方がいるのにわたしだけ休む訳には……」
「サーニャ様はお休みください! わたくしこそ大したことは出来ておりませんので、治療を続けたいと思います」
どうやら二人とも怪我人を残して休むことに抵抗があるようだ。でも、このままだと遠からず倒れてしまう。それだけは何としても避けなければならない。
「二人とも聞いて。もし明日も魔物の襲撃があったら、きっと二人の力が必要になる。だから万全の状態で明日に備える為にも、今は休んで欲しいんだ」
だから正論で説得する。真面目な二人なら、必ずこれで納得してくれるはずだ。
「……分かりました。みなさんすいません、少しお休みをもらいます」
サーニャは少し後ろ髪を引かれる様子だったが、頭を下げて部屋を後にした。そんな彼女の後姿に、兵士達からも暖かい感謝と労いの言葉がたくさん掛けられた。
後はクロエなんだけど……。
「……」
「クロエ?」
「わたくしはサーニャ様と違って役に立っておりません。そんなわたくしが休む訳には……」
彼女の中でまだ納得しきれない部分があるのか、部屋に戻るのをためらっていた。だけど役に立っていないなんて、そんなことは決してない。
「サーニャは確かに癒しの魔法を使えるけど、自分に出来ることを精一杯やったって意味ならクロエも変わらないだろ? ここにはキミに助けられた人がたくさんいる」
「そう、でしょうか……」
「あぁ。だから気に病む必要なんかない。今はゆっくり休んで」
「はい……」
まだ完全に納得した様子ではなかったけど、。クロエはようやく頷いてくれた。だけど、やっぱり14歳の女の子にいきなり戦場はキツかったかもしれない。
実力はあっても、精神的負担が大きすぎるのだ。くそっ、見通しが甘すぎた……。でも後悔はひとまず後だ。今はこの戦いを出来るだけ早く終わらせないといけない。
※
サーニャとクロエには、町にある宿屋の一番良い部屋が用意された。幸い室内も荒れてはおらず、俺たちはいったん部屋に集まって作戦会議の内容を二人に伝えた。
「転移魔法、ですか」
「あぁ。まだ確証があるわけじゃないけど、その可能性が高いと思う」
「そんなものがあるなら、お城の守りもおろそかにはできませんね……」
「上級悪魔……わたくし達に倒せるでしょうか?」
サーニャは転移魔法について気になったようだが、クロエの方は魔物たちの背後に控えている存在が気掛かりなようだった。
「ティルが言うに上級悪魔と魔獣の強さは同程度らしい。だから俺とエレノアが力を合わせれば、勝てないこともないと思うんだけど……」
問題は上級悪魔ではなく魔将だった場合だ。作戦会議の場では士気にも影響するから聞けなかったけど、実際のところどうなのだろう?
「ティル。相手が魔将だった場合、勝ち目はどれくらいかな?」
そう尋ねると腰に下げた魔剣が眩く光り、瞬く間に人の形をとった。
「実際に戦ってみないと正確なところは言えないけど、勝ち目がないわけじゃないわ。ただし、多くの犠牲は出るでしょうけどね」
勝ち目がないわけではない――という言葉に少し安堵はするものの、やはり犠牲は覚悟しなければならないということに気分が重くなった。
「アタシが魔力を多めに吸っても、フリッツが出せる力はせいぜい40。これでようやく傷がつけられるかってところね。魔将相手なら60は欲しいところだけど」
「60……」
エレノアに稽古をつけてもらって剣の修行はしてきたが、魔法の方は最近手を付けられていなかった。まあどっちにしても、付け焼き刃ではどうしようもない。
「はぁ……」
「どうしたフリッツ?」
「いや、マリクの後継者としての自覚が足りてないなーと思って」
「仕方あるまい。ここ最近のお前は、ずっと何かしらの問題に奔走してきたのだ。それだけでも十分な働きだろう」
エレノアはそう言ってくれるものの、自分では納得しきれないというか……。ってそうか、クロエもさっきこんな気分だったっか。注意しておきながら自分も同じことを考えているなんて、笑えない。むしろどの口がという感じだ。
ダメだ、気分が滅入ってきた。外の空気でも吸ってこよう……。
「ん、急に立ち上がってどうした?」
「ちょっと夜風に当たってくる。エレノア、二人を頼める?」
「……あぁ、ゆっくりしてこい」
何かを察してくれたのか、エレノアは理由を聞いてこなかった。
その心遣いを有難く思いながらも、腰掛けていたベッドから立ちあがる。すると、向かいに座っていたクロエが同時に立ち上がった。
「あ、あのフリッツ様! わたくしもご一緒して良いでしょうか?」
一瞬驚きはしたものの、クロエの元気がない様子はさっきから気になっていた。話を聞くにはちょうど良い機会なので、もちろん断るなんて選択肢はない。
「じゃあ、一緒に行こっか」
「あ、有難うございます!」
上手く不安を和らげてあげられてら良いんだけど……そう思いながら、俺はクロエをともなって宿から出るのだった。
今回もお読みいただき有難うございます!
次回更新は二、三日後を予定しております。
それにしても内容があんまり進んでいないような……(;・∀・)




