クロエの相談
部屋で簡単に荷物の整理を終えた後、酒場へと向かう。街を歩いているとちょうど冒険から帰ってきたところなのか、同じように酒場へと向かう人々と一緒になった。
やはりどの街でも、夜に酒場が繁盛するのは変わらないな。そんなことを考えつつも思いつつも扉をくぐると、店内はたくさんの客でごった返していた。
さてクロエはどこにいるだろうかと視線を巡らせると、直ぐに見つかった。
しかし、何やら状況があまり良くないと感じる。彼女は酔った冒険者に絡まれているようで、その顔は今にも食って掛からんとしていた。
「おいおい。嬢ちゃんのようなお子様が来るところじゃないぜ、ここは」
「分かっておりますが、人と待ち合わせをしているのです!」
「じゃあそいつが来るまで酌でもしてくれよ」
「お断りします!」
「おいおい、そんなに邪険にしなくてもいいじゃねぇか」
クロエは生理的に酔っ払いの冒険者が気に食わないのか、少しムキになりながら拒否反応を示す。これは早く助け船を出した方が良いな。
「クロエ、お待たせ」
「……フリッツ様!」
俺の姿を確認すると、クロエは直ぐにこちらに駆け寄ってきた。しかし酔っ払いの方はというと、ないがしろにされたことが気に食わないのか因縁をつけてきた。
「おい兄ちゃん、その嬢ちゃんとは俺が話してたんだ。すっこんでな!」
「いい大人が少女相手に絡むにはどうかと思うぞ?」
「うっせぇ!」
「おっと!」
急に殴りかかられるも、エレノアとの修行の成果か自然に体が避けてくれる。
「いきなり殴りかかるなんて、冒険者の風上にもおけません!」
クロエの方も酔っ払いの行動を見て憤慨し、周囲の客もなんだなんだとこちらに注目し始めている。
まずいな……このまま騒ぎを大きくしてしまうと、店に迷惑をかけてしまう。なんとか穏便にことを済ませたいが、ここは一つやってみるか。
「話を邪魔したのは悪かった。ただ俺は彼女と大切な話があるんだ。悪いがこれで追加の酒でも飲んでてくれないか」
「お、おう。なんだ、話の分かる兄ちゃんじゃねぇか。へへ、有り難く頂くぜ……」
俺が効果を数枚握らせると、酔っ払いは上機嫌で席へと戻っていった。ふぅ、スマートなやり方じゃないけどなんとかおさまったか。
「フリッツ様、あんなやつ成敗してやればよかったものを!」
あぁ、こちらはおさまってなかったか。正義感が強そうなクロエとしては、今のやり方には納得がいってないのだろう。
「クロエの言いたいことも分かるけど、ここで騒ぎを起こしてしまうとお店に迷惑がかかっちゃうから」
「それは……そうですが」
「ま、とりあえず座ろうか」
納得していないクロエを何とかなだめて、空いている席に座る。そうすると、店員がどこかほっとした表情で注文を取りに来た。
今から話を聞くのだから酒は頼めないし、とりあえず適当な飲み物を頼む。
「クロエはどうする?」
「……では、わたくしも同じものを」
注文を済ませ店員が下がったのを確認すると、本題を切り出すことにした。
「何か話したいことがあるってことなんだけど?」
「はい! ……とは言っても、どのように話せばいいか」
「時間は気にしなくていいから、ゆっくり話してくれていいよ。あっ、門限とかある?」
「いえ、そのあたりは大丈夫だと思います。それでご相談なのですが……単刀直入に言いますと、わたくしをフリッツ様たちの旅に同行させて頂けないでしょうか?」
「えっ、俺たちの旅に?」
「はい」
クロエの表情は真剣だった。最初に会った時も積極的に売り込みに来ていたし、勇者に強いあこがれがあるのだろうか?
「勇者に強い思い入れがあるみたいだけど、何か理由が?」
「もちろん勇者というものに、強い憧れがあるのはその通りです。ですが旅に出たい一番の理由は、両親のことがあったからです」
「ご両親の?」
それは一体どういうことだろうか?
「実はわたくしの両親は、数年前に国に現れた魔獣討伐の際に命を落としております。父も母も正義感が強く、武芸には優れておりました。王である叔父上は止めたのですが民のためと二人とも討伐に向かいました」
「それで……」
「結果、魔獣の討伐には成功しましたが、二人とも重症を負いそのまま息を引き取りました」
クロエは吐き出すように一気に言い終えると、大きく息を吐いた。
なるほど、彼女の正義感の強さはご両親譲りだったのか。そんなに幼い頃に両親を失ったのだ。きっと辛い思いをしたのだろう。
「ごめん、悲しいことを思い出させてしまったね」
「……いえ、わたくしが聞いて欲しかったのです」
「それでクロエは、ご両親の遺志を継ぎたいと思っているのか」
「はい。わたくしなどでは勇者は務まらないのは重々承知しております。それでも、自分のような思いをする民が一人でも減ったらと……」
「そっか……」
そこで注文していた飲み物が運ばれてきた。果実をベースにしたジュースで、気分が少しでも落ち着けばと思いクロエに飲むように勧める。
「でも、どうして俺たちなんだ? クロエも見習いとはいえ、ブレーメンで勇者として活動しているんだ。このまま活動を続ける方が、母国にいれるし良いと思うけど」
ジュースを飲んでいるクロエに、少し試すような質問を投げかける。
というのもクロエの自称している年齢は疑わしかったし、危険なものになると分かっている旅に連れて行っていいものか判断をしかねていたのだ
「もちろんフリッツ様が大魔導士マリク様の後継者であり、今現在も勇者を探す旅の途中だからというのもあります。ですがそれとは別に、本来わたくしはこの国で勇者として活動できないからです」
「やっぱり、16歳っていうのは嘘なんだ」
「やはり察しておられましたよね。はい、わたくしの本当の年齢は14歳です。だから本当は見習い勇者としても認められていなくて、叔父上のお情けで真似事をさせてもらっているに過ぎないのです……」
「なるほど。つまり、活動を続けてはいても正式に認められるまで二年はかかってしまうんだね。じゃあ二年しっかり修行を積んで、二年後に正式にちゃんと認めてもらうっていうのはダメなの?」
「ですがフリッツ様、二年後に世界があるという保障があるでしょうか? 魔界門が完全に開いてしまえば、あっという間に地上は魔王軍に制圧されるでしょう。その前に、なんとしても実力をつけたいのです!」
確かにクロエの言うことも一理ある。
俺たちはいつ開くか分からない魔界門に脅えながら、勇者を探さなければならないのだ。一度開いてしまえば、魔界から次々と魔物たちが攻め込んでくる。その時、戦う力のない人は成す術もなく殺されてしまうだろう。
そして、そういう時に役立つ力は実戦でしか得ることが難しい。
「ひとまず言いたいことは分かったよ。一つ確認したいんだけど、クロエ自身は今どれくらい戦えるの?」
腰に剣を下げているので、戦うことはできるのかもしれない。だけど、その実力はいかほどだろうか?
「父と母から剣術を習っていたので、この城の兵士には負けません。実は先の魔獣騒ぎの時も、洞窟の途中まで行っていたのです。途中で城の兵士たちに泣きつかれて、帰らざるを得ませんでしたが……」
「そ、それはすごいね……」
まさか、そんなにも強かったとは。そこまでの実力であれば、純粋な剣術なら普通に俺より強いだろう。そんなクロエが仲間に加われば確かに心強い。
だが――。
「もし俺たちと行くにしても、ブレーメン王は許してくれる?」
「それは……説得してみせます! それくらいできなければ、フリッツ様たちについていく資格はないと思っておりますゆえ!」
いや、俺自身はそんなたいそうな人間じゃないから別にいいんだけども……。とにかく他のみんなの意見も聞かなきゃいけないし、俺が聞ける話はこれくらいか。
「クロエの覚悟も分かったし、俺としては出来れば連れて行ってあげたい。だけど返事は、他のみんなの意見を聞いてからで良いかな?」
「そ、それで十分です! わたくしの方も、ぜったい叔父上を説得してみせます! 必要とあらば、お仲間の皆様も!」
「いや、そんなお礼を言われるようなことは……まだ決まったわけじゃないしね」
「それでも……う、うぅ……」
「ちょっ、クロエどうして泣くの!?」
「今までいろんなパーティーに打診してきましたが、ここまで真剣に話を聞いてもらったのは初めてで、うれしくて……」
そしてついに感情があふれ出してしまったのか、クロエはおいおいと泣き始めてしまった。やはり本人としても了承を得られるか不安はあったのだろう。
それは分かるんだけど、周囲から冷たい視線で見られているような気が……。
「おい兄ちゃん、子供を泣かしちゃいけないぜー!」
あぁ、やっぱりそう見えるよな!? ど、どうしよう。
「クロエ……とりあえず出ようか」
「ひっく……うえぇーーーん!!」
「もっとひどくなった!?」
どうやら彼女は、酒が入っていなくても泣き上戸らしかった。ひょっとして酒の匂いだけで酔えるような、そんな体質なんだろうか?
その後クロエが泣き止むまでは、針のむしろに座っているような心地だった。長く滞在しないとはいえ、しばらくこの酒場は使えないなぁ。
話の構成や展開に悩んで遅くなってしまいました(;・∀・)
ここからどんな風に膨らませていくのか、それとも畳んでいくのか難しいところですね。
こういった投稿サイトではどこまでも書き続けられる分、どこで終わらせるかも難しいところですね。




