第96話 エレンの決断・2
「そっか、よかったよ」
生きることにした、というエレンの言葉に私は心からそう言った。
セスの予想通り、というわけか。
死ぬことにしたなんて聞きたくなかったし本当に良かった。
「私ね、貴方が死にそうになってた時に死んでほしくないって思った。セスが罪に問われると知った時、その罰が軽ければいいと思った。私が仲間をそう思うように、みんなが私のことを思ってくれていたのは分かっていたの。でもそれを素直に受け取れなかった。受け取ってしまったらパーシヴァルに悪いんじゃないかって」
「うん」
「でもパーシヴァルは私のために私を助けてくれた。あの時の私にはそれが重かったけど、今ならそれを受け止められる。だからパーシヴァルが守ってくれたこの命を、私も守らなきゃ」
「うん」
エレンの話を私はただ相槌だけを打って聞いていた。
無理をしてではなく、自然とそう思ったのだろう。エレンはどこか吹っ切れたように笑みを浮かべている。
「最初にシエルが"いつでも泣いていい"って言ってくれたこと、嬉しかった。あの言葉があったから私は泣くことで心を保つことができた。ありがとう」
「ううん。よかったよ。本当によかったと思う」
よかったしか言ってないけど本当にエレンがここまで立ち直ってくれてよかった。
「みんなは知ってるの?」
「ええ、もう言ったわ。セスにも。貴方が最後よ。私が全員に直接言いたいから話題には出さないでってみんなに頼んでたの。セスは……セスは私が話をしたら優しい顔で笑ってた。あんな風に笑える人なのね」
それはきっとセスも変わったからだ。エレンのことを仲間だと思っているから、きっと心から安堵したのだろう。
それにしても全員に直接言いたいから、か。なんともエレンらしい。
「エレンはさ、セスに殺してあげるって言われてどう思ったの?」
今なら聞ける気がして口に出してみる。
あの涙の意味を、最後に知りたかった。
「……嬉しかったわ。あぁ、パーシヴァルに守られて生き延びた私でも死んでいいんだって。あの直後は本当にそうしてもらうつもりでいたもの」
「そっか……」
エレンには本当にそれが救いになってたのか。
すごいな。それが救いとなることも、あの時のエレンにそれが必要だとセスに分かったことも。
「シエル」
「ん?」
「ありがとう」
「僕は何もしてないよ」
そこまでのことはしていない。できなかった。
エレンを救ったのはセスと、献身的に支えたリーゼロッテだ。
私は成り行きを傍観していただけに過ぎない。
「いいえ。みんな私の命をパーシヴァルと同等に見てくれた。誰もいない私を」
「…………」
それを言ったら。
私だってそうだ。私にも誰もいなかった。家族が死んでからは誰からも愛されず誰からも必要とされなかった。
でもこの世界の父と母は親としてシエルという子供を必要としてくれた。3班のみんなもこんな私を仲間だと思ってくれた。
「……僕も、みんながこんなに心配してくれて嬉しかった。僕が死ぬんじゃないかってなった時に、みんなが必死で助けてくれて嬉しかった。エレンもありがとう。仲間っていいもんだね」
「そうね」
頷いて笑うエレンを可愛いと思った。
別に私は女なので異性として可愛いとか思っているわけではなく、この結論に達したからこそできるその笑顔が純粋に可愛かった。
そして、最後の任務が終わった。
下山して駐屯地に足を踏み入れた時、いつもとはやはり違って達成感に満ち溢れていた。
みんなもそうなのだろう、どこか晴れ晴れとした顔で地を踏みしめている。
ここで過ごす最後の時間全てが特別に感じられた。
班長とセスは引継ぎなどで忙しいと言って朝食には来なかったが、3班のメンバーであの時はこうだった、ああだったと話に盛り上がった。これを、パーシヴァルとも一緒にできたらよかったのに……。
そう思わずにはいられない。




