第95話 エレンの決断・1
「班長は依頼の内容を知っているんですか?」
危うく頬を染めそうになってしまったので、慌てて話題を切り替えた。
「いや、俺は知らない。まぁ、でもシエルに頼むと言うことは、シエルでなければならない理由があるのだろう。エルフなら騎士団にもいるからな」
「エルフが騎士団にいるんですか?」
「と言っても俺は1人しか知らないが、いるにはいる」
「そうなんですね」
ベリシアの国民になったということだろうか。騎士団にいるエルフのことを父たちも知っているのかな。それにしても意外だ。
というか、私でなければならないとか余計に気になる。聞かなきゃよかった。
「さて、ゆっくり休めよ。また夕食の時にな」
「はい。ありがとうございました」
班員用の宿舎の前で、ガヴェインとセスと別れて私は部屋へと戻った。
部屋に戻るとニコラは寝ていた。
やることもないので私も仮眠を取ることにしよう。
「……エル、シエル!」
誰かが私の名を呼びながら肩を叩いている。
目を開けるとニコラが覗き込んでいた。
「ニコラ、おはよう……」
「おはよう、もうお風呂の時間だよ」
もうそんな時間なのか。結構寝てしまったようだ。
疲れていたのかもしれない。
「起こしてくれてありがとう」
「ううん。ねぇ、どうだったの? セスの審判」
相当気になっていたのだろう、捲し立てるようにニコラが聞いてきた。
「あぁ……不問になったよ。みんなが提出してくれた進言書のおかげだよ」
「そっかぁ、よかった!!」
本当に嬉しそうにニコラは笑って言った。
ニコラはリベリオの態度が気に入らないと激しく怒っていたんだっけ。それに直接私が暴れたのを見ていた分、他の人よりも成り行きを心配していたに違いない。
お風呂に行ってフィリオとアイゼンにも報告すると、2人とも同じように笑顔でよかったと繰り返した。
その後の依頼のことは言っていいのか悪いのか判断ができなかったので、とりあえず伏せておくことにする。
「シエルから聞いたかもしれないけど、今回のことは不問となった。君たちが進言書を提出してくれたおかげだ。ありがとう」
夕食時、セスが開口一番にそう言った。
初めて聞いたであろう女子たちは、フィリオたちと同じように喜びを露わにした。それは当然のことだと思うけど、さっき聞いたはずの残りの男子たちも初めて聞いたかのように喜んでいる。
レオンはお風呂のタイミングが違うからどうなのか分からないけど、他の男子には言ったのに!
「……シエルから聞いてなかったのか」
「いや、男子には言ったよ!?」
その喜びようを見てセスが勘違いしてるので慌てて訂正する。
「喜ばしいことは何度聞いても喜ばしいからな!」
アイゼンが何だかよく分からない理屈を言っているが、まぁいいだろう。
その後は雑談が主だったが、セスが依頼のことを口にすることはなかったので言わなくてよかったのかもしれない。
それから2週間。
ついに最後の任務の日が来た。
あれからここまで大した怪我人も出ずこの日を迎えることができた。
今日は23時〜7時。朝駐屯地に帰って任務が終わりとなる。
明日中にここを発てばどのタイミングで出発してもいいらしい。
数日前に全員で話し合って、帰ってきてお風呂と朝食を済ませ、仮眠を取ってから昼食を食べて帰ろう、という風に意見がまとまった。
そして今は最後の休憩だ。
エレンとの。
「私、生きることにした」
休憩に入ってしばらく沈黙が続いていたが、唐突にエレンが口を開いた。
3週間前、任務が終わってもパーシヴァルの命の重さに押しつぶされそうだったらセスに殺してもらう。エレンはそういう約束をしていた。




