第93話 審判・5
「なるほどな。今俺の目の前にいるのは俺の知らないセスだったようだ。だが、そういうお前の方がいいと思う。よかったな」
ヴィクトールの言葉から、子供の成長を喜ぶ親のような感情が見て取れた。
「……さぁ、どうかな」
それに反し、悲しそうにセスが笑った。
「今までのお前ならそんなことを思うことすらなかっただろう。ミトスの人間だって、信用に足る者はいるということを知れただけでもいいと思ってほしいものだな。……さぁ、そろそろ審判を言い渡そうか」
急に真面目な顔になって、ヴィクトールはセスを真っ直ぐに見つめた。
そうだ、まだどういう処分が下されるのか決まっていないんだった。
「今回の件は不問とする」
その言葉に驚きの表情を浮かべたのは私だけだった。セスすら表情を変えることはなかった。
あれ? みんな予想していたの?
いや、だってあれだけみんな処分は免れないって言ってたじゃん。
なんでやねん。
「主な理由としてはシエルが処罰を望んでいないことと、3班の班員や騎士団の人間からの進言によるものだ。だが、そうだとしても本来罰は科さなければならない。だからこれは"貸し"だ」
「騎士団に借りを作るくらいなら罰則を与えていただきたい」
"貸し"という言葉にセスが眉をひそめて言った。
まぁ、そうだよね。そう言うよね。
「そうだろうな。だが俺の支配下にあるお前にはこの決定に従ってもらう。この仕事が終わったらお前に頼みたい仕事があるんだ」
「……そろそろベリシアを離れるつもりなのですが」
「だが引き受けてもらう。"借り"は返してもらうぞ」
何て強引な。
ヴィクトールはこの件を逆に利用したわけか。
「……拒否権はない、と」
「悪いな。まぁ、内容は後々に話すとする。今は他にやるべきこともあるからな。シエル」
「は、はいっ?」
突然名前を呼ばれて裏返った声が出た。
「こちらへ来い。治癒術師長に対して暴挙に出た審判を行う」
……ん?
…………んん!?
セスがその場から離れて私のためのスペースを開けたので、よく分からないまま私はそこに歩いて行った。
まじか。まじでか。そういう理由で私はここに呼ばれていたのか。
そうか、リベリオに対して暴挙に出た罪を問われるのか。へぇ……そうなんだ。目上の人間だもんね。なんてどこか冷静に考えている風を装っているけど冷や汗が止まらない。
何でそのこと誰も教えてくれなかったの。
っていうか、それでどんな罰則を受けるんだろう。やばい、どうしよう。
「さてシエル。お前は治癒術師長であるリベリオに対して乱暴に掴みかかるなどの暴挙に出た。そうだな?」
セスの時と同じように鋭い視線で私を射抜いてヴィクトールが言う。
「はい、間違いありません……」
必死で目を逸らさないように耐えて私は答えた。
「この件に関しては、シェスベルの副作用で興奮状態にあったことが大きな要因であり、リベリオも処罰を望んでおらず、ガヴェイン、セス両名から寛大な処分を求める進言もあったことにより、不問とする」
「…………」
え、なにこの茶番。
やる必要あったのかな?
いや、あるのか。一応私に罪を問わなければならないのか。
「悪いなシエル。形式上どうしてもやらなきゃならなかったんだ」
苦い笑みを浮かべてヴィクトールが言った。
「いえ……寛大な処置をありがとうございます。リベリオさん、すみませんでした。班長とセスもありがとうございます」
リベリオは私の言葉にもその表情を崩すことなくただ目を逸らした。照れているのかなんなのか。
そしてガヴェインとセスは苦笑いを浮かべて私を労うかのような視線を送ってきた。
「それでシエル。先ほどセスに依頼した仕事だが、お前の手も借りたい」
「……え?」
思いもよらない言葉に、素っ頓狂な声が出た。




