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第92話 審判・4

「……長くなる」


「構わない」


「…………」


 セスが目を伏せた。

 何かを考えているような長い沈黙に、それでもヴィクトールは何も言わず、ただその言葉を待った。


「……彼らは子供だ。別に子供だと馬鹿にしているわけではなくて、まだほんの十数年しか生きていない、これからたくさんの未来が待っている子たちだ」


 静かに話し始めたその言葉は、ヴィクトールの質問にどう繋がっているのかよく分からないものだった。

 しかしヴィクトールは真剣な表情でそれを聞いている。


「たくさんの未来の中からあえてこれを選び、命の危険を承知でここに立つ彼らを俺は守りたいと思った。最初は本当にそういう気持ちで、誰も若い命を落とさないようにとサポートに努めた」


 なんだろう。この前ヴィクトールに聞いた話とセスの言っていることは違う気がする。

 セスは誰かのための行動を取らない、誰のことも信じていない、そんな話だったのに。

 でも確かに前に横穴で、自分が主体として戦えれば助かる命もあるかもしれないと言っていた。それはすなわち誰かのための行動と言える気がする。


 最初から私たちの前にはヴィクトールが知らないセスがいたのだろうか。


「彼らは俺がリュシュナ族だと知っても損得勘定のない純粋な厚意を向けてきた。シエルなんて、俺が何の種族か聞いてすら来なかった」


 セスは私を見て呆れたように笑う。


 ということは、みんなセスがリュシュナ族って知っていたのか。

 みんなでいる時にそんな話になったこともなかったのに。


「彼らは……パーシヴァルを救えなかった俺を責めてはこなかった。それどころか俺1人に背負わせたくないだなんて強い気持ちをぶつけてきた」


 それは私のことだろうか。

 エレンを殺してあげると言ったあの時に、私はセスを追いかけてそう言った。


「最初はただ義務感のようなものだったはずなのに、彼らの純粋な気持ちに自分もまた厚意を返したいと思うようになっていた。こんな気持ちを持ったのは記憶にないくらい前だから、正直戸惑ったくらいだ。シエルにシェスベルを連続投与したのも、そんな気持ちから来るものだった。目の前でひどく苦しむシエルを見ているのが辛かった。苦痛を失くしてやりたかった。これが"仲間"というものなのだろう」


 今まで誰にも吐き出すことのなかった溜め込んだ思いを少しずつ吐き出すかのような言葉に、胸が締め付けられるような感覚になった。


「シエルが俺のためにあのような行動を起こしたと知って、正直嬉しかった。ニコラも、普段からは考えられない様子で俺のために感情を荒立てて気持ちをぶつけてくれた。他のみんなも俺のために進言書を提出してくれた。そんな彼らの真剣な気持ちに、自分もまたそれを返したいと思った。子供だと思っていた彼らは立派に自分と対等な仲間だったんだ。……これが、質問の答えだ」


 セスが柔らかく笑った。


 こんな風に笑えるんだ。

 今まで悲しそうだったり、苦しそうだったり、そんな笑みは見ていたけど、純粋な喜びから来るような笑みは初めて見た。


「……どうして泣くの?」


 そんなセスが困ったように笑って私に聞く。

 発言してもいいのだろうか。

 ヴィクトールに視線を移すと発言を許可するという意味だろう、頷いてくれた。


「……嬉しいからかな?」


 自然と溢れていた涙を拭って私は答えた。

 ここに来て本当によく泣く。何でだろう。意図しているわけじゃないのに自然と涙が溢れてしまう。

 でも今まで誰のことも信じられなかったであろうセスが、私たちのことを仲間だと思ってくれて私たちのために何かをしたいと思ってくれたことが嬉しかった。

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