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第91話 審判・3

「しかしながらあの場でのシエルの苦痛は相当なものであったことは確かでしょう。その苦痛を取り除きたいと考えるのは医術師として当然のことではあります。秘密裏に済ませようとしたことは別として、連続投与の判断を下したセスの考えも理解はできます。 そして、シエルがこのような行動を起こしたのは私の不用意な発言によるものです。この件の責任の一端が私にもあることは否めません。故にこの場を借りて謝罪すると共に、寛大な処分を求めます。セス、シエル、申し訳なかった」


 リベリオの言葉に私もガヴェインも驚きの表情を隠せなかった。

 リベリオの方を向いているセスの表情は見えないけれど、きっと同様に驚いているはずだ。

 なんなのリベリオ、これを貸しとして後から何か要求でもするつもりか。


「先日、ガヴェインとエレノーラからも寛大な処分を、との進言を受けた。そしてこれは3班の班員による進言書だ。同様に寛大な処分を求めるものである」


「…………」


 3班の班員からの進言書、という言葉にセスの瞳が揺れた。

 みんなが進言書を提出したことは知らなかったのだろう。


「さてシエル、お前もまた先日俺に進言をしたな。それを今一度この場で述べよ。堅苦しくしなくていい。自分の言葉で、思うままに発言するといい」


「はい」


 今度はセスが顔ごと私の方を向いた。

 どこか切ないような、悲しいような、なんとも言えない表情をしている。

 それでも私の目を真っ直ぐ見つめるその瞳を、私もまた真っ直ぐに見つめ返した。


「セスはあの時、僕を必死になって助けてくれました。シェスベルを連続投与したのだって、僕の苦痛を和らげようとしてくれたためです。その結果興奮状態にあったんだとしても僕の起こした行動は僕自身の意思によるものであり、責任は僕にあります。シェスベルを連続投与したことが罪に問われていますが、その影響を受けた僕はセスの処罰を望みません。どうか寛大な処分をお願いします」


 苦しそうに表情を歪めてセスは私から視線を外した。

 きっとセスは処罰の軽減など望んでいない。全てを覚悟の上でここに立っている。むしろ私にこれを言われることが嫌だったんだろう。

 でもそれは私も同じことだ。セス1人に責任を負わせるなんて嫌だ。


「ではセス、今の心情を聞こうか」


 ヴィクトールの口から意外な言葉が発せられた。

 心情。そんなものを今聞く必要があるのか甚だ疑問だ。

 でも私も知りたい。私が一番知りたい。


「……心情ですか。ここで私が心情を述べることが処分を決定する際に必要であると?」


 言いたくない。そんな気持ちが滲み出ている言葉だった。

 そうだろうな。何かを思っているにしろ、何も感じていないにしろ、セスとしてはその心情を悟らせたくないことだろう。


「質問は許可していない」


「…………」


 ヴィクトールの有無を言わさないその言葉に、セスは諦めたように悲しい笑みを浮かべて、足元に視線を落とした。


「……皆が私の処分を軽くするよう進言してくれていたことは知りませんでした。こんな私のために皆がそこまでしてくれたことを嬉しく思っています」


 今までの感情のこもらない言い方とは違い、苦しい思いを絞り出すような言い方だった。

 演技ではない。そういうことを演技で言う人ではない。と思う。これはきっと本心だ。

 セスならこの場で偽りの言葉を口にすることだって造作もないはずなのに、何故本心を口にしたのだろうか。


「セス、お前にとって3班の班員はなんだ? お前の言葉でいいから教えてくれ」


 先程からヴィクトールは意図のよく分からない質問をしている。

 私たちはセスにとって何なのか。何なのだろう。

 その答えを持っていない私や他のみんなのために聞いてくれているのだろうか。

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