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第90話 審判・2

「……私はシェスベルの副作用を承知の上で苦痛を和らげるために短時間に連続で投与しました。その結果、シエルが中毒症状に陥り命の危険に晒されたことは全て私の責任によるものであり、この件についていかなる処分も受ける所存です。弁明はありません」


 感情のこもっていない声でセスが言った。

 用意されている説明文をただ淡々と読み上げているような感じだ。


「お前はシエルがこのような行動を起こさなかったらシェスベルを連続投与したことを表沙汰にするつもりはなかったのか?」


「はい」


「ではなぜ行動を起こした今、このように公表した? 同じように内密にすることも選択肢としてはあったのではないか?」


 ヴィクトールは答えを知っているはずの質問を先程から繰り返す。それをあえて言わせることに何の意味があるのだろうか。


「シエルがこのような行動に出たのはシェスベルによる中毒症状によるものです。私がそれを公にしなければシエルの行動は全てシエルの意思ということになってしまう。それは本意ではありません」


「誰の本意ではないと? お前のか? シエルのか?」


「私のです。そしてシエルのでもあると推測します」


 違う。私は本意だ。セスにもそう言ったはずだ。言いたいけど発言が許されていないので言えない。


「ではシエル、お前に話を聞きたい」


「は、はい」


 と思ったら予想よりも早く私に発言の機会が巡ってきた。

 突然すぎて心臓が早鐘を打つ。


「セスがお前にシェスベルを連続投与したことをお前はどう思っている?」


「セスがシェスベルを連続投与したのは、僕……私の苦痛を和らげてくれようとしたためです。感謝しかありません」


 なるべく落ち着いて答える。

 セスは顔を向けず視線だけで私を見ていた。その表情はやはり変わらず何の感情も映していない。

 一見冷ややかに見えるそれを、こんな状況には不釣り合いと分かりながらも美しいと思った。


「その結果お前は興奮状態に陥り、命が危険に晒されたのだぞ」


「私があのような行動に出たのはすべて自分の意思によるものです。中毒症状になくとも私は同じことをしていました。命が危険に晒されたのは私自身の行動の結果です」


 私の言葉にセスは目を伏せた。

 どう思ったのだろう。確かあの時も何も言わなかった。


「ではリベリオ、次はお前に聞く。セスがシェスベルを連続投与したことについて医術的観点から見解を述べよ」


「シェスベルは意識を保ちながら痛覚を麻痺させることができる強い薬です。故に強い副作用を持ち、短時間に連続して投与すれば激しい興奮状態に陥ります。死の淵に立たされている患者の痛覚を麻痺させるということ自体が生命維持の観点から言えば危険なことであり、そこからさらに興奮状態に陥らせることは自殺行為にも等しい。あの場に患者の苦痛を和らげる手段がシェスベルしかなかったとは言え、その判断は適切ではなかったと考えます」


 リベリオもまた淡々と言う。

 セスはその言葉にも眉一つ動かさず、目を伏せたままだ。

 予想通りの言葉に私は意気消沈する。


「お前から見て責任を取るべきは誰だ?」


「もちろんセスです。シエルの行動がシェスベルの中毒症状によるものか否かはこの場合重要ではありません。シェスベルを連続投与したという事実そのものに過失があります。しかも事が起きなければセスはそれを秘密裏に済ませようとしていた。これは医術師としてあるまじきことです。続けて個人的見解を述べたいのですが許可をいただけますか」


「いいだろう」


 先程からリベリオの言葉にも何の感情もこもっていない。

 何か紙を見ているわけでもないのによくそんな長文をつかえずに言えるものだと思う。


 と、私は半ば投げやりな気持ちでそれを聞いていた。

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