第89話 審判・1
「今日から復帰します」
「ああ……分かった」
朝食を全部平らげて言った私に、ガヴェインは呆れたように苦笑いを浮かべて返事を返した。
みんなもそんないきなり復帰しなくても、と言っていたが、強行突破した。いや、だってもう傷跡すら綺麗になって何ともないし。
実際、任務中も今までと変わらずに動けたと思う。
休憩時間はガヴェインと一緒だった。
「明日のことだが」
椅子に座るなりガヴェインが口を開いた。
セスの処分言い渡しか。
「審判はルールに則って行われる。発言は隊長の許可がなければできない。質問も許可がなければできない。お前には少し堅苦しいかもしれないが、聞かれたことにだけ答えていればいい」
「分かりました」
少しどころじゃなく堅苦しそうだ。
「班長も来るんですよね?」
「ああ。隊長と、副隊長、俺、リベリオ、セス、お前だ」
副隊長。そんな人がいるのか。最初にヴィクトールから説明を受けた時に隣に誰か立っていたけどその人がそうかな?
関わることもなかったし、あんまり記憶には残っていない。
「だが俺は発言を求められることはないと思う」
「そうなんですか」
「寛大な処分を求める進言はもうしてあるからな」
それを言ったら私だってもうしてあるのに、その場でもう一度言うのはなぜだろう。それもやっぱり当事者だからなのだろうか。
あまり想像もつかないその審判の様子をあれこれ考えつつ任務を終え、ついにその時が来た。
任務が終わって食事とお風呂を済ませ、少しだけ仮眠をしたので眠気はそこまでない。
昼食後、ガヴェインとセスと3人でヴィクトールの執務室へ向かった。
それを見送るみんなの不安そうな顔が、私の不安も増幅させた。
しかも道中は誰も話すことがなく、重々しい空気に余計緊張が増す。
「シエル、悪いな。時間を取らせて」
「いえ……」
執務室に入るなりヴィクトールが言った。
ヴィクトールの隣に立っている見慣れない男性が副隊長なのだろう。やはり説明の時に隣に立っていた人だった。40代くらいだろうか。
リベリオはまだ来ていないようだ。
「シエル、座っていいぞ」
ヴィクトールが私にだけソファーに座るように促した。
そうやって私1人気遣われるのも気まずい。
「大丈夫です。ありがとうございます」
ヴィクトール以外の人は全員立っているのでさすがに自分だけ座るわけにもいかず、私は首を振った。
ヴィクトールは納得したのかそれ以上何も言わなかった。
「セス、悪いがお前も立場なりの応対をしてもらえるか」
「分かっている」
ヴィクトールの抽象的な言い方に、セスは即答した。
審判の時には治癒術師として隊長であるヴィクトールに敬語を使えってことかな。他の治癒術師は立場的にそうしているだろうし。
しばらく気まずい沈黙が続いていたが、やがてドアがノックされリベリオが中に入ってきた。
私をチラリと見て、私たちがいる方とは反対側の壁際へ歩いて行く。
「揃ったな。始めるか。セス、こちらへ」
ヴィクトールの一声でセスがヴィクトールの正面へと立つ。
私とガヴェインはセスの右手側の壁際に、リベリオはセスの左手側の壁際に立っている。
ここからよく見えるセスの表情はひどく落ち着いていて、何を考えているのか読み取ることはできない。
「さて、ではセス。今回の件について説明と弁明を聞こうか」
浅く座って背もたれに体を預けていたヴィクトールが、深く座りなおしてセスを正面からしっかりと見据える。
その鋭い視線に私なら怖気づいてしまいそうだが、セスの表情が変わることはなかった。




