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第88話 リュシュナ族・2

「エルフであるお前も不老みたいなものだからあまり関係ないかもしれないがな。でも寿命の短いヒューマだったら喉から手が出るほど欲しい代物だと思わないか」


「確かに……」


 そう、この世界のエルフは想像以上に寿命が長い。

 それこそ1000年単位で生きられるらしい。ある意味不老と同等だ。


「セスはミトスに来てそれはもう数え切れないほど命を狙われてきただろう。信じていた人間に裏切られたことも一度や二度ではないはずだ。そんな人間たちの中で生きていれば誰かのために何かをしてやりたい気持ちなど失くなると思わないか?」


「…………」


 その言葉で思考を戻す。


 確かに私だったら人を信じられなくなる。

 いや、セスだってそうなんだろう。きっと誰のことも信じていない。

 だから常に一線を引いて踏み込まないようにしている。自分の感情を人に悟らせない。踏み込ませない。付け込まれないように。


「考えただけで辛いです」


「そうだな。俺たちには想像もできないほど辛い気持ちを抱えているんだろう。だからそんなセスが他者のためにここまで必死になっていることが俺には意外だったんだ」


「そうですね……。なぜでしょうか? 僕たちがそのことを知らないから?」


「さぁな。だが別にセスはそれを隠しているわけでもないぞ。聞けば言うはずだ。前の3班のやつらはそれを知っていたらしいしな」


 そうなのか。私だったら言いたくない。

 お風呂も別だし言わなきゃバレないんだ。言ってそれを狙われたら嫌だ。

 それとも私たちなら知っても裏切らないと信じてくれているのだろうか。いや、裏切ったとしても殺せるからという可能性もある。

 でもセスは同じような状況になったら3班のメンバーの誰でも同じように必死になっていたと思うし、なんだかよく分からない。どこにセスの真意があるのか分からない。


「でも隊長とセスは仲間なんじゃないんですか? 隊長に頼まれてセスはここにいるんですよね」


「俺とセスはそういうんじゃない。ただ騎士団の依頼をセスが受けてくれて何度か一緒に仕事をしただけだ。契約上の関係でしかない」


「そうだったんですね」


 その割にはセスはヴィクトールの頼みを断りきれずにこの契約を受けていたりするし、契約上の関係だけとも思えないのだが。

 あまりにもヴィクトールがしつこくて断りきれなかったのだろうか。


「だから意外だったんだ。俺はセスから報告を受けた時に聞かなかったことにする選択肢も示した。それでもセスはそれを公にし、処罰を受けることを望んだ。お前の名誉のために」


「名誉……?」


「お前がリベリオに対して暴挙に出たのは薬のせいで興奮状態にあったからであって、お前の意思だけによるものではないと周りに示したかったんだろう」


 なるほど、そういう名誉か。

 プライド的な。


「そんなこと、気にしないでよかったのに……」


「お前はそう言うだろうと思ったがな。お前たちは全部自分の責任だとお互い言い合っているんだから。お前がそれを譲れないとここに来たように、セスもまた譲れないんだ。そんなお前たちの気持ちを無下にはしない。大丈夫だ」


「……はい、ありがとうございます」


 ヴィクトールの裁量を信じて私は執務室を後にした。

 あとは明後日の処分決定を待つしかない。






 夜まで部屋で休んでから、私は夕食に向かった。


 4班のみんなは怪我をした私を横穴で直接見ていたこともあり、回復を心から喜んでくれた。

 この班の治癒術師はエレノーラという女性で、やはり私にシェスベルを打った時は連続投与であったことは知らなかったらしい。

 ただ痛みに悶えていた私の様子からセスの気持ちも分かるということで、エレノーラの方からも寛大な処分を求めると言ってくれた。


 夕食は4班のみんなと一緒に食べたからだろうか、ほとんど食べることができた。

 食堂の人も、明日の朝から常食に戻すと言ってくれたので、明日から復帰したいところではある。


 夜、遅くに戻ってきたみんなを出迎えるとみんなも笑顔で私の退院を喜んでくれた。

 この時に初めて臨時で入ってくれていた魔術師の騎士見習いを見たが、なかなかのイケメンだった。そんなイケメン魔術師はさわやかな笑顔で私の回復を喜んでくれて、中身までイケメンで少し悔しかった。

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