第87話 リュシュナ族・1
「今回のことでセスが処罰を受けると聞きました。これは僕の意思で僕が起こしてしまった行動なんです。セスに処罰を与えないことはできませんか。処罰が必要なのは、僕の方です」
「…………」
私の言葉にヴィクトールはすぐに返事をしなかった。
しかしその目は真っ直ぐに私を見つめている。
その強い視線に思わず逸らしたくなったが、何とかその目を見つめ返した。
「シェスベルの連続投与は禁忌とされている。それによって実際お前の命も危険に晒された。その責任は負わねばならない」
予想通りの言葉ではあった。
規約を重んじる騎士団だ。これもまた規約に則って罰則を与えなければならないのだろう。
「命の危機に晒された僕が処罰を望まないとしてもですか」
「それでも禁忌を犯した以上、セスが処罰を免れることはできない。だが、お前のその言葉は受け取った。ガヴェインからも、3班の班員からも寛大な処分を求める声があった。それはきちんと考慮する」
「そうですか……」
ダメか。
これが限界なのか。
「今回のことはリベリオに原因がある。もちろんリベリオには厳重注意をした」
「厳重注意ですか」
「不服か」
やばい。不満げな言い方になってしまった。いや、実際不満なのだがヴィクトールにしていい態度ではなかった。
「いえ、すみません。失礼な態度を取ってしまいました。謝罪します」
「構わん。お前の気持ちも分かるからな。しかし規約に則れば今回の場合はリベリオを罰することはできない。これでお前を治癒せずに死なせたなら別だが、そうじゃないからな。発言に対して厳重注意することくらいしかできんのだ」
規約か。本当に規約ばっかりだな。
ここで一番偉いのはヴィクトールなのだ。気持ちが分かるというのであれば、鶴の一声でどうとでもなりそうなのに。
「明後日の13時から、会議室にて処分を言い渡す。お前も来い。そこでお前にも発言する場を与える。今の言葉をもう一度そこで言うんだ」
「……分かりました」
明後日、朝まで任務だ。なかなかに辛い時間ではあると思うが致し方ないのだろうか。
「……あいつも、この3ヶ月でずいぶん変わった。いい仲間を持ったようだな」
「セスですか?」
「ああ」
そうなのだろうか。最初から今までずっと変わらない気がする。
いつも淡々と、表情も変えずに怒ることも笑うこともあまりない。
いや、怒ってたか。私が横穴で喋るなと言われたのに喋っていた時に。
それに私がセスを侮辱されて怒って暴れたと知ってずいぶんと苦しそうな表情をしていた。
セスもそんな風に感情を表に出すんだなとその時は思った。
「シェスベルの連続投与はセスが報告しなければ公になることはなかった。今までのセスなら言わなかっただろうし、そもそも禁忌を犯すことすらしなかったかもしれない。自分の立場がどうとかではなく、誰かのためにという行動を取ることを俺は見たことがなかった。なのに仲間のために禁忌を犯し、処罰を受けることを承知でそれを報告した。だから俺にはそれが意外だった」
「そうなんですか……。誰かのための行動を取らなかったのはどうしてですか、と聞いてもいいんでしょうか」
「セスがリュシュナ族だと言うのは知っているか?」
「いえ、知りませんでした」
リュシュナ族という言葉自体、聞いたことがない。
そういえばセスは天族なんだった。見た目がヒューマと変わらないからたまに忘れそうになる。
「リュシュナ族と言うのは天族でも珍しい武術に長けた不老の一族なんだ。胸にリュシュナの秘石と呼ばれる蒼い石が埋まっていて、それを別の種族が取り入れると不老になると言われている。その石を取られたらリュシュナ族は死ぬからそれを守るために武術に長けているんだ」
リュシュナ族の命とも呼べるその秘石を他種族が取り入れると不老になる。
なんだか急におとぎ話みたいになってきた。




