第86話 面会・3
「シエル、完治したそうだな」
「はい、もう何ともありません」
ガヴェインが持ってきてくれた食事はやはり病人食だった。
私があまり口をつけていないのは作ってくれている人も分かっているので、体に負担のないものを用意してくれたのだろう。残してばかりで申し訳ない。
「食べられそうか?」
「食べたいです」
朝よりはまだ食欲もある気がする。
同じ病人食とは言え飽きないように味を変えてあり、作ってくれた人の気遣いを感じる。
「班長、明日から復帰したいんですが」
「それは明日の昼に決めろ。まだ退院もしてないんだぞ。俺としては明日明後日休んで朝の任務から復帰するのが妥当だと思っていたけどな」
明日は23時〜7時。次の日は7時に任務が終わってそこからは休み。
なるほど、確かに明々後日の7時から任務に就くのはキリがいいと言えばいい。
「でももう傷はなくなりましたから」
「目に見える傷はな」
「…………」
目に見えない傷でもあると言いたいのだろうか。あるとするならばそれは私ではなくてセスじゃないだろうか。
「そんなにすぐ結論を出さなくていいから、まずは心身ともに万全にするんだ。来れるなら明日の朝食に顔を出すといい。さて、来たばかりで悪いが俺はそろそろ行かなきゃならん。ゆっくり療養してくれ」
「……分かりました。ありがとうございます」
ガヴェインが持ってきてくれた昼食は半分くらい食べることができた。
「結構食べたじゃん」
13時くらいだろうか。リベリオが昼食の残り具合を見て言った。
「少しずつ食べられるようになってきました」
「そう、よかったね。点滴を外すよ。これで君は退院だ」
今日は1日ここで過ごすのではなかったのだろうか。
有難いことではあるが、まだ昼もいいとこだ。
「いいんですか?」
「ヴィクトール隊長のところに行くんだろ? なら2班が帰ってくる前に行った方がいい。先に風呂にも入りたいだろうし、このタイミングを逃すと夜遅くまで話をする時間はなくなる」
2班が帰ってくるのが16時ごろ。そこから2班の班長と治癒術師が報告したりするだろうし、ヴィクトールだって夕食やお風呂に行ったりもするだろう。自分もそのタイミングとは被らない時間に夕食があるわけだし、確かにリベリオの言う通り今を逃すと時間が取れなそうだ。
「ありがとうございます」
ずっと針を刺したままだった右腕が自由になり、開放感を得られた。
「ついでに食事も下げていって。もうここには来ないように気をつけてよね。また暴れられたらたまんないよ」
「はい、リベリオさんありがとうございました。お世話になりました」
最後まで憎まれ口を叩くリベリオに私は真面目に頭を下げて診療室を後にした。
さすがにあまり食べていないこともあって地に着いた足は震えた。
それでも何とか食堂まで行き食事を下げる。私のために個別に食事を作ってくれたお礼と残してしまった謝罪をすると、食堂の人たちは気にしないでと柔らかく笑って私の退院を祝ってくれた。
夕食は4班と一緒に来てと言われたので、後で4班の治癒術師にも痛み止めを打ってくれたお礼を言おう。
リザードマンに刺し貫かれて穴が開いてしまった服は、すべて元通りに修繕されて帰ってきた。すごい。ローブは高かったのでありがたい。
久しぶりのお風呂を堪能し、私はヴィクトールの執務室へと向かった。
「入れ」
ノックするとすぐに中から返事が来た。
「失礼致します」
「……シエル。怪我は癒えたのか」
私だとは思っていなかったのだろう、その表情にはわずかながら驚きが見られた。
「はい。任務を休んでしまってすみませんでした」
「いや、命が助かって何よりだ。それで、何か俺に用があって来たんだろう? 退院の報告に来たわけではあるまい」
ヴィクトールが部屋に備え付けてあるソファーに座るように促した。
さすがに立ちっぱなしも今はちょっとキツいので、私は素直にソファーに腰掛けることした。
「セスのことで」
テーブルを挟んで向かいのソファーに座ったヴィクトールは、セスの名を聞いても表情を変えることなく私が続きを話すのを待った。
その件で来ていると予想していたのだろう。




