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第85話 面会・2

「なぜ泣いていた? 何かあったのか?」


 心に突き刺さる発言をベルナは悪びれもせず言う。

 忘れてほしいという言葉は聞こえなかったのかな?

 いや、わざとじゃないのは分かってる。ベルナは不器用なんだ。知ってる。


「ベルナあんたね……空気読みなさいよ……」


「?」


「シエル、怪我はどうですか?」


 ベルナと対照的に空気を読みすぎるリーゼロッテが私に聞いて来た。


「朝治癒術をかけてもらって完治したよ。今日1日一応ここで過ごして、夜になったら部屋に戻っていいって」


「そうですか。よかったです。こちらは大丈夫なのでゆっくり療養してください」


「ありがと」


 リーゼロッテが柔らかい笑顔で言った。

 そんな風に笑うところを始めて見たかもしれない。


「ねぇ、シエル。セスのこと聞いた?」


「聞いたよ。みんな進言書を提出してくれたんだってね。ありがとう。これは僕のせいだから、僕も後で隊長のところに行ってくる」


 エレンの質問に先ほどと同じことを答える。


「シエルのせいじゃないでしょう。もちろんセスのせいでもないわ」


 そしてエレンから先ほどと同じことを返される。


「……ありがと」


「食べないのか? 無理して食べろとは言わないが、食べないと体力も戻らない。少しずつでも食べた方がいい」


 食事に手をつけない私を見てベルナが言った。

 3人が来てるから、という選択肢が全くないところが本当にベルナらしい。


「後で少し食べるよ」


 私の言葉にベルナが嬉しそうに白い尻尾を振った。

 猫なのに犬っぽい仕草に若干萌える。


「私たちがいては食べにくいでしょう。お暇しましょうか」


「そうね。シエルお大事にね」


「シエルまたな」


「ありがとう。今日の任務頑張って」


 3人が去って部屋が静寂に包まれる。


 今日は15時からみんなは任務に就く。昼食や登山の時間を考えると、みんなが自由に動ける時間は午前中しかない。

 セスとガヴェインは昨日"明日また来る"と言っていた。ということは午前中に来るはずだ。


 泣いていたらまた見られる可能性が高いから、もう泣かないにしよう。






 しばらくした後、次に来てくれたのはセスだった。


「おはよう」


「おはようシエル。……食べていないのか」


「少し食べたよ」


「……そう」


 少し悲しそうに笑ってセスは点滴の瓶を交換しだした。

 リベリオに頼まれたのだろう。


「完治したみたいだね」


「うん」


「よかった。後は食欲が戻ればいいんだけど」


「…………」


 昨日私の言葉を無視して帰って行った割にはずいぶん普通に接して来る。

 その態度に若干のイラつきを覚えた。


「ずいぶん分かりやすく怒っているね」


 困ったように笑いながらセスが言った。


「そう見える?」


「まぁ、怒らせてしまった自覚もあるからね。でも俺はその話をこれ以上するつもりはない。この件はもう俺たちの手を離れた」


「隊長次第ってこと?」


「ヴィクトールとリベリオ次第ってところかな。君が今あれこれ探りを入れなくとも処分が下される時には君もその場にいるだろうから、言いたいことがあるならその時に言うといい」


 そうなのか。

 当事者だから私も同席するってことなのかな。


「それにしても君は大人しそうに見えて意外と激しく感情を剥き出しにすることもあるんだね。驚いたよ。君が怒って暴れたなんて、話を聞いた今でもあまり想像ができない」


「そう? ニコラなら分かるけど僕はそんな大人しいって訳じゃないと思うよ」


 ここでも結構感情豊かに過ごしてきたつもりなんだけどな。

 あぁ、でもセスはいつもどこか一線を引いている感じで深く踏み込んでこないし、私もセスの前では大人しめだったかもしれない。


「そのニコラもずいぶん感情を荒立ててリベリオのことを怒っていたよ。さすがにみんな驚いていた」


「へぇ。ニコラが……」


 それは意外だ。ちょっと見てみたかった。


「でもほら、リベリオさんに腹を立てたのは僕だけじゃないでしょ?」


「……そうだね。ありがとう。君たちのその気持ちは嬉しく思うよ……」


 私から視線を外してセスは悲しそうに笑った。

 

 セスは取りに来るからと言っても、同じことだからと食事を下げながら帰っていった。

 帰る口実が欲しかったのだろう。

 それから昼前まで静かな時間が続き、昼食を持って最後の来訪者が現れた。

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