閑話 その時3班は
「……なんだって?」
セスは無意識に聞き返した。
いや、聞こえてはいた。聞こえてはいたのだが、セスにはガヴェインから告げられた言葉が理解できなかった。
シエルが興奮して暴れ、命が危ない。
それは普段のシエルからは想像もできない言葉だった。
それを告げたガヴェインに理由を尋ねても、彼は何も語らず逃げるように騎士団関係者の宿舎を後にしてしまった。
後に残されたセスとレオンは揃って呆然とするしかなかったのである。
シェスベル。
それは痛覚を麻痺させる強い麻薬のようなものであり、一度使うと次まで24時間空けなければならない。
セスはそれをシエルに5~6時間という短期間で連続投与した。
その結果、シエルは強い興奮状態に陥った。そうなることは医術師でもあるセスには承知の上での判断だった。
「シエルはなぜ暴れたんだ……」
だが、興奮状態にあってもシエルが行動を起こすことはないだろうというのがセスの目論見であった。
ガヴェインの態度を見るに、シエルがそうしたのは自分に何かが関係あることであろうことは推測できたが、それ以上のことが分からない。
ひとまずシエルが命を繋いだことに安堵しつつ、それを知っているであろうニコラにその問いを投げかけてみると、ニコラのみならず3班のメンバーは一様に視線を泳がせた。
「……俺に何か関係することか」
そんな態度に出られれば、さすがにセスも確信する。
事実、肯定するように彼らは口を噤み、
「シエルは助かったんだ。ならもうそれで良くないか?」
などと言う。
しかしながら、お前たちだったらここで濁されたらどう思うんだ、というレオンの言葉で、ニコラはしぶしぶ重い口を開いた。
リベリオがセスを侮辱するような発言をして、怒って暴れたんだと。
それを知ったセスの表情は険しかった。
いくらシエルが興奮状態に陥っていても、そうはならないだろう。バレなければ問題ない。そんな考えは甘かったことを思い知らされた。
そんな甘い考えのせいで、シエルは命を危険に晒してしまった。だからその責任を取ることはセスとしては当然のことであったし、心のどこかで自分のためにそこまでしてくれたことを嬉しく思う気持ちもあった。
逆にそれを納得できなかったのは3班のメンバーの方である。
特にニコラはシエルが暴れた瞬間を見ていたこともあり、声を荒立ててリベリオへの怒りを露わにした。
そんな3班の様子を見て、セスの処分軽減を申し立てる進言書の提出を勧めたのがレオンだ。
「……なるほど。俺の知らないところでずいぶんと事は動いていたようだな」
レオンが差し出した進言書を受け取り、ガヴェインが言った。
「聞いていますよね。セスの件」
「ああ。先ほど隊長から聞いた」
レオンの言葉にガヴェインは頷いた。
ガヴェインがその話を聞いたのは今しがたの事だったが、それよりも前に彼らがここまでのことをしていたのは、正直驚きだった。
「処分は免れないんですよね」
「おそらくな。だが俺からも寛大な処分をと進言するつもりではいるし、お前たちの進言書もある。シエルも厳罰など望まないだろうし、そう重い処分は下されないだろう。これは責任を持ってヴィクトール隊長に届けよう」
「お願いします」
レオンは頭を下げて、ガヴェインの部屋を後にした。
進言書に目を落とす。
自分がセスに言えなかったことは、ニコラから伝わってしまったようだ。
それを知ったセスは自ら罪を申告し、罰を受けることを望んだ。連続投与をなかったことにする選択肢もあったはずなのに。
そんなセスはこの進言書の存在をどう思うのだろうか。
できればそこに少しでも喜びを感じてほしい。そう思いながらガヴェインはそれを懐にしまった。
この時のことをレオン視点から描いた物語をサイドストーリーにて公開しております。
進言書を提出するに至った彼らの会話をお読みいただけたら幸いです。
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