第80話 リベリオ・3
「リベリオ……」
セスが椅子から立ち上がった。
やはりこの人物がリベリオか。
若くして割と偉い立場にいてなかなかのイケメンなのに、性格に難がありすぎて勿体ない。
「やぁ、セス。ずいぶん面倒なことをしてくれたじゃないか。お前がシェスベルを連続投与したせいでそいつが暴れて大変だったよ。状態を悪化させてくれたおかげで僕は疲労困憊だ」
「…………」
シェスベル……あの痛み止めの名前か。
というか、これは完全にセスのせいじゃなくてリベリオが余計なことを言ったせいでしょ。私のせいでもあるけど。
「何か言うことはないの? 僕はお前の不手際の尻拭いをさせられたんだけど。そいつは僕に治癒されるくらいなら死んでもいいなんて言ってたしね。それでも僕は治癒してあげたんだよ」
リベリオの言葉に頭がカッと熱くなるのが分かった。
だが感情を荒上げないとセスと約束しているので、なんとかそれを理性で押し込める。
そんな私とは違い、セスは無表情だ。頭に来ないのだろうか。それともそういう感情を持ち合わせながら顔に出さないだけだろうか。
「……シエルを治癒してくれたことは礼を言う。俺の不手際で君の手を余計に煩わせたことも事実だ。それは申し訳なく思っている。シェスベルを連続投与したことについても弁明はしない。その結果、シエルの命が危険に晒されたのは俺の責任だ。処分は甘んじて受けるつもりでいる」
「へぇ」
セスの言葉にリベリオが面白そうに笑った。
処分って……そんな。セスのせいじゃないのに。私のせいなのに。
そんな大事になってるなんて。
「お前もガヴェインもずいぶん素直に頭を下げるじゃないか。お前たちの班はもうすでに1人死んでるし、これ以上死人を出したら立場が危うくなるもんね? そのためなら気に食わない僕にも頭を下げざるを得ないってことかな?」
「なんだって……!」
「よせ、シエル」
怒りに任せて起き上がると、それをセスが手で制した。そのまま体をベッドに倒される。
傷口がズキズキと痛んだがそんなことはどうでもよかった。
リベリオが偉い立場の人間であるということもどうでもよかった。
「セス……でも……っ!」
「いいから」
あんなこと言われて黙っているなんて。
怒りを露わにする私とは対照的に、セスは表情を変えずに私を見下ろしている。
挑発に乗るな、とその目が言っているように見えた。
「それ以上悪化させたら僕はもう知らないよ? シエル」
「……っ!」
なんなんだよこいつは。人を煽る天才か。
口を開けばリベリオに怒りをぶつけてしまうので私はグッと歯を食いしばって堪えた。
「立場なんてどうでもいい。ガヴェインもそうだったはずだ。シエルを救いたかった。ただそれだけだ」
「……そんな言葉はいらないんだよ。つまんないな。どうでもいいからシエルが目を覚ましたなら夕食でも取ってきてよ」
急にリベリオが拗ねた子供のように話を切り上げた。
セスが挑発に乗ってくる事を期待していたのだろうか。
「……じゃあ俺は一旦行くけど、シエル、約束は覚えてるね?」
セスが念を押すように私に言う。
リベリオに感情を荒上げない、という約束か。
正直自信がないけどこれ以上みんなに迷惑をかけないためにもその約束は守らないと。
「分かってる」
頷くとセスは苦笑いを浮かべて部屋を後にした。
部屋に沈黙が流れる。
リベリオは私を見もせずに点滴の瓶を交換し始めた。
「明日の朝にもう一回治癒術をかければ完全に傷は治る。後は普通に食事ができるようになれば任務に復帰してもいい」
何を言うかと思えばそんな真面目な話をリベリオはし始めた。
「……そうですか。ありがとうございます」
言いたいことは山ほどあるが、不用意に会話をすると揉めそうな気がしたので素直にお礼だけ言うことにした。
リベリオもそれ以上何かを言うことはなく、部屋を出て行った。




