第79話 リベリオ・2
「ごめん。リベリオって人の態度がどうしても許せなかった。あの時は上手く思考ができなくて自分を抑えることができなかったんだ」
「……君が興奮状態にあったのは、痛み止めを連続投与したせいだ。それについては下山時に痛み止めを打つように頼んだ俺に責任がある。だからこれは……俺のせいなんだ。本当にすまなかった……」
私の言葉にセスがずいぶんと苦しそうに返した。
そうだったのか。そういえば最初に怪我をした時に痛み止めはすぐに次を使えないということを言っていた気がする。
「セスは僕のためにやってくれたんでしょ。それなのに僕が後先考えずにこんなことをしてしまったのが悪いんだ。本当にごめん」
「…………」
セスは何も答えない。
怒っているだろうかと窺い見れば、セスは痛みを耐えるような表情でどこか一点を見つめていた。
「ごめん」
もう一度セスに謝る。
ここに戻ってくれば私はもう大丈夫だとセスは思っていたのに、私が暴れて死にかけたと聞けば居ても立っても居られなかっただろう。しかもそれで興奮したのが、痛み止めを連続投与した影響もあるとなったら。
申し訳なさすぎて謝り倒したくなる。
「……なぜ君が俺のことでそこまで?」
長い沈黙の果てに、セスが言った。
「僕だけじゃない。僕が暴れたから班長は僕を落ち着かせるのに必死になってただけで、班長だって怒ってた。むしろ班長が一番最初にキレてた。誰だって、あんな言い方で仲間を侮辱されたら怒るよ」
「リベリオは俺のことを何て?」
「…………」
それを本人に直接言うのは憚られる。セスが現時点でそれを知らないということは、ガヴェインやニコラも同様に言えなかったのだろうし。
「……言えないか。それを俺に言えるくらいなら君はあんな風に暴れたりしないだろうしね。でも、もしまた君の前でリベリオが俺のことを何か言っても君はこれ以上感情を荒上げなくていい。リベリオが俺を良く思ってないのは分かってる。何を言われても俺は気にしないから」
「……善処はする」
どうも納得いかなくて不貞腐れた言い方になってしまった。
セスはそれを見て、苦い笑みを浮かべながら椅子に座った。
「セスはリベリオと何か話はしたの?」
「この一件以降、リベリオには会っていない。昨日の夜にも一度様子を見に来たけどリベリオはいなかった」
昨日の夜……?
どういうことだろう。
時間経過がさっぱり分からない。
「僕どれくらい眠ってたの?」
「1日半くらいかな。眠っていたというか、眠らされていたというか」
「今何時?」
「18時を少し過ぎたところだ。そろそろ夕食だからみんなにも君が目覚めたことを報告してくるよ。昨日今日と君は面会謝絶だったからみんなも心配していた」
私が怪我をしたあの日は23時〜7時までの任務だった。
朝こっちに戻ってきた時に暴れて、そこから次の日の18時まで眠っていたということ?
ということは、今日は朝の7時から15時までみんなは任務に就いていたということか。
「じゃあ、今日は1人欠けた状態で任務に?」
「騎士見習いの魔術師が臨時で入ってくれている。心配しなくていいよ」
「そっか……」
みんなにも謝らないとなぁ。特にニコラにはより心配をかけてしまった。
「そういえばさ、リベリオって人はどんな立場の人なの? 偉い人?」
「リベリオはこの駐屯地の治癒術師長だ。立場的にはガヴェインと同等くらいだろう」
「結構偉い人なんだ……」
やばい、そんな人にとんでもないことをしてしまった。
「…………」
セスが不意にドアの方を振り返った。
なんだろうと思う間も無く、ノックもなくドアが開き、20代後半くらいの男性が中に入ってきた。
長く伸ばした白金色の髪に緑の瞳、見覚えはない。
が、白衣を着ていることからきっとこの人物こそがリベリオだろう。




