第7話 善と悪・1
「はっ」
それは唐突な目覚めだった。
一瞬で視界が切り替わり、見慣れない天井が目に映っている。
あまりにも現実的だった夢のせいで、何がどうなったのかすぐに思考が追いつかない。
「起きたか」
私を覗き込む父が視界に入り、私は安堵の息を漏らした。
「すみません、僕、どうなって……」
頭がガンガンと痛む。
胃もたれしたような気持ち悪さと、体のだるさもセットだ。
体験したことはなかったが、分かる。これは2日酔いってやつですね。
「覚えてないのか? 調子よく飲んでたと思ったらいきなり倒れてな。部屋まで運んだんだ」
「そうだったんですね。すみません」
「まぁ、誰にでもあることだ。そうやってみんな酒に強くなる」
父はそう苦笑いを返すと、グラスに水を注いで手渡してくれた。
「ありがとうございます」
どこか拭えない不安をかき消すように、私はそれを一気に喉へと流し込んだ。
「え、これを父さんが1人で行ってくるんですか?」
翌日、再び訪れたギルドで、父から手渡された依頼書を見ながら私は驚きの声を上げた。
「お前のペースにこれ以上付き合わされてたまるか。今日でパーティーは解散だ」
「ひどい」
父とはまだ一度しか狩りに出ていないというのに、もう見限られたようだ。
無理やり森に居座らせたのがいけなかったのだろう。
紙には、ボンゴというモンスターの討伐依頼が記載されている。
5匹分の角で20ポイント。
それだけ生息数が少ないのか、フィンキーに比べて強いのか。どんなモンスターかは知らないが、どちらにせよ父には何も問題がない依頼なのだろう。
「報酬もポイントも全部お前にくれてやる。だからお前はその間、街依頼をこなせ。そういう経験も必要だぞ」
「……街依頼ですか」
要は雑用をこなせ。ということか。
「一週間で帰ってくるから、それまでにやれるだけやってみろ。街から出るんじゃないぞ」
私の返事が不服そうな言い方に聞こえたのか、父は諭すように私の頭をポンポンと叩いた。
確かに、その経験が後にどう必要になってくるのかさっぱり分からない、とは思った。だが経験豊富な父の言葉だ。とりあえずその通りにしてみよう、とも思っていた。
「はぁい」
子供の頃にもよくそうやって頭をポンポンしていたな、と思い返しながら、私は父の背中を見送った。
それから6日、私はギルドに掲載されている適当な街依頼をいくつか受けた。
荷物運びとか料理屋の厨房スタッフとか、店番とかだ。
その店番の時に、初めてダークエルフという種族を目にした。
ダークエルフは想像の通り肌が浅黒く、神属性であるエルフの魔属性版、と言った感じだ。それ以外の違いはない。
エルフもダークエルフも地界・ミトスと呼ばれるところの出身で、地族という種族に分類される。
ちなみに今立っているここが地界・ミトスだ。
他にも天界やら魔界やら、厨二心が疼くような場所もこの世界には存在しているが、今はその話は置いておく。
今日の依頼先へと向かおう。
依頼内容は荷物運び。場所は街の南西にある普通の酒場。
どの人が依頼主か分からないので、適当な店員に声をかけたら地下に通された。
この世界に来てから地下室へ入るのは初めてのことだ。薄暗く、すこし肌寒い。
部屋の奥には檻があり、その中に子供が3人入っている。
どの子供も私を一瞥して表情を変えずにうつむいた。
獣人族の子供たち。
その名の通り、獣を擬人化したような種族で、神属性の地族でもある。
それはいいとして。
私の受けた依頼は荷物運びだったはずなのに、この状況は一体。
「出ろ」
私が声をかけた店員の男が檻から3人の子供を出す。それぞれ手枷と足枷がされている。
「悪いがあんたも1人頼む」
男が私に手枷の鎖を持つように促す。
男の言うままに、私はその鎖を握った。
私が鎖を持つように頼まれた獣人の子供は、灰色の犬のような耳と尻尾がついた男の子だった。髪と耳が同化しているように見える。
私を見上げてすぐにうつむく。その目には薄っすらと涙が見えた。
この子たちが何なのか、私は聞いてはいけない。
それは依頼における鉄則。誰に説明をされたわけではないけれど、分かる。
そしてこの子たちが良くないことに巻き込まれているのだろうということも、分かる。
でもどうするのが正解なのか、分からない。




