第78話 リベリオ・1
「さっきから、なんなんだ……!」
怒りに任せて無理やり起き上がった。
「うぅ……はぁ、はぁ……」
体がぐらつき、怪我をしていない右腕で何とか上体が倒れ込まないように支える。
痛み止めが効いているので痛みはそこまでないが、体力的にはそれなりに消費をしているようだ。
「シエル! 動くな!」
私の体を寝かせようと伸ばしたガヴェインの手を振り払い、私は目の前にいたリベリオに掴みかかった。
「セスのことを……侮辱するな……!」
「シエル、やめろ!」
「シエルだめだよ、傷口が……!」
ガヴェインとニコラがリベリオから私を引き離す。
離して。
2人を振りほどこうと体を大きく動かすが、2人もまた私を押さえつけようと必死になっている。
「興奮するな! 落ち着け!!」
「出血が……シエル、大人しくして!!」
2人に無理やり押さえつけられて、ベッドへと押し倒された。2人の強い力に抵抗しても思うようにならない。
痛み止めが効いているとは言え、さすがにここまで激しく動くと傷が痛む。
「あーあ、傷口開いちゃったじゃん。君、死んじゃうよ?」
言っている内容にそぐわないほど軽い口調でリベリオが言った。
「あんたなんかに、治してもらうくらいなら……死んだ方が、いい……!」
「落ち着け!!」
自分でももう何を言っているかよく分かっていなかった。
何でこんなに怒りに満ち溢れているのかも、よく分かっていない。
お風呂でのぼせたようなフワフワとした感覚に思考がままならない。自分が自分ではないような、どこか遠いところから自分を見ているようなそんな気がした。
「だってよ? ガヴェイン。望み通り死なせてあげたら? このまま放っておけば死ぬよ、その子」
「頼むリベリオ、治癒してくれ! 頼む!!」
必死に懇願するガヴェインの言葉に、リベリオの笑う声が聞こえた気がした。
何の前触れもなく腕に何かを注射され、瞬間襲ってきた強烈な眠気に私は意識を手放した。
目を覚まして最初に目に入ったのはこの世界の点滴だった。
ビニール容器に入っていることがほとんどな現代と違って、この世界のものはガラス瓶に入っている。逆さに吊るされた瓶の口にゴムがはめ込まれ、そこから伸びた管が私の右腕に繋がっていた。
今までと違ってずいぶん視界がはっきりしている。
「…………」
その点滴をぼんやりと見つめながら思考を巡らせる。
何だかとんでもないことをやらかした気がする。気がするというか、確実にやらかした。
今いる場所からしても、あれが夢だったということはないだろう。
生きているということは、あのリベリオという人は結局私を助けてくれたということだろうか。
「シエル」
「……!」
こんな近くに人がいるとは思わず、心臓が飛び出そうなくらいに驚いた。
声がした左手側に視線を向けると、少し離れたところでセスが椅子に座ってこちらを見ていた。
「セス……」
出した声はかすれていたが、あの時みたいな息苦しさはない。
ということは傷は癒えたのかな。
「うっ……うぅ……」
上体を起こしたら、思いの外傷口が痛んだ。でも怪我をした時みたいなあり得ないほどの痛みではない。良くはなっているようだ。
「だめだよ、動いちゃ。寝てて。まだ熱も下がってないんだ」
セスが椅子から立ち上がり、私の体を支えながらゆっくりと寝かせた。
「僕、どうなったの?」
「傷口が開いて、本当に危ない状態だったと聞いた。あのまま死んでもおかしくなかったと」
私の質問にセスが声を絞り出すように言った。
「君が怪我をしたあの時、助けられる確率は正直言って五分五分だった。それを何とか助けることができたと思ったのに、ここに戻ってくればもう大丈夫だと思ったのに、君が暴れて命を危険に晒したと聞いた時は生きた心地がしなかった」
そうだよね。あんなに必死に助けようとしてくれたのに、とんでもないことをしてしまった。
申し訳ない。




