第72話 模索
「ニコラ……」
難しい。エレンの心情を推し量れなさすぎて難しい。
エレンを死なせたくないのは私たちの勝手な願いだ。
それでもきっとそれは、パーシヴァルの願いでもある。
「僕たちに直接エレンをどうこうするのは無理だと思う。でも、リーゼロッテがずいぶん親身になってエレンの側にいるように見える。頼りすぎるのもあれなんだけど、リーゼロッテを支えに立ち直ってくれればいいよね」
私の言葉にフィリオが表情を少し明るくした。
「あの2人、仲直りしたのか?」
アイゼンが聞く。
あの一件以来、口も利かなかった2人がいきなりあんな風に寄り添っているのだ。確かに傍から見れば不思議な光景ではある。
「それは分からないけど、ああやって2人で一緒にいるんだから元々本気でいがみ合っていたわけではなかったのかもね」
「そっか……」
納得したのかしてないのか、アイゼンはただそれだけ言ってその話を切り上げた。
「僕は、これ以上誰も失いたくない。エレンも死なせたくない」
「僕もそう思うよフィリオ……」
絞り出すようなフィリオの言葉に同意したのは私だけだった。
アイゼンとニコラはエレンが死を望むなら、その通りになってもいいと思っているのだろうか。それがエレンにとっての救いならば。
「時間はかかるかもしれないけれど、エレンが立ち直れる時はきっと来る。残り3週間しかないけれど、その3週間でエレンが前を向くための手伝いをするのは、仲間として当然のことじゃないのかな。誰だって仲間が自分を庇って死んでしまったら、自分を責めてしまうでしょ?」
「それは分かってる」
意外にも私の言葉にアイゼンが即答した。
「分かってるけど方法が分からないって俺は言いたいんだ。俺だって、エレンが死んでもいいなんて思ってない」
「そっか、ごめん」
そうだよね。アイゼンはエレンにパーシヴァルのためにも生きろと言っていたくらいだ。アイゼンなりにその方法を模索していたんだな。
「こういう時になんて声をかけてあげたらいいんでしょうね」
フィリオが言う。
私の時もきっと周りはそうやって考えて声をかけて来たのだろう。でもそれには何の意味もなかった。
「逆に言葉は不要だと思うよ。今は誰に何を言われてもきっと何の意味もないだろうから。ただリーゼロッテみたいに側にいてあげるだけでいいんじゃないかな」
「じゃあ今僕たちにできることはあまりなさそうですね……」
「何も言わないことが、今僕たちにできることなんだと思うよ」
私も家族が死んだ時、誰かに側にいてほしかった。何も言わなくていいから、誰かにずっと寄り添っていてほしかった。
だからエレンは大丈夫だといい。立ち直ってほしい。
エレンが死ぬところなんて見たくないし、エレンを殺すセスも見たくない。まぁ、そうなるとしてもわざわざ私たちの前でやることはないのだろうけれど。
討伐任務が終わった後で、そうなったなんて結果を私に言う人もいないだろうから、エレンが私の前で生きると宣言してくれない限り私には知りようがないのかもしれない。
葬儀が終わったばかりだけど、午後からの任務は否応なしにやってくる。
エレンは任務に出ることを選んだ。ちゃんと昼食にも現れた。笑みを見せることはないが塞ぎこんでいるわけでもなく平静を保っている。装っているだけなのかもしれないけれど。
エレンはリーゼロッテと同じパーティーで、休憩はセスと入っていた。この時に2人がどんな話をしたのかは分からない。
見た限り向こう側のメンバーと何かしらの話もしていたようだし、戦闘での動きも今までと変わらなかった。それを無理してやっているんだとしたらそれはまた心配要素ではあるが。
パーシヴァルの代わりに入ったレオンは私と同じパーティーにいた。暗い雰囲気になりすぎないように、ちょこちょこと励ますような言葉をかけてきてくれている。
そんな感じで、この日の任務は無事に終わった。
リザードマンが出てくることも、ワイバーンが出てくることもなかった。




