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第70話 無力

「いや、待って、何で僕が壊れるの? っていうか、今僕の話はどうでもいいんだよ」


 しばらく考えを巡らせて、それでもやはり理解できずに私は長い沈黙を破って口を開いた。


「どうでもよくないよ。俺が解任されるとしても今日明日の話じゃないし、まだ話をする時間はある。もういいから今日は休んで、お願いだから」


「…………」


 そうやってセスははぐらかそうとしているのだろうか。

 これ以上の話を拒まれた気がして、何を言えばいいのか分からない。


「……シエル、1人で背負おうとしているのは君の方だ」


 何も言わず動かない私を見て、セスは静かに言った。


「君は"あの瞬間"をすべて見ていたことで、必要以上に責任を感じている。でも君がそこまで背負う必要はないんだ。あの時君に出来ることはなかった。大丈夫だから」


 あの獣人の子供を見捨てた時に父から言われたのと同じことをセスが言った。


 パーシヴァルが死んだ時、私に何かができたわけではない。そうやって何度も言い聞かすことで私は自分を正当化しようとしてきた。ただ見ていることしか出来なかった自分を仕方なかったと納得させてきた。


 私はそれを誰かに認めて欲しかっただけなの?


 大丈夫だと、言ってほしかっただけだったの?


 あの時と同じように。


「僕は……」


 異世界に転生して、今までにない力を手に入れて、自分が強くなった気がして腕試しで討伐隊に参加して。そうして目の前で仲間が死んでいくのをただ無力に見ていることしかできなくて。

 自分はこの世界に生きるただの無力な人間の1人にすぎないって、あの獣人の子供を見捨てた時に分かっていたはずなのに。


 私はまだどこかゲームでもやっている気でいたのだろうか。

 自分が主人公にでもなったつもりで。

 だから自分を責めるエレンのこともセスのことも救いたいなんて正義の味方を気取って。


 全部、ただのエゴだった。


「僕は……無力だ」


 チート能力も何もない、ただのモブに過ぎないのに。


「人1人に出来ることなんて、そう多くはない。でもいいんだ、それで。何とかしたいと思ってくれたその気持ちは嬉しいよ。ありがとう、シエル」


 そう言って戻っていくセスを、私はただ見つめることしかできなかった。






 セスと別れ、私はまっすぐ部屋へと戻った。

 同じタイミングで戻ってこなかったことを心配したニコラがどうしたのかと聞いてきたが、曖昧にごまかして私はベッドへと入った。


 ぐるぐると頭の中で色々なことが廻っていく。今日は色々ありすぎた。目の前で人が死ぬ瞬間を見たのも初めてだった。

 人ってこんな簡単に死ぬんだな。直前まで、普通に動いて普通に喋っていたのに。


 私も前世ではそうやって一瞬で死んだんだろう。


 この世界で冒険者を続けるなら、いつだってそうなるリスクを負っている。明日には我が身かもしれない。分かっていたつもりでいたのに。そうやって、あの獣人の子供は死んでいったのに。


 あぁ、疲れた。






 朝が来た。

 パーシヴァルとお別れする朝が来てしまった。


 朝食を摂るためにニコラと食堂へと向かうと、女性陣以外は揃っていた。

 エレンは食べられる状態ではないのは分かるが、リーゼロッテとベルナもそれに付き添っているのだろうか。

 正直、私だっておいしく食べられるかと言ったらもちろんそうではない。他のみんなも同様だろう、口数も少なく、進みも遅いようだった。


 9時、パーシヴァルの葬儀が始まった。

 すでにエレンとリーゼロッテが泣いている。

 ここには、朝から任務に就いている2班以外のみんなも来てくれていた。

 特に前にクリフォードを失くした1班の人は私たちの気持ちをよく分かってくれているのか、自分たちのことを思い出しているのか、それともパーシヴァルの同期がいるのか、泣いている人もいた。

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